※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

異常気象や地球温暖化が日々の大きな課題となる中、限りある資源や環境の持続可能性は私たちの生活に直結する重要なテーマだ。この重大な時代の転換点において、こうした環境問題は単なる業界の課題を超え、全人類共通の切実なテーマへと転換している。

そんな中、事業を通じて環境への深い配慮を見せるのが、横浜植木株式会社だ。同社の中心には、研究農場で磨き上げられた卓越した技術力を駆使して種なしピーマンの開発に成功した、代表取締役社長の伊藤智司氏がいる。

今回のインタビューでは、伊藤氏の考える環境問題への前向きな解決策と横浜植木が推進する緑化事業の重要性についてうかがった。

研究農場で培った確かな技術力で、種なしピーマンを開発

ーーまずは、貴社の事業内容を教えてください。

伊藤智司:
「種苗」「園芸」「造園」の3つの事業を展開しています。種苗事業では野菜の種の開発から販売、園芸では弊社で開発した園芸用品や花苗、あるいはメーカーの園芸用品や花苗を販売しています。造園では、横浜市内を中心にした造園工事、公園などの指定管理者としての管理運営、マンション・ショッピングモール・公共施設・個人宅等の地域のグリーン事業などを全般的におこなっていますね。

ーー貴社の強みについてお聞かせください。

伊藤智司:
これまで長年培ってきた開発の技術力と品質の高さです。もともと、私は野菜や花の開発をする静岡の研究農場に33年間勤めていました。

ーーピーマン品種開発では、「タネなっぴー」の開発に至ったとお聞きしました。

伊藤智司:
そうなんです。私が、開発のキャリアの中で最初に担当したものがメロンでした。その後、大根、ピーマンも担当しました。今から約30年前でしょうか。栽培している中で、花粉の出ないピーマンの株を見つけました。突然変異のものが、たまに見つかるんです。ただ、花粉が出ないゆえに、維持できないケースが多いんですね。

遺伝子にまつわる詳細を話すと難しくなるので省略しますが、そのピーマンの形質を維持する技術を開発しました。当時ピーマンやパプリカでは、そういった技術がまだ確立されていませんでした。結果、長年続けた研究が実を結び、非常に珍しいということで、業界や顧客にも高く評価をしていただきました。

130年以上の歴史の中で受け継いできた、社会の問題点を把握する姿勢

ーー社長は30年以上静岡で商品開発などを続けてきましたが、この会社に就任したきっかけや思いについて教えてください。

伊藤智司:
大学時代に農学部で植物の遺伝学を勉強し、野菜や花、多肉植物、動物まで、さまざまな生き物について学びました。遺伝に大変興味を持ったことで、将来そのような職業に就きたいと思っていました。就職先を探している中で、静岡県の実家の近くに横浜植木の研究農場があるのを見つけ弊社に就職しました。

ーー会社に入ってから社長が大切にされてきた思いについて教えてください。

伊藤智司:
弊社は1890年に創業し、1891年に株式会社化しました。植物を主軸にした事業を継続しており、日本の園芸植物を輸出したり、海外の植物を輸入するなど、植物に関する事業を現在も展開しております。長い歴史の中、社会の変化に合わせ事業は変わっています。今後も社会のニーズを把握し、社会に貢献できる事業を模索していきたいです。

厳しい時代もありましたが、「夢を植える。未来を育む。Well future together」というビジョンをもとに、歩んでいます。

日本の農業の新しい未来を切り開くのは「植物由来のプラスチック」

ーー伊藤社長が描く、この先の会社のビジョンを教えてください。

伊藤智司:
私たちはまず第一に、環境変化に適応できる野菜の品種開発を考えています。世界的な異常気象と地球温暖化は、非常に大きな問題です。地球の劣化を食い止めることはもちろん大切ですが、そのような中でも安定して生産できる品種が望まれています。

緑がなければ、人間や動物は生存できません。緑は唯一、二酸化炭素を酸素に変えてくれます。ですから、私たちは緑化事業を推進しなければなりません。暑さに強い品種の開発だけでなく、バイオスティミュラント(生物刺激剤。植物のダメージを軽減し、植物によい影響を与える物質や微生物)資材により、植物の生育をサポートすることも必要となっています。

また、現在の農業ではハウスやトンネルの被覆資材、マルチ、肥料成分を合成樹脂等の膜でコーティングした被覆肥料などを含め、大量の石油系樹脂が使用されています。また化学肥料や化学農薬も多く使用されています。これらをいかに削減するかが、課題です。

弊社は、カーボンニュートラル実現に向けて、日々小さな挑戦を重ねております。植物残渣などからつくれる、バイオマスプラスチック事業にも力を入れようとしています。これにより環境問題の改善に貢献できることを目指しています。

10年後、20年後、あるいは100年後、200年後を見すえて、きっと多くの人が危機感を持っているのではないでしょうか。この先、大きな戦争が起これば食糧難の危機に瀕するかもしれません。そんな中でも、弊社ではただ問題を眺めているだけではなく、自分たちでできることを見つけ、取り組んでいきたいと考えています。

ーー貴社が求める人物像についてお聞かせください。

伊藤智司:
熱く前向きに取り組める方です。それと小さくてもいいから、常に目標を持てる方ですね。どんな事業をやっていても、大変な時もあるのでポジティブな熱意は大事です。

弊社は、3〜4年前から採用活動にも力を入れています。インターンシップも早いうちから積極的に開催しています。公式サイトの採用ページも会社のことを深く理解していただけるような内容になっていると思います。そういった部分から、十分に会社を知ってもらったうえで、納得して入社いただければうれしいですね。

編集後記

横浜植木株式会社の取り組みの中には、ただ単に製品を開発し、市場に供給するということ以上に、深い社会貢献と環境への配慮がある。伊藤智司社長の言葉からは、130年以上にわたる会社の歴史と伝統を大切にしながらも、常に時代のニーズに応え、社会の問題点に立ち向かう姿勢が伝わってくる。植物由来のプラスチックの開発は、農業だけでなく、私たちの生活全般に大きな影響を与える可能性を秘めているのではないか。

伊藤智司/1958年、静岡県生まれ。東京農業大学を卒業後、1981年に横浜植木株式会社に入社し、静岡県の菊川研究農場でメロン、ピーマン、大根の品種開発に取り組む。2005年には菊川研究農場の農場長に、2007年には横浜植木の取締役に就任。2014年以降は横浜本社の園芸部・花卉部担当役員として活躍し、2019年に代表取締役社長に就任。