※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

株式会社ロココは、BPO(※)業務から勤怠管理および入退場管理システムの提供や、企業内システムの受託開発、保守までを手がける会社だ。

同社の主力サービスである「ServiceNow」は、ワークフローを⾃動化し、データを連携できるプラットフォームである。IT技術者やカスタマーサービス、人事・総務向けなど、複数の製品ラインナップを取りそろえている。

経営者としての基礎を築く場となった前職での経験や、企業理念に込めた思いなどについて、同社の創業者である長谷川一彦氏にうかがった。

(※)BPO:企業の業務プロセスを一括して外部に委託すること

創業者から声をかけられ卒業を前に就職

ーーまずは前職のコンピュータサービス株式会社(現:SCSK株式会社)に入社した経緯をお聞かせいただけますか。

長谷川一彦:
コンピュータの勉強をするため、専門学校に進学し、卒業後は先生の推薦する会社へ就職する予定でした。そんなときに友人から誘われ、コンピュータサービスの面接を受けに行ったのです。

そこで創業者の大川功さんに「今すぐ来なさい」といわれ、卒業を待たずに19歳で入社することになりました。入社後は、エンジニアとして大手商社の支店に派遣されました。

資料を大量にコピーしていた当時は、消耗品の出費がかさみ、経営を圧迫する一因になっていました。そこで経費の削減案を提案したところ派遣先から評判となり、それがきっかけで、入社して3年後に営業に異動となりました。

技術者として入社した私としては、最初は営業の仕事をすることに抵抗がありました。しかし、営業活動をするなかで培ったスキルやノウハウが、今の会社経営に活きていると実感しています。

ーー今の会社を立ち上げたきっかけを教えてください。

長谷川一彦:
あるときコンピュータサービスの子会社であるアイ・エヌ・エス株式会社の専務に任命されました。そこは従業員60人の会社だったのですが、10年かけて1000人に増やし、年商50億円の企業になりました。

このときの成功体験がきっかけとなり、自分で会社を興したいと思うようになりました。周囲からは、安定した地位を捨ててチャレンジする必要はないと反対されましたが、会社経営をしてみたいという思いは揺るぎませんでした。

ーー会社を経営する上で、前職での経験が活きている部分はありますか。

長谷川一彦:
前職で、大手鉄鋼メーカーにエンジニアとして派遣されていたプロジェクトがありました。そこの寮では8人でひとつの部屋を割り当てられており、従業員から不満が出ていました。

そこで、1人1部屋ずつ借りられるよう、企業側と交渉する際、その会社の窓口となってくれた方と親しくなりました。その方からさまざまな業界の方を紹介していただき、今の会社経営においてご支援いただいている方々とのご縁ができました。

このように前職で多くの方との出会いがあったおかげで、今があると思います。

母の故郷からヒントを得た、「個性で組織を築く」という理念

ーー貴社の経営理念である「信頼はすべての礎なり」にはどのような思いが込められているのですか。

長谷川一彦:
これは従業員たちの個性を結集させ、組織の礎を築き上げることが、お客様の信頼につながるという考えから生まれた言葉です。

母の出身地である滋賀県大津市の坂本の穴太(あのう)地区では、自然のままの石を積み上げて石垣をつくる「野面積(のづらづみ)」という手法が使われています。この手法のように、一人ひとりの個性を尊重し、最大限のパフォーマンスを発揮できる会社にしたいと考えています。

ーー創業からどのように会社を成長させてきたのですか。

長谷川一彦:
大手電機メーカーとの取引が始まったのをきっかけに、少しずつ顧客が増えていきました。この取引が決まるかどうかの段階で、私がかつて専務を勤めていた会社と競うことになったのです。

そこで、「今は未熟ですが、お客様の期待に応えられる会社に育てていきたい」と伝えたところ、その翌日、このメーカーから取引をしたいとの連絡を受けました。

それから徐々に取引先を増やし、24時間ヘルプデスクサービスも始めました。こうしてサービスの導入からシステム開発、アフターフォローまで、一貫して手がけるようになり、少しずつ弊社の評判が世間に広がっていきました。

直取引にこだわり続ける理由・ロココの今後の目標

ーー会社を経営するうえで大切にしてきた信条はありますか。

長谷川一彦:
社員にはエンドユーザーが見えない仕事をさせたくないと思っているので、直取引にこだわってきました。基本的に下請けの仕事はしないのが、弊社の方針です。

ーーこれまで特に苦労した出来事は何ですか。

長谷川一彦:
当時の担当者がお客様の意向を反映せず、独断でシステムをつくって提案したことがありました。そこで先方からクレームが来て、契約金全額を返してもらいたいといわれてしまいました。

そこで先方の社長に謝罪しに行き、今は少額しか返済できないことを正直に伝えました。その結果、承諾していただき、現在、取引はございませんが、良い関係を続けさせていただいています。

先方の取り計らいで難を逃れることはできましたが、このときが一番危機的な局面でした。

ーーご自身の人生経験の中で、社長業にも活きている学びはありますか。

長谷川一彦:
お客様から値引き交渉されたときは「私たちの利益が減ってしまうため、それはできません」と伝えています。これは母から教わった考え方です。

私の実家では牛乳配達の仕事をしていたことがあり、集金に行くのが私の役目でした。そのときに「端数の3円をまけて」といわれることがよくありました。

しかし、母からは「まけた分だけ私たちの利益が飛んでしまう」と教わっていたため、全額支払ってもらいました。少額であってもそれが積み重なれば大きな金額になり、その分自分たちの利益が減ってしまうことを、身を持って学びました。

ーー貴社の今後の目標をお聞かせください。

長谷川一彦:
次の目標は、会社としてより高みを目指して参ります。簡単には達成できない目標を掲げ、社員の士気を高めていきたいと思っています。そのためにもハード機器メーカーと協力し、ソフトウェア開発に力を入れていきます。

また、エンジニアを増強してサービスの質を向上させるとともに、弊社の主力サービスである『ServiceNow』の認知度を高めていきたいと考えています。

編集後記

経営理念を決める際、石を加工せずにそのまま活用し、強固な石垣をつくり上げる野面積がヒントになったと話してくれた長谷川社長。社員を大切にする会社だからこそ、お客様に心のこもったサービスが提供できるのだと納得した。これからも株式会社ロココは、真心のこもったサービスを世界中に届けることだろう。

長谷川一彦/1951年滋賀県出身。コンピュータサービス株式会社(現:SCSK株式会社)に入社し、のちに同社の社長および会長を歴任した大川功氏の下で経営を学び、1994年株式会社ロココを設立。2023年に東京証券取引所スタンダード市場に上場。