※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

総務省の統計によると、2022年の転職希望率は14.4%で前年の13.7%を上回る結果となった。そんな中、離職率がほぼ0%という驚異的なデータを持ち、社員の働きやすさを重視しているのが化学品メーカー兼化学品専門商社のナガオ株式会社だ。

入社後3年で父親である先代の跡を継ぎ、同社の代表取締役に就任した長尾聡一郎氏。35歳で経営者となり、どのような思いで今日まで突き進んできたのだろうか。

前職の経験や社長就任後の社内改革や環境づくり、また今後の方針などについて話を聞いた。

社会人経験で学んだものの見方

ーー社会人として働く中で学んだことを教えてください。

長尾聡一郎:
最初に入社した化学メーカーでは、工場経理に配属されました。経理は数字を扱う業務ですが、数字の元になることは全て現場で起きています。現場で起こっていることと、その数字の繋がりを確認するためにも現場へ赴き、直接話を聞くことを心がけていました。

また、営業の方との仕事も多かったのですが、営業から出される販売予測に精度がなく、時折困ることがありました。入社して4年目に営業へ異動になり、自分が販売予測を立てる側になって初めてその難しさを知りました。

経理と営業の両方を経験することで、一方のものの見方だけでなく他方からも見ることが重要だと実感しました。また、お互いの考え方に齟齬が生じないように、情報共有を大事にすることも学びました。

ーー貴社に入ってからはどのような業務を行っていたのですか。

長尾聡一郎:
ナガオに入社後は、各部署を回り、工場では三交代の勤務も経験しました。営業では担当者と一緒に顧客のところへ赴き、その営業方法を間近で観察しました。社長に就任するまでの3年間で、実際に現場を見て全体の動きを把握することに注力しました。

社長就任後はペーパーレス化で生産性を向上

ーー経営者としてはペーパーレス化などDXにまつわる取り組みの功績がありますが、どのようなきっかけで始めたのですか。

長尾聡一郎:
私が楽をしたいタイプであることが大いに影響していると思います(笑)。「楽をしたい」というのは単にサボることではなく、「アウトプットはそのままでインプットを削減したい」ということです。

たとえば、稟議のたびに膨大な資料を印刷したり配布したりすれば、手間や時間がかかりますし、決裁する間に紛失する懸念もあります。「いっそ全てを電子化して進めた方がお互いに楽ではないか」と思ったことがきっかけでペーパーレス化を始めました。

「誰もがそう思っているにもかかわらず、現場では何も変化がない。それならば私が率先して取り組もう」と思ったのです。

会社が成長するために必要なものとは

ーー貴社の魅力を具体的に教えてください。

長尾聡一郎:
社員の多くが真面目で優秀、さらに人柄が良いことです。人柄が良いというのは、誠実で、相手の立場になって物事を考えることが出来る人、という意味です。社員が弊社の一番の魅力といえるでしょう。

福利厚生では、「社員と会社の相互成長」という経営理念のもと、さまざまな経験を積むためのサポートがあります。旅行補助の他に、本の購入時に1万円までを補助する制度もあります。中には、漫画の「スラムダンク」を購入した社員がいました。漫画を通じて「何かを頑張る熱い心」が芽生えることになれば、1万円という金額は決して高くはないと思います。

また、弊社は国や県から、健康経営やワークライフバランスの推進においても表彰を受けるなど、従業員が働きやすい環境づくりに努めています。たとえば、男性社員に子供が産まれる際には5日間の育児のための特別休暇をとることができます。休暇取得の際は、食事・洗濯・買い物から赤ちゃんの世話まで全て父親がして、出産を終えた奥さまの休暇となるように、と伝えて送り出しています。

ーー今後注力したいことはなんでしょうか。

長尾聡一郎:
弊社の製品は国内でトップシェアを誇り、品質は世界一だと自負しています。最近では、ナトリウムイオン電池で権威ある大学の研究室で使用され、海外からも問い合わせが来るようになりました。これからは国内のみならず、海外へも目を向けていく方針です。

ビジネス面では、水硫化ソーダ・硫化ソーダのラインナップを揃え、顧客満足に繋げていくこと。また、お客様に対する供給の安定性を高めることにも注力していきます。特に、近年は地震や災害が増えてきております。お客様に安心して使用いただけるよう、安定供給のための様々な対策を現在進めております。

人を育てることにも注力

ーー社員育成のために具体的に行っているプロジェクトはありますか。

長尾聡一郎:
「N100変革会議」や「Xアカデミー」というプロジェクトを行っています。

「N100変革会議」では若手〜中堅社員を5人集めて、擬似の取締役会を開いています。さまざまな部署から集められた5人が、1年間の任期で会社のことを考えます。その会議で出た案は、実際の役員会で審議し採用されることもあります。社員ではなく取締役の立場で考えることで、視座を高く、会社全体を考えてもらうことが狙いです。

「Xアカデミー」は県内の経営者有志で立ち上げたもので、お互いの会社の幹部候補生を出し合って勉強する会のことです。様々な講師をお呼びして、同じような立場の他社の方と意見を交換することで、視野を広げることを目指します。

ーー社員の方とコミュニケーションをとる際に心掛けていることがあれば教えてください。

長尾聡一郎:
私は「貞観政要」という、中国の歴史書をよく読み返します。これは、貞観の治という非常に平和で治まった唐の時代の治世の要諦が書かれている本です。この本では、部下が皇帝に対して諫言しやすい状態を作り、皇帝はその声にきちんと耳を傾けていた、という内容が書かれています。今、話題になっている『心理的安全性』の考え方が、今から1400年ほど前に記されていることに驚きです。

私もこの本にならって会社を経営していきたいと思っており、社員とは年に2回、1時間程度の面談を行い、ざっくばらんに話せるような環境づくりにも気を配っています。日頃から各部署や工場を回って雑談をしたり、イベントの打ち上げに参加したりしてこちらから積極的にコミュニケーションをとるように意識しています。

ーー20代30代の方に向けてメッセージをお願いします。

長尾聡一郎:
最近は配属ガチャという言葉が有りますが、許容できる不満であるならば、すぐに転職するのではなく、まずは挑戦して、経験を積んでほしいと思います。

これから先、AIが発達していき、どの仕事が無くなるか分かりません。その時に、思いも寄らなかった配属先の経験が生きるでしょう。

視野を広く、様々な事柄に興味を持って、まずは任された仕事を精一杯頑張って欲しいと思います。

編集後記

会社が成長するためには「人」が重要だと考える長尾聡一郎氏。その思いを次々と行動に移し社員の成長につなげている。

海外進出を目指しつつ、製品の品質向上とお客様への供給安定性を高めるための努力は決して忘れていない。ナガオ株式会社という名が国内や海外で認知される日も、そう遠くはないだろう。

長尾聡一郎/1980年岡山県生まれ。岡山大学大学院自然科学研究科修了。2005年に住友化学株式会社に入社。大阪工場経理、東京本社化成品事業部で計8年間の勤務の後、2013年にナガオ株式会社に入社。2016年に同社代表取締役社長に就任。岡山商工会議所1号議員。