※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

日本の警備業界は、多くの課題に直面している。

慢性的な人材不足が顕著であり、教育時間の不足、労務管理の複雑さ、従業員の高齢化などが深刻な課題として挙げられている。

これらの課題に対応し、業界の変革を目指しているのが、株式会社ABCガードの取締役本部長、小山敏文氏だ。兵庫県出身の小山氏は、運送業界での経験を警備業界へ活かし、交通誘導整備に特化した業務を通じて、後進の育成に力を注いでいる。

小山氏は、「警備業界の課題に対してどのように取り組むべきか」という点について明確なビジョンを有している。今回のインタビューでは、小山氏がこれらの課題にどのように対処しているのか、また、業界の未来をどのように見据えているのかについて話をうかがった。

警備業界を巡る労働政策と価格設定

ーー高齢社会と働き方改革の中で、人手不足が警備業界の課題ですが、貴社ではどのような対応をとっていますか?

小山敏文:
実は、昨年労働基準監督署から通知書が送られてきて、社労士と話し合ったのです。内容は、週40時間の労働を基準として、土曜日に出勤する場合は通常単価の1.2倍を支払うというものです。休日出勤をした場合には給与を高くしなければいけません。だから弊社は、本当に必要な人数のみを派遣するように、働き方を変えています。

派遣料金については極端に言えば「4月いっぱいで単価はこれだけです」などと顧客に伝えて終わりです。自分たちの仕事に誇りを持っているからこそ、単価を上げても勝負できることが強みですね。

ーー他の部分で業界の課題を感じることはありますか?

小山敏文:
警備業界の場合、出張案件が多く体力的な負担を感じるケースがあります。僕らの時代には、この仕事を単なる交通誘導の「旗振り」役と思っている人もいました。「立っているだけでお金になる」と思っている人もいたくらいですが、今はそう簡単な仕事ではなくなっています。

一方で、仕事を頑張っている人にとっては良い例なのかもしれません。「立ってるだけでお金がもらえる」なんて、顧客に対しても失礼ですし、会社の信用も損ないますから、そういう考えの人を反面教師にして仕事に誠意を尽くしてもらいたいですね。

個々の活躍を社員に還元する給与システム

ーー経営面ではどのような工夫をしていますか?

小山敏文:
経営においては、いかに相手の身になって仕事をするかが大切だと思っています。自分が相手の立場になった時に、どうすれば安心して仕事ができるかを常に考えています。そして、利益追求は大事ですが、それだけでは不十分です。仕事に誇りを持ち、得意先との良好な関係を築くことを意識しています。

働いている社員に対しては、お金でしか誠意を示せないので、実力に基づいて給与を決定しています。1年目でも、10年目でも、実力に応じて給与が上がるイメージです。なかなか給料が上がらない場合には、その原因を一緒に考えるようにしていますね。ビジネスとしてお金を儲けることも大切ですが、社員にもしっかりと還元すべきだと思っています。

ーーそれは従業員にとってもモチベーションにつながりますね。なぜそうしたシステムが実現できるのでしょうか?

小山敏文:
料金設定を高くしているからです。それができているのは、サービスとして付加価値の高いものを提供しているからです。たとえ競合より料金が高かったとしても、品質の良いサービスを提供していると胸を張って言えますね。

ーー社長のキャリアについてお尋ねします。ご両親は運送会社を運営していたとお聞きしています。あえて別の会社に就職したことについて、何か理由がありますか?

小山敏文:
両親の跡を継ぐことに抵抗があったため、ファーストキャリアは別の会社で肉体労働をともなう業務に就いていました。ただ、体力仕事だったので、この先もずっと続けるのは厳しいと感じて、中小の運送会社に転職しました。

中小企業だからこそ与えられた仕事をただこなすのではなく、何事も自ら積極的に実践する力が身に付いたのかもしれないと思います。

当時の時代背景も相まって、社長の教育はかなり厳しいものでした。それこそ、「俺を信じてついてこい!」というタイプの方だったので、今の若い人が聞いたら驚くような教育もありました。

とはいえ、振り返ってみれば僕にとっては良い経験だったと思います。同社の社長から「攻めるタイプと守るタイプでいうと、君は攻めるタイプ」だと言われたことが印象的でしたね。

今後注力するのは「時代に合わせた人材の育成」

ーー貴社の大きな強みは何だと思いますか?

小山敏文:
取引先の方からは「教育が行き届いている」と言われます。昔は、警備員の現任教育に関しては、年度ごとに前期に8時間、後期に8時間おこわなければならなかったのですが、今は年間を通して10時間に簡素化されています。研修そのものが利益に直接つながらないことから、教育をおざなりにしている警備会社もありますが、うちでは必ず必要な研修をおこなっています。

ーー今後の経営戦略について教えていただけますか?

小山敏文:
経営幹部の育成に注力しております。現在のメンバーから優秀な社員を育成し、新しい風を吹かせていきたいと考えています。また、アナログな僕ら世代でも、YouTubeやSNSなど新しい媒体を積極的に取り入れていきたいと思います。

ーー20代から40代の方に向けて、何かメッセージをお願いします。

小山敏文:
自分の仕事に対して「向いてない」と思うことは、誰にでもあるかもしれません。しかし、それを好きにならないと仕事はできません。仕事に就いた以上は、その仕事や働く環境を好きになっていくことが大切です。自分もそう思っていますし、まずは選り好みせずに、目の前の仕事に懸命に取り組むべきだと思います。

編集後記

長年の経験から培われた技術と知識を活かし、信頼と実績を重視する経営をおこなう取締役本部長の小山氏は、若手従業員の育成とその可能性にも大きな期待を寄せている。彼らが警備業界の未来を担う重要な鍵であると考えているのだ。

このような経験豊富で洞察力のあるリーダーがいる限り、警備業界は確実に前進し続けるだろう。若手従業員にとっても、警備業界に新しい挑戦の機会が広がっていることは希望になるに違いない。

小山敏文/1952年兵庫県生まれ。東洋大学付属高校を卒業後、運送業を営む両親の紹介で地元の運送会社に入社。厳しい現場作業から始まり、やがて神戸支店のリーダーとして豊富な経験を積む。2014年、株式会社ABCガードを設立し、現在取締役本部長として同社をけん引する。