※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

1985年に創業後、人事労務の総合コンサルティング会社に成長し、今や200人以上の従業員数を誇るTMCグループ。自社で独自のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の開発に乗り出し、社会保険労務士の定型事務業務を自動化するなど、ソフトウェアロボット技術も積極的に導入している。創業者で同社の代表を務める岡部正治氏は、「高性能のロボットが開発されたとしても、会社の宝は“人”」と明言する。その経営哲学や人材活用に対する思い、今後の展望を聞いた。

わずか数人の事務所からスタートしたTMCグループ

ーー創業の経緯についてお聞かせください。

岡部正治:
グループを設立する前は、公務員として働いていました。「社会保険労務士とは一体何をする仕事なのか」ということもよく知りませんでした。創業は1985年。最初は妻と数人のパートの小さな会社でした。社会保険労務士の資格を取得後、東京の上野駅前にある共同事務所「社労士センター」に籍を置いて開業しました。

東京では、当時日本に上陸したばかりのマイクロソフト社の給料計算を市販のオフコンなどを使って、人事労務関係の仕事をしていたこともありました。

能力や学歴よりも大切なのは意欲、これに勝るものはない

毎年、埼玉、栃木、福島、宮城、岩手(7カ所)で顧問先に向けて行われているTMC研修会。会長自ら、今、企業に求められる課題について講演を行う。

ーー貴社が人材育成で大切にしていることは何でしょうか?

岡部正治:
「意欲に勝るものはない」ということです。学歴や体力など、人それぞれ違います。同じ成果を出すのに必要な労力が他の人より3倍かかる人もいることでしょう。持っている能力に違いはあるものの、会社や仕事に情熱を何年も注ぎ続けられる姿勢があれば、一緒に働く仲間として合格だと思っています。

特に当グループの今の経営の柱になっている社員は、就職氷河期世代です。ラーメン屋の皿洗いをしていた人もいます。私はそういう人たちと苦楽を共にしながら、関係を築いてきました。

ーー活躍している人材の共通点はありますか?

岡部正治:
当事者意識がある点です。顧客との対話や商談、部下に対する教育やコミュニケーション、すべてにおいて「自分ごと」として考えられる人材が活躍しています。

また、何をするにしても自分なりの答えを持っていることも大切です。仕事をする上で相談や提案、他社・他人・他の仕事との比較などができる人はたくさんいます。しかし、自分なりの考えを持っている人は意外と少ないですね。自分なりの考えを指標として行動できるかどうかが、大きな差を生んでいると思います。

ーー採用時にどんなことを期待していますか?

岡部正治:
私は採用の際に「自分に自信を持って、自分の経験を会社に伝えてほしい。そうしないと採用した意味がない」と伝えています。

例えば、「事務」といっても営業事務と人事事務など、いろいろな種類があります。ですから、最初に「何がいいか?」と聞かれてもわからないのが当たり前です。新卒採用に関しては1年間、働いてもらった後、各自の適性を見ながら配属しています。

キャリア採用に関しては、面接でよほどのことがない限り、採用しています。まずは仕事を任せて、適性を見ていけばいいのです。

ロボットでは担えないアナログ価値を顧客に提供していきたい

ーー今後の事業展望についてお聞かせください。

岡部正治:
私たちは経営規模を拡大するというよりは、地域に密着して貢献したいと考えています。

そして、今は、原点に戻って「何のために私たちの仕事があるのか」ということを見つめ直す時期だと思っています。たとえば、専門性に特化した、包括的な労務相談ができるようなAIシステムも開発されており、作業だけならシステムでもこなせてしまう時代になっているからです。

こうした時代に、事業主が求めているのは、後継者問題や人材採用戦略といった人にまつわる悩み、経営の悩みを解決するためのサポートです。「社員を増やさないとサービスが行き届かなくなる」と悩む経営者は、少なくありません。私たちは、このような経営者を支えることに注力していくべきだと考えています。

編集後記

先進的なITシステムを人事労務業務に導入しているTMCグループ。「人ができる業務はロボットやシステムが担えばいい」と人間力よりもシステムを重視する経営方針かと思いきや、その内実は全く逆だった。「企業は人なり人は財なり」という経営理念を掲げる代表の岡部正治氏が「人にしかできない仕事がある」と語っていた姿が印象的だった。

岡部正治/1950年、福島県生まれ。青山学院大学大学院を卒業。特定社会保険労務士・社会保険労務士・行政書士など。1985年にTMCグループを創業。人事労務コンサルティングを中心とした事業を展開し、グループ会社に社会保険労務士法人や行政書士法人、労働保険事務組合などを有する。グループ全体の従業員数は210名(※2024年2月時点)。社会保険労務士業界全体の活性化のために、ロボットを活用して業務を自動化するRPA開発にも注力している。2021年、労働行政への貢献が評価され、秋の叙勲で旭日章を受章。2023年、一般社団法人全国労働保険事務組合連合会会長に就任。