1957年に創業し、芝生の販売業から始まった蛭川造園土木株式会社。関西を中心に全国の名門ゴルフ場のコース造成をおこない、これまで国内140か所の造成実績を持つ。現在はゴルフ場のメンテナンス業に加え、サッカーやラグビーなどの国際大会に使用されるグラウンドの整備もおこなっており、2019年に開催されたラグビーワールドカップ2019の開会式・開幕戦の会場や、東京オリンピックの会場も手がけている。
代表取締役社長の蛭川隆志氏に、メンテナンス業を始めたきっかけや、芝生の品質管理のポイント、今後の展望について話を聞いた。
徹底的なデータ分析で芝の品質向上を極める
ーー現在の主力事業であるゴルフ場のメンテナンス業を始めたきっかけは何ですか?
蛭川隆志:
1955年代、日本にゴルフブームが巻き起こり、ゴルフ場が急増しました。それぞれのゴルフ場では差別化を図るため、主にコースのデザインで個性を発揮していたのです。
しかし、コースのデザインは素晴らしくても芝が荒れていてはお客様の不満は募り、逆にコースづくりは少し甘くとも、芝の仕上がりが美しければ満足度も上がります。芝の品質の良し悪しがゴルフ場の評価を左右すると実感したことが、メンテナンス事業を始めたきっかけでした。
ーー芝の品質を高めるために、どのような対策をしているのですか?
蛭川隆志:
土壌や植物に含まれている成分を全て分析し、試行錯誤を重ねデータを蓄積してきました。これらのデータを元に行動することで近年の異常気象にも対応できる体制が確立されてきました。
結果として、史上最も暑かった2023年は全国的に各コースのグリーンが枯れていく程に苦戦した一年でしたが、弊社が手掛ける12コースでは5平米のみの張替えで、酷暑を乗り切ることが出来ました。
他社でも成分の分析をしている企業はありますが、お客様に参考として見せるためにデータを取得している場合が多いのではないでしょうか。弊社では徹底的に自分たちでデータをつくり、活用することで芝の品質向上に役立てています。
世界基準の技術「シスグラス」と「NGL」の導入で日本のスタジアムを変える
ーーゴルフ場のメンテナンス以外にも、輸入業として「シスグラス」というハイブリッド芝を導入していますね。
蛭川隆志:
ゴルフ場の建設数も減り、新たにスタジアムのメンテナンスに取り組み始めました。そこで導入したのがイギリスのSIS社で開発されたハイブリッド芝「シスグラス」です。
「シスグラス」は、ポリエチレン製の人工繊維を地中に打ち込むことで芝生の耐久性・回復性を高めます。天然芝の倍以上の使用時間に耐えうるとのデータも出ており、世界の名だたるサッカークラブやワールドカップ開催スタジアムに導入されています。
日本のメンテナンス技術は高く、確立されつつありますが、環境や試合数の影響で問題のあるスタジアムも少なくありません。そこで弊社は、世界の先端技術をJリーグの規定改正前からいち早く輸入し、業界に一石を投じ新しい分野を切り開いてまいりました。
ーー同じく輸入業として扱っている「NGL」というライティングシステムについて教えてください。
蛭川隆志:
「NGL」というグローライトは、特殊な光を当てることで芝生の成長を促す補光設備です。通常生育が難しい環境下でも強制的にライトを照射することで成長を促し、選手はもとよりお客様からも大変好評をいただいています。
2023年12月に、Jリーグが2026年から2027年にかけてのシーズン制から「秋春制」に移行するという発表がありました。しかし雪の降る寒冷地では芝生の状態が保てず、試合開催が困難な地域もあることが問題視されています。そのような場所でグローライトを使用すれば、冬場でも成長を促せるため、寒冷地での開催も可能になるのです。
世界のトップチームのスタジアムではグローライトは標準装備となっており、新設する際は置き場も設計されているほどです。国内実績では、ノエビアスタジアム、Uスタジアムや、2021年にはエスコンフィールドにも導入されました。
弊社が輸入販売を続けることで、日本の芝生の品質は飛躍的に向上すると確信しています。
「好奇心」を胸に、新しい時代への挑戦を続けていく
ーー今後の企業としての展望を教えてください。
蛭川隆志:
現在、新しい時代への挑戦として保育園や不動産の仕事も展開しています。造園業と保育園については後継者を育成しており、いずれは代表権を別の者に移し、私はグループ全体の動きを統率していきたいと考えています。
父から受け継いだ会社ではありますが、私自身は同族経営にこだわっておらず、会社にとってプラスになるなら血筋は関係ないと思っています。そのため、社員の背中を押すつもりで、「早くこの老害を会社から追い出してくれ」と口癖のように話しているのです。
ーー中途採用が多いそうですが、新卒採用の予定はありますか?
蛭川隆志:
今後、新卒は毎年5人以上採用していきます。造園業というと、地方で植木や芝刈りなどの作業をすると思われてしまい、若い世代の方には敬遠されがちです。でも、弊社は他の企業とは全く発想が異なり、世界の先端技術を取り入れ、さまざまなことに挑戦しています。弊社に入社した新卒の方たちも、「面白いことをやりたい」と夢を持ち、目をキラキラと輝かせている人が多いですね。
ーーこれから入社する方や、若い世代に向けてメッセージをお願いします。
蛭川隆志:
「好奇心を燃やせ」、これに尽きます。僕自身も会社を通して世界中の技術やアイデアを取り入れ、常に新しいことに挑戦しています。若い世代の方には好奇心を胸に抱き、よりたくさんのことに挑戦して経験を積み上げてほしいと思っています。
編集後記
日本のグラウンドに新風を吹き込む整備技術が、スポーツ業界に大きな衝撃を与えた。関係者からは「まるでピッチに魔法がかかったようだ。ようやく日本にもこの時代が来た」と喜ばれたという。
芝の状態のみならず、競技の知識や選手への尊敬を絶やすことなく仕事に取り組む蛭川氏の姿勢からは、スポーツ業界全体への情熱を感じた。同氏が挑む芝の品質向上の先にある、日本のグラウンドの変貌に期待は膨らむばかりだ。
蛭川隆志/1971年兵庫県生まれ。1990年中古車販売業にて起業。1996年製造販売業にて起業。1999年蛭川造園土木株式会社に入社し、ゴルフコース管理事業を開始する。2015年、同社の代表取締役社長に就任、輸入業を開始。同年、蛭川株式会社(不動産業)を設立。2021年BOSS株式会社(福祉・保育)を設立。現在は、新規事業開発と各事業法人の代表取締役を務める。