※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

デジタル化が進む行政サービスの最前線で、個別性の高い業務課題やニーズに対峙して最適解を導きDXを実現する株式会社Blueship。同社は地方自治体や企業向けに、ITシステムの開発・運用サービスを展開するほか、これまでに培った技術と経験を活かし、「人とシステムとサービスの調和」を目指して、人々の幸福に貢献する取り組みを続けている。

2024年には新たに「ライフイベントコンシェルジュ」の構想を掲げ、自治体向けの新サービス開発に乗り出した同社代表執行役社長の杉﨑恵悟氏に話をうかがった。

業界最大手からベンチャー企業社長に転身。託された第二創業期で人を育てる。

ーー現在の立場に至るまでの経歴を教えてください。

杉﨑恵悟:
私は、大手SIerに26年間勤務し、社会インフラを支える大規模な金融システムをはじめとするレガシーシステムの開発プロジェクトに携わってきました。経済学部出身の文系であり、プログラマーとしての経験はありませんでしたが、入社1年目から異例の抜擢を受け、全国の金融機関を巻き込む金融システム開発チームのリーダーに就任。それを機にプロジェクトマネージャとしてのキャリアをスタートし、最大で数百人規模のプロジェクトを統括する役割を任せていただきました。

会社、役職、年齢などの立場が異なる人々を束ねることは、若い時ほど尻込みする人も多いと思います。しかし、私自身あまり苦労とは思わず、その環境にいられたのは、優秀なパートナー企業の先輩方のおかげと、私の生い立ちが少なからず影響しているかと思います。

少し話は脱線しますが、父が少林寺拳法の道場を開いていて、幼いころから近所の小中高生、そしてその親御さんが集うコミュニティの中で生活してきました。対人関係の基礎はそこで養われたと感じます。そのような物怖じしない性格も相まって、前職では大きなプロジェクトのプロジェクトマネージャを任せてもらえたのではと思っています。

ーーBlueshipにはどのようなきっかけで入社されたのですか?

杉﨑恵悟:
前職に所属していた2007年ごろ、私はBlueshipのサービスを利用するユーザーの立場でした。Blueshipが開発した「Quady」という構成管理のソフトウェアが、私たちのシステムにとって非常に有益なもので、若い会社ながらいいサービスをつくっていて、関わる人たちも熱心な面々が多く、当時からBlueshipのファンでした。そこから10年以上の月日が経ち、自分も50才に差し掛かかった頃に次のキャリアを見据えていたところ、何社かお声がけいただいていた中で、Blueshipの前代表からお誘いがあり入社を決めました。

ーー入社の決め手は何だったのでしょうか?

杉﨑恵悟:
前代表は創業社長で、同い年ということもあり仕事以外によく語り合う仲でした。そんな彼から会社の状況や今後の展望について説明があり、率直に「力を貸してほしい」と言ってもらい、心を決めました。これまでも、問題のあるプロジェクトに入って立て直しを図る、いわばレスキューのような役目で長年仕事に携わることが多くありました。そのような「非常事態に強い」ことが私のコアコンピタンス(他に真似できない核となる能力)になっていたのです。若手の多いBlueshipでは、私のそういう力が求められていて、発揮できる機会がありそうだと思いました。

AIの時代だからこそ重視する人格と品格

ーー貴社の提唱する「HAPPY SERVICE MANAGEMENT」とはどのような理念ですか?

杉﨑恵悟:
「HAPPY SERVICE MANAGEMENT」は、私が2023年にCOOとして入社してから経営陣と共に再構築した弊社の企業理念です。私たちは、顧客が抱える課題をITサービスマネジメント(※)を活用して解決することを生業としています。プロジェクトの規模が大きくなるほど、私たちだけでなく、パートナーベンダーさんの力も借りることになります。

加えて、顧客の先には「顧客の顧客」もいます。自治体であれば市民が、企業であれば消費者がそれにあたります。そういったプロジェクトに関わるすべての人たちが幸せになるサービスを提供していかなくてはならない、誰かが犠牲になるのではなく“みんながHAPPYになる世界を目指そう”ということで、「HAPPY SERVICE MANAGEMENT」を理念に掲げています。

この理念を掲げることで、社員の目線を上げて、単に求められたものを設計図通りにつくるのではなく、本質を捉えたサービス提案が出来るようになることもDXを進める上で非常に大切なことだと考えています。

(※)ITサービスマネジメント:ITサービスを効率的・効果的に運営する仕組みの管理と、その一連のプロセスを指す。

ーー社長の経営方針についてお聞かせください。

杉﨑恵悟:
2024年4月に社長に就任したタイミングで「3つの柱」を打ち立て、社内にメッセージを発信しました。Blueshipが成長し続けるために「成長」「適正なサービス品質」「ガバナンス」の3つを確立していこうというものです。「成長」についてさらに社員にむけて発信しているのは、「品格」「人格」です。今はAIの発達によって、同じ問いを入れれば誰もが同じ答えが手に入れられる世の中になりました。つまり、同じものが手に入るということは、「何を」買うかではなく「誰から」買うかということがより重要になってくるのです。

「誰から」買うかということを考えたときに、顧客が重視するのは、サービスを提供する企業の品格と社員の人格です。しかし、人格や品格というものは一朝一夕に身につくものではありません。そのため、弊社の社員には日ごろから主体性を持って考え、ポジティブに問題に取り組むよう、うながしています。そして、会社としてはHAPPYを届ける私たちが健やかで幸せであってほしいので、給与体系や教育制度を見直して、より社員の働きがいや心理的安全性を高める会社にしていきます。

米国ServiceNow社との提携によって広がる「新事業構想」

ーー今後はどのような事業を展開していく予定ですか?

杉﨑恵悟:
弊社の主要顧客である自治体に向けて、「ライフイベントコンシェルジュ」というサービスを構想中です。自治体サービスは政策や法に適応する歴史から、部門ごとに分かれ、システムもサイロ化しがちです。しかし住民にとっては、ライフイベントは地続きに発生し、役所との関係も続いていくものです。個々のライフイベントにあわせた自治体サービスを、プッシュ型で住民が受け取れたらこんなに便利なものはないと思います。

たとえば自治体に転入したときは、当然その自治体に住民票を移動させますよね。その他にも、水道やガス、電気、自動車の車庫証明など、手続きは多岐にわたることが多いのです。弊社が考える「ライフイベントコンシェルジュ」では、このようなライフイベントごとに必要となる手続きを住民に届けられる仕組みになります。自治体業務の効率化と運用に焦点を当てつつ、市民の利便性の向上を追求していくことが狙いです。

これを実現できるのが、現在当社で注力している「ServiceNow(※)」というソリューションです。ServiceNowは、自治体や企業の業務をデジタルワークフローで統合・自動化するクラウドサービスです。紙ベースの手続きや業務を脱却し、プロセスのデジタル化を図ることで、現場業務の無駄を省き、職員(社員)がより付加価値の高い業務へシフトし、生産性を向上することを可能にします。

(※)弊社は、2023年9月に米国ServiceNow, Inc.のグローバル戦略投資部門であるServiceNow Venturesから戦略的な投資を日本で最初に受けています。また、ServiceNow導入の成果が認められ、2025年1月付で「Reseller」パートナープログラムにおいて「Elite」認定も受けました。

ーー最後に、貴社が求める人物像をお聞かせください。

杉﨑恵悟:
不器用でもいいので、自分の軸を持っている人がいいですね。軸というのは、仕事に限ったことではありません。スポーツでも趣味でもいい何か一つ、得意なことや好きなことに取り組んで深く掘り下げた経験がある人は強いですよね。その物事について造詣が深くなるだけでなく、自分にとって大事なものがあるおかげで考えの芯が強くなり、考えがぶれることがありません。また、他者の大事なものも尊重できると思うからです。

私は多様な人材がいることで組織が強くなると考えているので、異なる考え方や価値観を持つ人を歓迎します。表面的に付き合うのではなく、深みと誠実さを持つ人材と一緒に成長したいです。「Blueship」という船に乗っている社員全員がそれぞれの強みを生かしてくれれば、きっといい組織になれると信じています。

編集後記

大手SIerで26年間、問題プロジェクトの立て直しを手がけてきた経験は、技術以上に人を見る目を養ったのだろう。システムと人、効率と温かみ。相反するものの調和を目指す同社の理念は、デジタル時代における人間らしさの追求といえるかもしれない。

杉﨑恵悟/1972年、神奈川県伊勢原市生まれ。大学卒業後SIerに入社し、プロジェクトマネージャーとして大規模金融機関システムの開発などに従事。2023年2月にBlueshipに入社し、COOとしてサービス提供を牽引。2024年4月、代表執行役社長に就任。趣味は祭り(祭り運営と神輿の担ぎ手)。父親から少林寺拳法道場を引き継ぎ、指導者として門下生たちの心身の鍛錬・成長に貢献することをライフワークとしている。