※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

兵庫県たつの市に本社を置く株式会社イボキン。1984年にスクラップ事業者として創業して以来、時代に合った「リサイクルの形」を追求し続けてきた。業界でもいち早く上場し、解体・産廃・スクラップの分野を一手に引き受ける企業の変遷について、代表取締役社長の高橋克実氏に話をうかがった。

リサイクルにおけるワンストップサービス事業の強み

ーー貴社の事業内容を教えていただけますか。

高橋克実:
弊社はもともとスクラップディーラーでしたが、1998年頃からスクラップ相場が急変し、業界は「逆有償」の取引形態に変わりました。鉄くずを売りに来た方から逆に処理費用をいただく状況になったため、本格的に産業廃棄物の分野に進出することにしたのです。祖父がかつて請け負っていた船の解体事業も加えて、解体・産廃・スクラップと事業を3本化しました。

ーー会社の強みはどこにありますか?

高橋克実:
全事業に関連性があるので、お客様にとって「ワンストップサービス」を提供できることが強みです。解体事業では木造家屋からビル、プラント、風力発電所、ロケット発射台などの複雑な建造物まで対応可能です。一社でリサイクルできる技術力はもちろん、責任を持って最終処理まで行う仕組みも、信頼をいただいている要因だと思います。また、CO2排出量などの情報をお客様にフィードバックできるメリットもあります。

企業成長のきっかけ――10年間で売上を10倍に

ーー1998年の入社後、社内に変化はありましたか?

高橋克実:
創業者の父が体調を崩したことを機に入社したのですが、当時は工場の仕組みがほとんどありませんでした。その後、環境の国際基準であるISO14001を取得したことで、会社が大きく変わっていったのです。従業員を組織化し、工場長・部長・班長というように管理者を決めました。工場も細かく分けて、「物は水平・直角に置くこと」など作業ルールを改めました。仕事が円滑になり、システムの変化による影響は大きかったと思います。

ーーISO取得のきっかけは何でしたか。

高橋克実:
ISOを取得した同様の会社の記事を新聞で読み新聞で読み、訪問したことからです。その会社の社長と担当の方にお願いして顧問になって頂き、おかげさまでISOを取得できました。5〜6年で事業規模が10倍になり、私を息子のように可愛がってくれた顧問の方には本当に感謝しています。

ーーお取引先も大きく変わったのでしょうか。

高橋克実:
ISOを取得した会社が少ない時代だったので、営業やプレゼンにはかなりの力を注ぎました。訪問先で無下に扱われることもある中で、飛び込み営業をした大手企業に受け入れられたときは「渡る世間に鬼はない」という言葉を実感しました。現在の主要なお取引先は、当時からのご縁が続いている会社がとても多いです。スクラップ事業は父の代からお付き合いしている会社があり、共に成長させていただいたことをうれしく思っています。

リーダーとしての飛躍――「稲盛和夫氏の本に感銘を受けて」

ーー経営理念(会社憲法)について教えていただけますか。

高橋克実:
会社が急激に成長し、33歳だった私は次に何をするべきかわからなくなりました。そんなときに出会ったのが、稲盛和夫さんの著書「実践経営問答」です。本の内容に心から感動した私は「会社憲法」と題した経営理念を作り、従業員に浸透させることにしました。「積極性と堅実性を兼ね備えること」は相反する心得に聞こえますが、積極経営を続けることが、堅実性にもつながると思います。

ーー貴社の社風はどのようなものでしょうか。

高橋克実:
「働きたくなるような社風」を目指しています。一部派遣スタッフもいるので、弊社を気に入った方にそのまま在籍してもらえる会社にしたいのです。それには、新卒社員など従業員に定着してもらえる会社であることが大切です。目標とする社風は家族主義経営で「笑顔でワイワイ・ガヤガヤできる文化」です。うれしいことに、「社長が現場に来たらみんながニコニコする」と言われたことがあります。

人が安全であるために――既存技術とAI・ITとの共存

ーー今後注力していくポイントを教えてください。

高橋克実:
今の役員は40代〜60代が中心なので、マネジメント層の育成を強く意識しています。20代から40代を集めて月1回開く営業戦略会議は、「ワイガヤ」文化をつくる場所にもなっています。現在の社員数は全体で約160名です。採用も強化して10年後には350名、売上は300億円を目指しています。

建築業界やリサイクル業界は人手不足が止まらないため、作業をロボットやAIに置き換えていく必要もあります。遠隔技術が発達すれば、被災地などの危険なエリア、高温下などの過酷な環境にも人が立ち入らずに済むようになるでしょう。

ーー最後に、若者に知ってほしい格言をお願いします。

高橋克実:
稲盛和夫さんの「全て心に描いたとおりになる」という言葉を挙げます。人生は自分の思ったとおり、言葉に発したとおりになる、と私も思っています。松下幸之助さんの「はしごがあったから登れたのではなく、どうしても上に登りたいという思いがはしごを作り出した」という言葉も胸に刻んでいます。会社でもお金でも商品でも、結果として「思い」が物質化したものであると考えて、大きく豊かな夢を持ってください。

編集後記

イボキンが実現したリサイクルにおけるワンストップサービスは、顧客にとって便利なだけではない。不法投棄などの違法行為をせず、コンプライアンスを遵守する会社だからこそ「すべてを任せられる」という安心感は何よりも大きいはずだ。積極的にITを取り入れていくことで、今後もさらなる進化を遂げることだろう。

高橋克実/1969年、兵庫県生まれ。甲南大学経済学部を卒業。津田鋼材株式会社(現・三井物産スチール株式会社)などの勤務を経て、1998年に父が経営する株式会社イボキンに入社。以降、ISO14001を取得し、積極的に業務拡大に努める。2007年、代表取締役に就任。