AIによるデータ分析で、さまざまな経済情報を予測する世界初のプラットフォーム「xenoBrain」。国内No.1の利用実績を持つこのサービスを運営するのは、2016年に設立された株式会社 xenodata lab.だ。
この夢のような技術を実現した立役者である同社、代表取締役社長の関洋二郎氏。新サービス開発の背景や今後の展望、社内の組織づくりについて同氏に話をうかがった。
ITと財務を掛け合わせて新たな可能性を発見
ーー貴社を立ち上げた経緯についてお聞かせください。
関洋二郎:
大学時代、車で日本全国を旅していたときに、初対面にもかかわらず優しく接してくれる方々に巡り合ったことで、「この素晴らしい国に少しでも貢献したい」という思いが生まれました。そのとき思いついたのが「公認会計士の資格を取得しよう」というもので、在学中に達成したことが現在の仕事につながっています。
その後、監査法人に勤務し、ITを統制する部署に所属していたのですが、まだ誰も挑戦していない「ITと財務を掛け合わせたサービス」にビジネスチャンスを感じ、縁あって株式会社ユーザベースに転職します。そこでビジネス情報プラットフォーム「SPEEDA」の設計に携われたことが、僕の人生のターニングポイントになりました。
大量の財務データベースを提供するSPEEDAの開発をしていく中で「今後は人が情報を検索する時代から、AIが情報の分析・予測をする世界になる」と確信し、自らその未来を実現するべく独立を決意しました。
世界初の経済予測プラットフォーム「xenoBrain」
ーー貴社のプロダクトであるxenoBrainについて詳しく教えてください。
関洋二郎:
xenoBrainは、世界初の大規模言語モデルを活用した経済予測AIプラットフォームであり、企業業績、原材料価格、製品需給やマクロ統計など、様々な項目を一つのプラットフォームで予測分析が可能な革新的なサービスです。
たとえば、半導体向け材料製造に関する設備投資を検討しようとしたとき、各種半導体の市場はどのように推移するのかを1年先までの予測を簡単に入手することができ、客観的なAI予測に基づいた経営意思決定をサポートしています。
さらに「説明可能なAI」として、予測の根拠となった先行指標の動きや、ニュースの発生状況の確認が可能な「予測根拠分析」機能を実現しました。数値的な予測をおこなう企業は他にもあると思いますが、予測の根拠まで定性的に示せるのは弊社の強みだと思います。
ーーxenoBrainを生み出した際に、苦労したエピソードはありますか?
関洋二郎:
AIが学習する大量のデータを購入するための資金の捻出は大変でした。経済予測を行うためにはどうしても信頼があり、かつ、膨大な経済データが必要ですが、権利侵害をせずに十分な量のデータには億単位の投資が必要でした。
ありがたいことに、初期の段階で三菱UFJ銀行様など、業界のトップ企業に出資をしていただいたおかげで資金調達のめどがつき、初めてリリースした決算分析サービスをカブドットコム証券(現auカブコム証券)様に購入いただけたことで、順調に実績を積むことができました。
ーーどのような企業に利用されていますか?相性の良い業種などはありますか?
関洋二郎:
企業によるAIサービスの利用が今後必須となる時代にさしかかっていることもあり、現在は顧客の7割程度がメーカーを中心とした事業会社であり、その多くがいわゆる大手企業です。
幅広い業種に利用されていますが、特にメーカーとの相性が非常に良いのではないでしょうか。メーカーでは商品の価格や顧客の需要、将来の経済動向などさまざまなデータを鑑みて生産計画を立てなければなりません。xenoBrainで市場動向の調査を進めるとともに、「マイデータ予測オプション」を使用すれば、予測したいデータを登録するだけで製品の売上予測を得ることも可能です。
ーーこれまでの営業手法や、xenoBrainが成功した秘訣を教えてください。
関洋二郎:
現状、世の中には経済予測をAIで汎用的に行うサービスがなく、AIによる経済予測は非常に独自性の高いコンテンツであり、その生成は一度作ってしまえば何万種類でも増やせ、ほぼリアルタイムで更新していけます。
このユニークなコンテンツを大量生成できる特性を生かして、コンテンツの一部(数百品目程度)を無料で公開し、「より詳細な情報を得たい」と問い合わせをした方にサービスを紹介させていただく手法がうまくいってます。
これまでにない非常に斬新なコンテンツなので、プロダクトを閉じてセールスドリブンで売るよりも、より広くより手軽に知ってもらう方が収益の最大化ができると思いどんどん公開していってます。
AI予測をより身近に利用できるように、新たな取り組みに着手
ーー今後取り組んでいきたい事柄についてお聞かせください。
関洋二郎:
短期的には、BtoBの分野で、多くのビジネスパーソンが今手元で行っている複雑な経済環境下での将来予測分析を、AIに任せて、自分たちは意思決定に集中できる世界の実現を目指しています。それにより、人類の劇的な生産性の向上をもたらすことが短期的に実現したい世界です。
長期的には、当たる予測を提供する情報ベンダーではなく、その予測を元にした実際の運用事業に参入するつもりです。具体的なスキームはまだ検討段階ですが、BtoCの分野でも将来の経済を見通すことのベネフィットをしっかりと届けていきたいと考えています。
ーー社内の雰囲気や組織づくりについてもお聞かせください。
関洋二郎:
少人数で心から信頼できる人たちに囲まれているので、非常に良い雰囲気で仕事を進められています。女性の離職率は創業以来0%で、何かあっても安心して家族のことを優先したり、そういうときに他のメンバーがサポートし合える文化が根付いていると思います。
また、ほとんどの社員が5年以上の在籍となり、事業が拡大してもこの良い雰囲気をしっかりと維持できるようにしつつ、新しく入ってくる方が幸福度の高い働き方で活躍できるようにしていきたいと思っています。
編集後記
これまでになかったAI予測という新しいサービスを世に送り出した関社長。信頼性を高めるため、あえて高額を投資してニュースデータを購入したことについて「社員が誇りを持って業務に取り組めるよう、正面から課題に向き合ってきた」と語る。そうした同氏の誠実な姿勢が、大手企業の信頼を得てきたのだろう。
AI予測という強力な武器を活用して今後どのようなサービスを実現していくのか。xenodata lab.の動向に期待が膨らむばかりだ。
関洋二郎/1984年生まれ。茨城県出身。慶応義塾大学商学部在学中に公認会計士2次試験に合格する。在学中から監査法人で実務を経験し、卒業後の2010年、同3次試験に合格。2012年、株式会社ユーザベースに入社し、経済情報サービスの開発を担当する。2016年、株式会社 xenodata lab.を創業し、代表取締役社長に就任。