多様性に富んだ働き方が認められるようになり、男女の雇用機会において、従来と比べて大きな差が生まれにくくなっている。化粧品に関する販売、研究などでも男女が協力し合う姿は珍しくない。
そのような現在において女性社長が活躍し、お客さま一人ひとりの思いに応えるための化粧品を提案し続ける企業として株式会社ポーラがある。
今回は、社員を「VALUE CREATOR」と定義し、独自の価値を提供し続けるポーラの及川美紀社長に思いをうかがった。
新卒入社した当時から女性が働きやすい基盤が整っていた
ーーポーラに入社したきっかけはどういったものでしたか?
及川美紀:
私は男女雇用機会均等法が施行された翌年(1987年)に入社しました。当時の社会情勢としては、まだ女性が結婚や出産後に働き続けることは一般的ではなかったのですね。
入社したきっかけのひとつは、私が結婚や出産後も働き続けられる会社を求めており、親に無理を言って奨学金で大学に通った経験から、長期間働く必要があると考えていたという点です。
当時のポーラは、入社の男女比率が半々でした。ライフステージが変わっても働いている人が多く、管理職にも女性がいたため、ここでなら長く働けると思った記憶があります。
もうひとつの理由は、自分の肌の悩みを化粧品で克服した経験があったからです。肌に関しては私もしばらく悩んでいたのですが、肌を変えられるということは魅力的なことでした。
困難を「扉=新しい可能性」として前向きに思考を変換する
ーー及川社長はエリアマネージャーやマーケティングなどを経験したとうかがっております。苦労した面や困難だと感じた面はありますか?
及川美紀:
苦労した面はあるものの、壁にぶつかるのはよくあることだと思います。ただ、私は「壁」というよりも「扉」に近いイメージを持っていますね。「壁を乗り越える」のではなく、「扉を開けて新しい可能性を周囲とともにつくる」ことを意識しています。
そのためには、自分自身で扉を開けようという意志が必要です。一人で開けるのではなく、周りの人たちと協力して開けることがより大切だと感じています。
対話を行いながら、ゴールを示し、「あなたならどうする?」と問いかけることで、相手が自分で考える力を育て、成果を2倍、3倍に増やすことを考えています。
創業以来、「一人ひとりにあった商品づくり」というDNAを受け継ぐ
ーー会社の特徴についてお聞かせください。
及川美紀:
ポーラは、1929年に創業者の鈴木忍が、手荒れした妻のために最高の材料を使ってハンドクリームをつくったことがきっかけで創業しました。
また、弊社は「Science. Art. Love.(サイエンス。アート。ラブ)」を独自の価値としています。サイエンスは最新の方法で最高の材料を使うこと、アートは商品やサービスをつくり出すこと、ラブは大切な人に手渡すことを意味します。ポーラは今でも「手渡し」の精神を大切にし、主に訪問販売という形で商品を届けています。
創業者の言葉に「美しさを販売して、商品を奉仕せよ」という言葉があります。私たちは物を売るのではなく、お客さまの美しさを引き出すことが仕事であり、商品はそれをサポートする役割であるという内容です。この精神は創業以来、ずっと根付いていますね。
弊社のカウンセリングエステが象徴するように、肌分析を行い、一人ひとりのあった商品をつくるという、「個人」を大切にするDNAが受け継がれています。
ーーカウンセリングはどのような内容なのでしょうか?
及川美紀:
お客さまに「どんなお肌になりたいですか?」と聞く、美しさを引き出すカウンセリングを心がけています。目標を聞いて、そのための方法を提案します。
ネガティブな悩みもポジティブなゴールに言い換え、化粧品を使う際には未来の肌を想像するよう、お客さまに指導をしています。一人ひとりの希望を明確化し、イメージしやすいゴールを設定すると、より効果的に化粧品を使ってもらえるからです。
社員の持続可能な働き方を尊重する取り組みを加速
ーー社内教育にはどのように取り組んでいますか?
及川美紀:
ポーラでは、社員を「VALUE CREATOR(驚きと感動のクリエイター)」として位置づけ、各社員が企業理念にのっとった価値を生み出すことを期待しています。ポーラの独自価値「Science. Art. Love.」をどう解釈し、価値を生み出すかを問うということを行っていますね。科学的探究心と挑戦で革新を生む「Science」、卓越した美と技で驚きと感動を生む「Art」、一人ひとりの人間を尊重して愛あふれる関係を築く「Love」という私たちの言葉から発展させた解釈を伝えてほしいと思います。
ーー社内で掲げている目標はあるのでしょうか?
及川美紀:
業務目標の25%を中長期変革目標に充て、社員が自由な発想でポーラに変革をもたらすことを奨励しています。社内改革として、人事部が「尖れ、つながれ」というスローガンのもと、社員が自らのWILL(意思)を磨き、互いにつながって変革を進めることを目指しています。
創業100年を迎える2029年に向けて、弊社は社会とのつながりを通じて社員一人ひとりの可能性を広げ、それぞれが社会の永続的な幸福を実現することを掲げています。
ーー組織運営における課題はありますか?
及川美紀:
従業員の男女比はほぼ半々ですが、管理職に占める女性比率はやや少ない状況です。女性がもっと能力を発揮できるような支援の実施やジェンダーバイアスの解消を目指しています。
2029年までに管理職の男女比を50対50にすることを掲げており、実力が伴っても発揮できていない社員の問題を解決することが目標です。ポーラでは「ポーラビヨンドアクション」と名付け、ジェンダーの壁を超えて誰もが活躍する社会を目指しています。
編集後記
肌の悩みを化粧品で解決できたことから化粧品業界に興味を持っていた及川社長。「Science. Art. Love.」のマインドを社員にも浸透させ、企業としては社会の永続的な幸福を実現することが大切であると語っている。一人ひとりに寄り添った商品提案を行う株式会社ポーラをこれからも応援していきたい。
及川美紀/宮城県石巻市出身。1991年、東京女子大学文理学部英米文学科卒業。新卒で株式会社ポーラ化粧品本舗(現:株式会社ポーラ)入社。美容教育、営業推進業務で経験を積み、埼玉エリアマネージャー、商品企画部長を経て、2012年執行役員、2014年取締役に就任。教育、マーケティング、商品企画、営業などの化粧品事業のバリューチェーンをすべて経験し、2020年1月より同社代表取締役社長に就任。社長職のほかにも一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの理事にも就任している。