乳製品業界は、大手3社が市場の過半数を占めるという調査結果が公表されている。一一方、大手が進出しにくい領域や技術力によってニッチで活躍している会社がある。
1918年(大正7年)創業の守山乳業株式会社は、日本で初めてビン入りの珈琲牛乳を販売した老舗だ。一般消費者の知名度は決して高くないが、業務用食品の品質には定評がある。
2023年、6代目社長に就任したのが大塚洋司氏だ。老舗企業の伝統を引き継ぎながら、困難を乗り越え、新しい挑戦に取り組む大塚氏。彼へのインタビューによって、同社が掲げる経営戦略に迫る。
銀行で体得した営業力で、大口顧客を新規開拓
ーー学生時代から入社までの経緯を教えてください。
大塚洋司:
父が先代社長(現会長)なので、学生の頃から会社を継ぐイメージを持っていました。しかし、最初から親を頼るのは嫌だったので、自分の力で経営に必要な能力を習得するために大学卒業後は銀行に就職しました。
法人営業を担当しましたが、主に融資業務を通じて財務諸表の見方などを身に付けました。単なる知識だけではなく、経営者に直接会う中で、実体験として学べたことが良かったと考えています。そして、銀行に5年半勤務した後、父のあとを継ぐために守山乳業への入社を決意しました。
ーー入社後はまずどのようなことに取り組みましたか。
大塚洋司:
入社当時は外食向けの営業活動がメインでしたが、大手外食チェーンとの取引が少なく、この分野を伸ばしたことが最初の取り組みでした。
それまでの販売ルートでは卸売業者を通しての営業ばかりでしたが、大手チェーン店と直接商談して新規顧客を獲得しました。銀行員の時は飛び込み営業が当たり前だったので、その経験が生きました。そして、現在も専門のチームを作って新規顧客の開拓について強化しています。
大手にはできない、ニッチならではの強み
ーー貴社製品の特徴や強みは何でしょうか。
大塚洋司:
大手と差別化して独自の製品群に特化しているところが特徴です。社名に「乳業」と付きますが、牛乳そのものは販売しておらず、牛乳を主原料とした加工食品を製造販売しています。特に得意なものが無菌充填で、常温でも腐らず長期保存できます。
また、業務用のココアは業界トップシェアです。濃くておいしいのが強みですが、濃度が高くなるほど無菌処理が難しくなります。弊社の無菌技術は元祖珈琲牛乳の大正時代から受け継がれてきました。そのように、技術力で、大手が進出しにくい領域をカバーしています。
ーーどの分野に注力していますか?
大塚洋司:
現在の売上構成比は、外食向け・小売向け・BtoB向けがそれぞれ約3分の1になっています。事業の継続性を考えたときに、このバランスは非常に良いと思っています。実際、コロナ禍でも大きく売上を減らすことなく対応できました。
その結果、当面はこの構成を保ちながら、全体的に売上を伸ばすことを考えています。そして、社長に就任してからKPI(重要業績評価指標)を導入し、定量的な数値目標をもとに社員のとるべき行動を明確にしています。
過去の100年に甘んじず、常にチャレンジし続ける
ーー困難を乗り越えた経験はありますか?
大塚洋司:
若手社員の離職が続いた時期がありました。働き方改革やデジタル化といった時代に合う分野への対応が遅れていたことが原因でした。フレックス制度を導入したり勤怠管理などの書類を電子化して、若い人たちが働きやすい職場環境を整えました。
その結果、従業員からの評価を得られ、離職の流れを食い止めることができました。もちろん、これからも社員の声を聞いて、職場環境を改善していこうと考えています。
ーー将来の展望について教えてください。
大塚洋司:
弊社は古くから続く企業であると同時に、いつも新しいことに挑戦してきました。過去の歴史に甘んじず、時代に合わせた取り組みをしております。たとえば、カーボンニュートラル達成に向けて2025年に温室効果ガス50%削減(2013年比)を国の目標に先駆けて実現します。
売上高や取扱製品は共に拡大していますが、弊社はまだ発展途上です。将来は誰もが知るようなヒット商品の開発を実現します。100年前の製品について取材を受けることが多いのですが、これからつくる製品も100年後に取材されるものにすることが私の使命だと考えています。
ーー貴社が求める人材はどのような方でしょうか。
大塚洋司:
食品メーカーなので「食」が好きであることは大前提です。そして、私たちがもっとも一緒に仕事したいと思うのは、自ら積極的に思いを発信する人です。
風通しの良い組織なので、役職や部署を越えてコミュニケーションを取り、ボトムアップ型で意思決定を行っています。
弊社では、一人ひとりの活躍が会社全体に与える影響が大きいので、やりがいの大きな仕事や挑戦したい仕事を実現できるチャンスがたくさんあります。私たちと一緒にチャレンジしたいという強い思いのある人を歓迎します。
編集後記
守山乳業が創業してから約1世紀。震災や戦災などの数多くの苦難を乗り越えて事業を存続してきた。長い歴史をもつのは、「伝統を守り続けたから」だけではない。かつての経営者たちは、時代に合わせて新しいことに挑戦し続けたのだ。同社の精神は新社長に受け継がれた。次の1世紀はすでに始まっている。
大塚洋司/1985年5月22日、東京都生まれ。学習院大学在学中はアイスホッケー部で活躍。2008年、同大学卒業後、株式会社三井住友銀行入行。2013年、守山乳業株式会社入社。2023年12月、同社代表取締役社長に就任。