※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

側島製罐株式会社は、明治時代創業の製缶メーカーだ。ブリキ缶・スチール缶の製造・販売を手掛け、主に海苔や鰹節の保存缶をメインに100年以上、缶の製造をしてきた。

2022年には新商品「Sotto(ソット)」を発売し、SNSでも大きな話題となった。

今回は代表取締役の石川貴也氏に、就任までの経緯や苦労したエピソード、「Sotto」開発秘話、求める人物像などについて話をうかがった。

コロナ禍で社員が疲弊していた入社初期

ーー貴社の代表取締役に就任するまでの経緯を教えてください。

石川貴也:
リーマン・ショックが起こった年に留学をしていたのですが、海外に日本製品がない様子を見て日本の産業の危機を感じました。

そして、「日本を支えている中小企業を支援する仕事をしたい」と思い、大学卒業後に日本政策金融公庫に入社しました。

そこで約10年間働いていたのですが、コロナ禍の2020年4月に父が経営していた弊社に入社することになり、2023年4月に代表取締役に就任しました。

ーー入社後に苦労したエピソードがあれば教えてください。

石川貴也:
コロナ禍に入社したので、大赤字で軋轢も多く、雰囲気の悪い状態でした。会社にお金がないこと以上に、社員が苦しげに働いていたことが一番辛かったですね。

当時はトップダウンの環境で社長や現場責任者の顔色をうかがいながら仕事をしている環境だったので、社員の働く目的も不明瞭になってしまい、モチベーションの低下にもつながっていました。

このような環境を目の当たりにして、これを変えなければと強く思ったことを覚えています。

社内改革で、全員で会社をつくっていく体制を整える

ーー具体的にはどのような社内改革に取り組みましたか?

石川貴也:
裁量権を社員に渡し、皆が責任を持って仕事に取り組める体制に変えました。

以前は私自身が現場に行って指示を出すこともあったのですが、現場の状況を全て把握できていない人が口出しすることはおかしいことに気づきました。

たとえば、ある社員が工具を片づけていなかったとしても、それは仕事の1つの場面でしかありません。

たとえばこれが、誰かが急に怪我をしてその看病をするために工具をいったん置き、またすぐに戻ってくるつもりだったとしたら、片づけ忘れていたことを指摘するのは間違っているでしょう。

しかし、そのような背景や前提を無視して正しさや仕事の意義をいくら語ったところで「自分は信頼されていない」という意識を植えつけてしまうことにもつながるので、社員の皆を信頼して仕事を任せるスタイルに変えました。

また、働きたい人は残業をしてもいいですし、家庭の事情がある人は日中に一度仕事を切り上げてまた夜に仕事をしてもいいし、基本的に本人に裁量を持たせて任せるようにしています。社内はとても自由な雰囲気です。

細かいルールはなく、共通の理念や価値観に沿っていれば何をしても良いという環境を整えたことにより、今では社員も「信頼してくれている」という気持ちを持って仕事に一生懸命取り組んでくれるようになったと感じています。

ーー他に社内改革として取り組んだことはありますか?

石川貴也:
弊社は長い歴史のある会社であるにもかかわらず、会社の理念が存在していませんでした。

日本政策金融公庫で働いていたときは、「自分たちの仕事は融資を行うことではなく、企業の成長を支えることで社員やその家族の人生を支え、地域の未来を作っている」という共通の思想を皆が持っていました。

このような軸がなければ仕事の質を高めたり、楽しく働いたりできないと思い、皆でMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)をつくることにしました。

すると、皆から熱い意見がたくさん出て、社員の良心を実感することもできました。

そして、単に缶をつくるのではなく、缶に入れる思いを預かるという思いをこめて、「宝物を託される人になろう」というビジョンを完成させました。それによって皆が同じ方向を向き、同じ価値観を持って仕事に取り組めるようになりました。

その結果、「全員で会社をつくっていこう」という意識も芽生え、以前あった軋轢もなくなり、良い雰囲気の職場環境をつくることができたと思っています。

価格競争から抜け出して開発した新商品「Sotto(ソット)」

ーー新商品「Sotto(ソット)」について教えてください。

石川貴也:
通常の缶の値段はとても安く、1缶の平均は100円程です。

安さも競争力の一つなので蔑ろにはできませんが、常に相見積で価格だけで競争していても、中規模の弊社に生き残る道はありません。

このまま安さ重視で缶を売り続けても生産コストに見合わず、赤字続きになってしまうと思ったので、価格競争から少しでも抜け出して「缶っていいよね」「側島製罐につくってほしい」といってもらえる仕組みをつくるしかないと考えるようになりました。

その一環として開発したのが親子の絆を深める缶「Sotto」という製品です。親がへその緒、ファーストシューズ、おしゃぶりなど子供の大事な思い出をしまう姿を作ることによって、それを見た子供が親からの愛情を感じて、親子の絆を深めることができる、という商品です。

たとえば、ディズニーランドに行ってお菓子などが入った缶を買って帰り、その缶に入れたものを家で見て楽しかったことを思い出す、という経験をしたことがある人は多いと思います。
このように今後は「缶にものを入れることで大切なことに気づくきっかけをつくる」ことをテーマに商品をつくっていきたいと思っています。

「Sotto」は約3000円の価格で販売していますが、通常1缶100円程度という常識を破る大きな挑戦となりましたが、広報でも大きな反響があり、缶の良さを知っていただいたり、弊社についても知っていただくきっかけになって良かったと思っています。

共感力と誰かのために頑張れる力を持つ社員に入社してほしい

ーー貴社が求める人物像について教えてください。

石川貴也:
共感力があり、誰かのために頑張れる人に入社してほしいと考えています。

弊社では「誰かが喜ぶ姿を見るために頑張れる」という熱い思いを持った社員が働いているので、同じ熱量を持った方と一緒に働きたいと思っています。

今は中途採用がメインですが、今後は新卒採用にも力を入れていく予定なので、弊社に少しでも興味を持った方はぜひ応募してほしいですね。

ーー最後に学生や若手人材に向けてメッセージをお願いします。

石川貴也:
責任の大きさや裁量がやりがいや生きがいに直結することを、私自身が複数の会社を経験する中で実感してきました。

会社規模や福利厚生などももちろん大切ですが、それだけではなく、会社を選ぶ基準として裁量の大きさや責任の大きさを意識すると良い仕事選びができると思います。

編集後記

コロナ禍での入社となり、大赤字で社員も疲弊している状況下で社内改革を進め、全員で会社をつくっていく体制を整えた石川社長。

価格競争の現状から抜け出して開発した新商品「Sotto」を転機にブランド力を高め、缶を通して多くの人に「大切な思い出」を届けている。

ミッション、ビジョン、バリューを社員皆で共有したからこそ、新しい方向性に歩みだすことができた側島製罐株式会社に、今後も注目していきたい。

石川貴也/愛知県出身。2011年に日本政策金融公庫に入庫。事業企画部、内閣官房への出向など、キャリアを積む。2020年に父が経営する側島製罐株式会社に入社。2023年4月に同社代表取締役に就任。現在は、会社を“コミュニティ”と定義し、自律分散型組織を目指して経営をしている。