ナビゲーションシステムを主軸に、自動車業界向けのソフトウェア開発を担う日本随一のテック企業がある。GAFAに比肩する技術を擁する、株式会社ミックウェアだ。次世代のプラットフォーマーを目指す構想について、代表取締役社長兼会長の鳴島健二氏にうかがった。
カーナビ市場で確固たる地位を確立
ーー現在展開している事業内容について教えてください。
鳴島健二:
弊社は、2023年で創業20周年を迎えました。12人で始めた事業は、現在ではパートナーを含め800人超の規模になりました。「Be There Be Now」をビジョンに定め、皆さんを自然に外へ連れ出すようなサービスを展開していきたいと考えています。
このビジョンを果たすために、3つの事業ブランドを展開しています。
1つ目は四輪、二輪から徒歩まで網羅するナビゲーションサービス「naviAZ(ナビアズ)」、2つ目は車載ネットワーク技術を活かしたモビリティサービス「micAuto(ミックオート)」、そして3つ目はそれらで培った技術を集大成した位置情報サービス「Beatrip(ビートリップ)」です。日本の複数の主要自動車メーカーは、海外で展開している車種も含め、弊社のカーナビを搭載しています。
「PinnAR(ピナー)」というスマホ用のAR(拡張現実)ナビも全世界で170万ダウンロードされ、多くの方に使っていただいています。
Beatripの位置情報サービス「Beatmap(ビートマップ)」は、「ダイナミックPOI(Point of Interest)」という技術を使用しています。これはSNSに投稿された情報を自然言語解析し地点情報を生成する技術で、新しく開店して話題になったお店などの新鮮な情報を地図上で見ることができます。
このBeatmapの技術をnaviAZのナビゲーションシステムに組み合わせるなど、複数の事業ブランドの技術を融合させ、ミックウェアが提案する「お出かけ」サービスの可能性を広げていきます。
ーー独立されたきっかけや、起業当初のことについてお聞かせください。
鳴島健二:
神戸電子専門学校を卒業後、自動車業界に就職し、OEMソフト設計などに携わりました。その後、当時の取引先から提案されて、同じ会社に勤めていた12人で起業しました。当初はもともと所属していた会社からの分社化を希望して、数年にわたって協議していましたが、その話が頓挫したことで、独立を決断しました。独立してから2〜3年ほどはカーオーディオの開発を手がけ、その後カーナビの開発に着手しました。
もともと一緒に仕事をしていたメンバーが集まって会社をつくったので、社内における苦労はありませんでした。不安を感じることもあまりなかった、というと聞こえがいいですが、そんな暇もないほど忙しかった、とも言えますね。
「Web 3.0」の時代到来。データバンクの登場と新しいビジネスプラットフォーム
ーー今後、ソフトウェア開発事業を取り巻くビジネス環境は、どのように変化するとお考えですか?
鳴島健二:
「Web 2.0」の時代は、GAFAなどのプラットフォーム企業がウェブビジネスの大元締めとなって利益を吸い上げてきました。たとえば、世間では「YouTuberがたくさん稼いでいる」と話題になりますが、実際にはそのプラットフォームであるYouTubeが比較にならないほどの利益を上げているわけです。
日本では、それに対抗できるようなスタートアップは生まれませんでした。そして、この数年で時代は「Web 3.0」を迎えています。
「動画やつぶやきといったデータは誰のものか」という問いに対して、「ユーザーのものである」とする考えがヨーロッパを中心に生まれました。つまり、ユーザーが発信するあらゆる情報は「デジタルプラットフォーマーの所有物ではない」ということです。
では、データがユーザーの大切な財産であるならば、それらを預ける銀行や、取り引きするための市場が生まれることになります。もし、そのデータに価値がある場合、直接ユーザーに対して対価が支払われるという仕組みがつくられていくのです。
新しい時代の覇者となるために
ーー「Web 3.0」時代に、どのような技術で勝負するのでしょうか?
鳴島健二:
現在、国内大都市圏のタクシーに弊社のソフトウェアを内蔵したドライブレコーダーを搭載していただいており、それによって撮影された映像がセントラルデータに蓄積されます。すると、ある地点の特定期間の映像を検索して集約できるようになるのです。
たとえば、「紅葉のきれいな時期の皇居前の映像を見たい」と思ったときに、その情報を抽出する指示を出し、映像から3D空間を生成すれば、海外にいながらでもその景色を見ることができるようになります。それが、弊社が開発を進めている「ダイナミックストリートマップ&マーケット」です。
将来的に世界的な自動車メーカーに採用されれば、弊社のドライブレコーダーを搭載した車が年間2千万台近く出荷され、世界中を走ります。日本の自動車メーカーが持つ商品力とこの技術を合わせれば、既存の「Google マップ ストリートビュー」を凌駕できると確信しています。
「ダイナミックストリートマップ&マーケット」は、わかりやすく言うとメタバースのリアルな映像版で、世界初の技術です。映像データは、走り続ける数千万台のドライブレコーダーから常時抽出され、最新の情報に自動的に更新されていきます。
日本の技術者の地位向上にかける思い
ーー新卒学生や転職を検討しているビジネスパーソンに向けてメッセージをお願いします。
鳴島健二:
私たちの会社は、「日本のソフトウェア文化をグローバルに返り咲かせること」が使命だと考えています。「ダイナミックストリートマップ&マーケット」の技術を世界に広める一翼を担っていきたいと思う方には、ぜひ事業に参加していただきたいですね。
技術力の育成は弊社の強みの一つなので、今は経験が浅い方でも、情熱をもって共に夢を追いかけるつもりで入社してほしいと思っています。5年後、10年後に中国やアメリカを追い抜いていけるサービスや商品力が私たちの会社にはあります。
独立系のソフトウェア会社でこれだけソフトを内製している会社はないと自負しています。どのサービスでもソフトウェアは存在し、どのソフトウェア会社でも開発に携わることができますが、技術者は作業だけになりがちです。私は「社外に出て作業して、リソースや時間だけを渡してお金をもらうだけでいいのか」と疑問に感じています。弊社では、それを自分たちの仕事として世に出すことができます。
そして、社内でも認められて適切に評価される制度を確立しています。「20年間勤めたときに何が残るのか」ということをぜひ想像してみてほしいと思います。弊社でならソフトウェアエンジニアの地位向上を体感できると思います。
編集後記
株式会社ミックウェアの技術からつくり出される新しい世界は、鳥肌が立つほどに壮大だ。「ダイナミックストリートマップ&マーケット」を完成させ、世界に送り出したとき、これまでアメリカや中国の後塵を拝していた日本のソフトウェア産業が復権を遂げる瞬間を見届けることができるだろう。
鳴島健二/神戸電子専門学校を卒業後、OEMソフト開発企業に入社。2003年に独立し、株式会社ミックウェアを設立。主要事業の一つであるカーナビシステムが大手自動車メーカーに採用された。現在は「ダイナミックストリートマップ&マーケット」を開発中。