「ありがとうの溢れる会社」を目指し、支え合うという意味を含む社員の「仕合せ(幸せ)」を通じて社会貢献することを企業理念に掲げる株式会社森長工務店。
同社の代表取締役、森長敬氏はこの企業理念を実現するために、代表に就任してからさまざまな社内改革に取り組んできた。
40年余り前の入社直後に行った社内意識調査で「この会社で一生働きたいと答えた社員が1人しかいなかった」と話す森長氏だが、一体どのようにして社員の士気を高めることに成功したのか。社内改革の取り組みや経営者としての考え方を聞いた。
社員と顧客の双方が満足するように社内改革を実施
ーー就任後、どのような点で苦労がありましたか。
森長敬:
苦労したことの1つは、社員の士気の低さの改善です。私が弊社に入社したばかりの頃は多くの社員が辞めていき、士気を上げるのには大いに苦労しました。
もう1つ苦労した点が、集金についてです。当時はお客様に満足してもらう仕事をするという意識が社内に浸透しておらず、とにかく検査を通すことが目的になっていました。
そのため、私が客先へ集金に行くと、お客様から工事の仕上がりについて文句を言われることも多かったのです。お客様が言っていることは正しかったですし、私自身も「確かにこんな仕事にお金を払いたくないだろう」と感じたのを覚えています。
この2つの経験を通して、いつか社員が定年で退職するときに「この会社で働けて良かった」と思ってもらえるようにしたい。そして、お客様に喜んでお金を払ってもらえるような会社にしたいと強く感じるようになりました。
顧客への手厚いフォローで数十年先まで続く関係を構築
ーー実際にどのようなところから改革を始めたのでしょうか。
森長敬:
最初に始めたのが、お客様へのアフターサービスを充実させる専門部署の設立です。
私は一度ご縁があったお客様とは、一度きりでなく、ずっと縁が続くような関係を築きたいと思っています。建築は大きな買い物になりますので、毎年注文をくださるケースはほとんどありません。そのため、何十年後かにまた注文をもらえるように、一度関係ができたお客様とは手厚いフォローによって、良好な関係を築いておくことが大切です。
会社の目的は、社員が仕事を通じて幸せになること。では、その幸せとは何かというと、良い人間関係に恵まれることではないかなと。
お客様や協力業者、社内の人間関係が良い中で、社員は自分自身の居場所を見つけることができます。お客様との関係性を安定させることが会社の安定にもつながりますし、最終的に社員の幸せにもつながると考えているのです。
社員同士の表彰式を通して感謝の気持ちを育む
ーー入社当時には、社員の士気の低さにも苦労されたとうかがいましたが、その点についても何か改革を行われたのでしょうか。
森長敬:
何よりも力を入れて取り組んだのは、企業理念の浸透と企業風土の改革です。当社の朝礼では、理念唱和、個人目標の黙読、読書会、瞑想と内容は盛り沢山です。随分時間をかけますが、理念の浸透や風土の改革には効果があったと思います。
また、年に一度社員同士の表彰式を行うのですが、昨年は40人の社員から1,000を超える表彰状が出ました。それだけお互いに関心を持ち合えるようになってきたのだと思っています。私自身も毎月社員一人ひとりに手紙を書いたり、同じく毎月主に若手社員と読書会をして、私自身の社員への関心を深めると共に、私の考えを伝えるようにしています。
人材採用のポイントは能力よりも企業理念への共感
ーー採用に力を入れているとうかがいましたが、貴社ではどういった人材を求めているのか教えてください。
森長敬:
求めている人材は、弊社の企業理念と企業風土に共感できる人です。私は採用の際に能力ではなく、弊社が大切にしていることに共感できるかどうかを最も重視しています。
同じ価値観の人材を集めるのは簡単ではありませんが、求める人材に集まってもらうためにも、弊社の価値観を明確にすることを意識しています。最初にはっきりと伝えることで、ミスマッチが起こらず、お互いが不幸にならずに済みますから。
編集後記
取材中、「物事をできるかできないかで判断するのではなく、やりたいかどうかで判断することが大切」と語った森長代表。これからを担う20代、30代の若手へは「1回きりの人生、真剣に生きることが大切」と熱いメッセージを送った。
人と人との関係が希薄になりつつあるこの時代だからこそ、森長工務店のような「ご縁」を大切にする会社が必要なのだろうと取材を通じて感じた。
森長敬(もりなが・たかし)/1954年大阪生まれ、神戸大学卒。新日本製鉄株式会社に入社し、5年勤務の後1982年に株式会社森長工務店入社。1984年に同社取締役就任、1998年代表取締役就任。就任後独自の改革を進め、建設後のお客様アフターサービスを充実させるため専門のフォロー部署を新たに創設。また経営哲学を深め、理念による経営を推し進め、人材教育にも注力する。地域貢献として社会福祉法人の設立にも寄与し、現在に至る。