企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するデータ連携ツールを提供するアステリア株式会社。同社の主力製品「ASTERIA Warp(アステリア ワープ)」は、ノーコード開発の先駆けとして、企業の業務効率化に貢献。製造業やメディア業界、官公庁などの幅広い分野で採用されている。
同社は働き方改革でも先進的な取り組みを実践し、テレワークや全国800か所以上のサテライトオフィス導入など、柔軟な働き方を推進している。技術と経営の両面でイノベーションを追求する平野洋一郎氏にお話をうかがった。
エンジニアから経営者へ、技術と経営の両面を見据えた歩み
ーーエンジニアとしてキャリアをスタートした経緯について教えてください。
平野洋一郎:
私がコンピューターと出会ったのは中学3年生のときです。当時はまだパソコンとは呼ばれておらず、マイコン(マイクロコンピューター)と呼ばれていました。高校時代には雑誌への投稿をマイコンで行っていました。掲載されると少しお金が入るので、さらにモチベーションが上がり、そこから本格的にのめり込んでいきましたね。
大学進学の際は、当時、ニュースで見た最新のコンピューター技術を学びたいという気持ちで学校を選びましたが、実際の授業は非常に初歩的なもので、時間の無駄だと感じていました。一方で、大学のマイコンクラブに入部すると、とてもスキルの高い先輩達に出会うことができたのです。彼らから多くのことを学ぶことができました。クラブの仲間と当時出入りしていたマイコンショップが、私のキャリアの出発点です。
ーーその後、ソフトウェア開発会社を立ち上げたそうですね。
平野洋一郎:
大学2年生の夏に、マイコンクラブのある先輩と一緒に大学を辞め、当時足繁く通っていたマイコンショップを運営していた有限会社キャリーラボに入社し、開発部門を立ち上げました。開発人員としては、マイコンクラブの先輩方もアルバイトとしてソフトウェアを開発してもらいました。
私自身は日本語ワープロを、先輩達は開発言語やゲームを中心に開発を担当しました。会社はうまくいき、北のハドソン、南のキャリーラボと呼ばれるまでになりました。しかし、ソフトウェア業界特有の変化の激しさに対する経営方針の違いから結局、私は会社を離れることにしました。
その後、ロータス株式会社(現:日本IBM)に転職し、開発からマーケティングへと軸足を移しました。前職で経営方針で対立した経験から「売る側のことを知りたい」と感じていたのです。
当時、さまざまな米国ソフトウェア企業が日本進出していた時期で、いくつもの会社から日本語エンジニアとしてのお誘いがありましたが、ロータスだけは「開発の経験を活かしてマーケティングをやってみないか」と言ってくれたのです。最初の3年間は国内のマーケティングを経験し、その後7年間はボストンの本社所属でアジア圏でのプロダクトマーケティングを担当しました。
「つなぐ」で変える、「ASTERIA Warp」のデータ連携
ーー貴社の創業と主力製品「ASTERIA Warp」について教えてください。
平野洋一郎:
弊社を創業したのは1998年のことでした。ロータスで10年強マーケティングの経験を積みましたが、自分達で考えた製品を世の中に問いたいと考えるようになりました。しかし、技術の進化は速く、10年のブランクがある状態では私自身が開発者としての創業は難しいと感じたのです。そこで、技術に強い現副社長の北原と組んで会社を立ち上げました。
弊社の主力商品である「ASTERIA Warp」の最大の強みは、プログラミング不要のノーコードでデータ連携ができることです。企業内には会計や人事部門などで、さまざまなシステムが存在します。これらがそれぞれ独立した状態だと、システムごとに情報を入力する必要があり、非常に不便です。「ASTERIA Warp」であれば、1回の入力で他のシステムにも自動的に反映でき、作業時間の大幅な削減と、人為的ミスの防止が可能になります。
また、営業管理と経理をシステム連携させれば、受注情報を自動的に会計システムに反映させることもできます。従来は、受注情報を紙に印刷し、経理部門が手動で入力するといった作業が必要でしたが、「ASTERIA Warp」を使えば、そのプロセスをノーコードで自動化できるのです。
私たちは22年前から世間に先駆けてノーコードの概念を追求してきました。エンジニア不足が叫ばれる中、システムはどんどん進化していきます。だからこそエンジニアではない人でも分かるように、データを繋ぐことができるようになる、ノーコードにこだわっています。
ーー「ASTERIA Warp」はどのような業界で活用されているのでしょうか。
平野洋一郎:
当初は製造業からスタートしましたが、現在では幅広い業界で活用されています。例を挙げましょう。以前、共同通信社は専用線を使って新聞社やラジオ・テレビ局に記事を配信していました。専用線からインターネット配信に切り替える際、「NewsML」という新規格が使用され、それを実装するツールとして「ASTERIA Warp」が選ばれたのです。その案件をきっかけとして、メディア業界にも広まっていきました。
テレワーク先進企業が目指す世界市場
ーー今後の展開についてお聞かせください。
平野洋一郎:
私たちは世界市場を目指しています。一般的に、英語圏と中国語圏が大きな市場ですが、注力しているのは東南アジア市場です。ASEAN加盟国は平均5%の経済成長率を維持しており、新しいテクノロジーの受け入れにも積極的なので、シンガポールに拠点を置いています。
また、将来的に取り組みたいのはアフリカ市場への参入です。成長市場では、既存のシステムにとらわれずに新しいテクノロジーを導入しやすいという利点があります。たとえば、アフリカでは、固定電話を飛び越えてスマートフォンが普及しました。このように、最初から最新のテクノロジーを導入できる環境は、私たちのような新しいソリューションを提供する企業にとっては大きなチャンスとなります。
ーー貴社独自の働き方改革についても教えてください。
平野洋一郎:
私たちは2011年の東日本大震災をきっかけに、全社員がテレワークできる環境を整備しました。創業時から、開発部門には在宅勤務を認めていましたが、震災後はこれを全社的に拡大し、ユニークなところでは2015年から「猛暑テレワーク」も導入しています。これは「ASTERIA Warp」の機能を活用して、気象庁のデータを自動取得し、その日の気温予報が35度以上であれば全社員にテレワーク推奨のメールを自動送信するというものです。
コロナ禍以前からこうした取り組みを行っていたことで、パンデミックのときもスムーズに対応できました。多くの企業がテレワークによって生産性の低下に悩む中、私たちは約8割の社員が、生産性の向上を実感したと報告しているほどです。これからも、こうした働き方改革を通じて、社員の創造性を高めることでイノベーションを促進し、社員のウェルビーイングと会社の成長の両立を目指していきます。
編集後記
「データをつなぐ」というシンプルな概念は、多くの可能性を秘めている。平野氏の語る「ASTERIA Warp」の活用事例を聞くと、その活用方法の多様さに驚かされる。同時に、社内の「人」をつなぐ取り組みにも感銘を受けた。テレワークやフレックス制度を通じて、社員一人ひとりの生産性と幸福度を高める姿勢は、まさに「技術」と「人」を大切にする経営の成功例と言えるのではないだろうか。
平野洋一郎/熊本県生まれ。熊本大学工学部在学中にソフトウェア開発ベンチャーで開発に従事。1987年ロータス株式会社(現:日本IBM)に入社し、マーケティングの要職を担当。1998年インフォテリア(現:アステリア)株式会社設立。2007年東証マザーズに上場。2018年東証一部上場。公職として、ブロックチェーン推進協会代表理事、先端IT活用推進コンソーシアム副会長、MIJSコンソーシアム理事、熊本経済同友会常任幹事など多数務める。