※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

2022年度の環境省の統計によると、犬は2434匹、猫は9472匹が殺処分されている。年々その数は減っているものの、それでもまだ多くの犬や猫が殺処分されており、保護団体や民間企業の協力が必要な状態にある。

このような状況をどうにかしようと、保護団体と里親をつなぐマッチングサイト「OMUSUBI」を運営しているのが株式会社PETOKOTO(ペトコト)だ。

ペットフードの販売事業に力を入れる代表取締役社長の大久保泰介氏だが、もともと犬猫が苦手だったという。一体なぜこの事業を始めたのか、その思いを聞いた。

犬猫の「触らず嫌い」に気づいたことが起業のきっかけ

ーー大久保社長の経歴を教えてください。

大久保泰介:
僕は京都の田舎出身で、小さな頃は田んぼで生き物を捕るのが好きでした。ただ、犬や猫は苦手で、どこかずっと遠い存在だったんですよね。

大学時代はイギリスのユニクロUKで働き、マーケティングの業務に携わっていました。そのときもシェアハウスやホームステイ先に猫がいたのですが、猫には全く触ることなく暮らしていました。

帰国後、当時お付き合いしていた彼女がトイプードルを飼っていたため、僕も犬と暮らすことになりました。最初は悩みましたが、犬と暮らすうちに自分が「触らず嫌い」だったことに気づき、それから徐々に犬が大好きになりました。

ーーそのときの体験から、現在の事業を思いついたのでしょうか。

大久保泰介:
犬と触れ合うようになった当時、殺処分が社会問題になっていること、そしてペットに関する情報のデジタル化が進んでいないことに気づいたのが、事業を起こしたきっかけの1つです。

帰国後に入社したグリー株式会社で新規事業を提案できるビジネスコンテストがあり、その場で以前から考えていたペット事業を提案しました。

最終選考で落ちてしまったのですが、このときに投資会社の方を紹介してもらい、投資してもらえることになりました。

もともと起業意識はありませんでしたが、このときに自分でも起業ができるのだと思い、その2か月後には会社を退職し、起業したという流れです。

健康的な食事を与えて保護活動にも貢献できるスキームが強み

ーー貴社ならではの事業の強みや特徴は何でしょうか。

大久保泰介:
弊社の事業の1つが、保護団体と里親をつなぐマッチングサイト「OMUSUBI」の運営です。シニアの保護犬は一般的にもらい手が少なく、譲渡されにくいのですが、「OMUSUBI」はシニア犬も多数登録しているのが特徴です。

過去にはサイトに登録した途端に譲渡が決まり、残り4〜5年の人生を4人家族に迎えられ、幸せに過ごすことができたシニア犬もいます。これは、とても嬉しかったですね。

弊社のサービスは保護団体さんのみが募集掲載を行い、その中でも審査を通過した団体のみがOMUSUBIに登録していることが強みです。サービスに関しては、InstagramなどのSNSを活用して、多くの人の目に留まるような仕組みを意識しています。

ーーそのほかの事業についてもお聞かせください。

大久保泰介:
僕自身もコルクという名前の犬を実際に譲渡会で迎えたのですが、コルクにドライフードを与える際、これは本当に新鮮なのか、栄養は良いのかといった点に疑問を持ちました。

そこで、「エサ」ではなく、「ご飯」と呼べるようなものをつくりたいと思って始めたのが、フレッシュフード事業です。獣医師が監修し新鮮かつ嗜好性の高い、AAFCOの栄養基準を満たした栄養素が弊社のフレッシュフードの強みです。

中には亡くなる直前まで弊社のフレッシュフードを食べてくれていたという手紙をもらったこともあります。お迎えから最期の瞬間までのすべてをサポートできるのは、この事業の幸せなところですね。

また、事業の売上の一部は保護団体に寄付しています。自分の愛犬・愛猫の豊かな食体験を通し、それが世の中の保護犬・保護猫を救う活動になるスキームを構築できているのが、弊社の強みでもあります。

そのほかには、獣医師やトリマーなどの専門家が犬の病気やしつけ、レジャー情報などについて執筆した記事を掲載する情報メディアも運営しています。

輪の外も理解し、誰もが暮らしやすい社会を目指す

ーーどのような思いで事業を運営していますか。

大久保泰介:
弊社は「ペットを家族として愛せる世界へ」をミッションに掲げており、そのための行動指針が3つあります。1つ目は「短い命に届けよう」、2つ目は「ペットを愛するプロでいよう」、そして3つ目が「輪の外も想像しよう」です。

僕自身、犬や猫が苦手だったので、輪の外、つまり犬や猫が苦手な人の気持ちがよく分かります。だからこそ輪の外に配慮したルールを掲げていますし、この考え方は弊社独自のものだと思います。

JR東日本と提携し実証実験に取り組んだ際、新幹線の中でペットをケージから出して上野から軽井沢まで移動した際に、どのくらいのアレルギー反応が出るのかなども計測しました。これも、輪の外にいる人のことを考えた取り組みの1つです。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

大久保泰介:
まずは、日本にフレッシュフードを浸透させたいですね。2024年4月1日より、常温保存が可能なウェットフードを発売しました。日常シーンだけでなく、おでかけや防災時の非常食としても利用できるようにしました。

また、現在の事業を医療や保険、旅行、住居などに広げて、ペットのトータルサポートプラットフォームを運営したいとも思っています。

そのほか、ペット以外でいえば、僕は京都のサッカーチームが好きなので、サッカーチームの経営をするのも夢の1つですね。

ーー最後に、一緒に働きたいと思う人物像を教えていただけますか。

大久保泰介:
向上心と探求心を持っている人です。常に満足しないマインドを持てる人は、とても良いと思います。また、弊社が行っているのは犬猫の事業なので、ビジネスライクでドライな関係を求める人より、事業にかける思いに共感しながら行動できる人が良いですね。

編集後記

「触らず嫌い」から、今では犬猫を愛し、サポートする事業を手がける大久保社長。ペットが苦手な人へも配慮した事業を展開する同氏の価値観からは、犬猫やその飼い主が本当に生きやすい社会をつくりたいという強い思いが感じられた。

殺処分される犬猫が減り、犬猫が好きな人も嫌いな人も心地よく過ごせる社会の実現に向けて活動するPETOKOTO。同社の今後を引き続き応援したい。

大久保泰介/1987年、京都生まれ。2012年に同志社大学経済学部を卒業。在学中は、英・ロンドンに留学して、ユニクロUKで「+Jプロジェクト」などのプロモーション業務にも携わる。卒業後、大手ソーシャルゲーム企業・グリー株式会社に入社し、グローバル・新卒採用プロモーション、採用戦略の立案、財務会計・管理会計を経験。2015年株式会社シロップを設立し、代表取締役CEOに就任。2021年3月に会社名を株式会社PETOKOTOへ変更し、代表取締役社長に就任。