
太華工業株式会社は、山口県に本社を構えるステンレスの研磨・加工・販売を手がける企業である。同社のステンレス製品は素材選びから研磨技術、表面処理技術までを組み合わせ、高い意匠性と機能性を兼ね備え、多岐にわたる分野で使用されている。同社が展開する3つの事業とその強み、そして「ステンレスの可能性」をどのように広げていくのかを代表取締役社長の中川智加良氏にうかがった。
戦略と現場をつなぐ視点で挑む、変化を導く経営者の軌跡
ーー今までの経歴を教えてください。
中川智加良:
慶應義塾大学卒業後、2001年に日本アイ・ビー・エム株式会社(IBM)に入社し、人事部門に所属していました。IBMでは当時最大の部門であったサービス事業の人事スタッフとして、評価や異動・昇進といったプログラムに携わり、人事部門のITツールの開発なども行ってきました。またPC部門の売却にともなって、レノボ・ジャパンに出向して、人事業務全般を担当する経験もしました。
2007年に父が経営する太華工業に入社し、在職中に慶応義塾大学大学院で経営戦略を中心に学び、MBAを取得しました。入社後はビジネス書『ザ・ゴール(※)』で紹介されたTOCという理論で工場の生産性の向上に取り組んだり、展示会出展やウェブサイトを活用したマーケティングに注力してきました。
2011年から2017年までは地元の青年会議所活動にも参加し、理事長も務めました。2018年に代表取締役社長に就任し現在に至ります。
(※)製造業向けに「制約理論(TOC:全体最適のマネジメント理論)」を解説した本。著者はイスラエルの物理学者、エリヤフ・ゴールドラット
国内トップクラスのシェアを誇るステンレス研磨技術
ーー事業の内容を教えてください。
中川智加良:
弊社は創業以来、一貫してステンレスに携わり、以下の3つの事業を展開しています。
まず、構内業務事業は、弊社の創業事業で、日本製鉄山口製鉄所にて諸作業の委託を受け、ステンレスを生産する業務の一端を担っています。
次に、ステンレスコイルセンター事業では、ロール状のステンレスを板状に加工し、お客様のご要望に沿った寸法で提供しています。
最後に、ステンレス研磨事業では、ステンレス板に高品質な研磨仕上げを施し、エレベーターの内装やビルのエントランスなどにご活用いただいたり、電子部品・半導体分野などのお客様へ提供しています。
特にステンレス研磨分野では国内トップクラスのシェアを誇っており、電子部品や半導体産業での需要が拡大しています。
ーーステンレス研磨事業の強みはどこにありますか。
中川智加良:
最大の強みは、お客様のニーズを的確に把握し、試行錯誤を繰り返しながら、目的にあった製品を提供できることです。特に電子部品や半導体関連のお客様は、最初からどのようなステンレスが必要かわからないことがあります。仮説を立てた上でステンレス研磨品を提供し、お客様でテストを実施して、そこからより精度の高めるためにさらに新しい提案をして、と試行錯誤を繰り返しながらステンレス研磨品を提供しています。
加えて、質の高い製品を安定的に量産できることも弊社の強みです。国内屈指の生産能力を誇り、100枚・200枚単位のロットでも高品質を維持しながら、安定した品質と納期を実現しています。弊社は60年以上にわたりステンレス研磨に携わり、豊富な経験と知識を蓄積してきました。多様な研磨設備を活用し、お客様のニーズに最適な表面仕上げを提案・提供しています。
ステンレスの可能性をさらに広げ、地域と業界に貢献

ーーこれから目指したいことを教えてください。
中川智加良:
私たちは、ステンレスの材料を扱うビジネスを展開しています。裾野は広いですが、一方でステンレス材料の市況に業績が大きな影響を受けてしまいます。そのため、既存の事業に加え、市況に左右されない分野の市場を開拓することが、強い企業づくりにつながると考えています。
ステンレスは、実用化・量産化されてからわずか100年余りのまだ若い素材です。私たちがまだ気づいていない新たな用途が、今も数多く眠っているはずです。そこで、展示会やウェブサイトを活用したり、営業担当者がより多くのニーズをお客様から集めてくることで、新しい用途開発を行い、より強い事業基盤を築くことが、直近の目標です。
ステンレスの可能性を広げる新たな挑戦
ーー今後の展望について教えてください。
中川智加良:
今後は、地域社会と業界への貢献を重視しながら、ステンレスの価値をより多くの人々に伝える活動を強化していきます。また、研磨技術を活かした新製品の開発にも引き続き挑戦し、さらなる技術向上を目指します。たとえば、2024年3月には、日鉄ステンレス(現:日本製鉄)と、地元企業の徳山興産との三社共同で、周南市の徳山駅前に新設された複合施設「TOKUYAMA DECK」にステンレス製モニュメントを寄贈しました。弊社が研磨を担当したこのモニュメントは、広場やエレベーターホールに設置され、シンボルとして人々の目を引く存在となっています。
日本の人口減少に伴い、将来的にステンレスの需要減少が懸念されるものの、ステンレスが持つ特性を活かした新たな用途の可能性は広がっていると感じています。今後は異業種とのコラボレーションを積極的に推進し、ステンレスの可能性をさらに広げるとともに、企業の成長にもつなげていきたいと考えています。
編集後記
ステンレス研磨において、国内トップクラスのシェアを誇る太華工業。今後はさらなる高みを目標にしている。中川社長が高い目標を掲げるのは、ステンレスの可能性を広く人々へ伝え、地域や業界の将来に貢献したいという熱い思いがあるからだろう。ステンレスを通じてどのように社会を変えていくのか、同社の今後の動向に注目したい。

中川智加良/1977年山口県生まれ。2001年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。人事部に所属し、主に評価制度の運用や人材育成業務に携わる。2007年に太華工業株式会社に入社し、在職中に慶應義塾大学大学院にてMBAを取得。2011年同社取締役、2013年に専務取締役を経て、2018年同社代表取締役社長に就任。