※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

「原薬」というものをご存知だろうか。原薬とは薬の製造に使われるもので、薬に含まれる「有効成分」のことだ。

この原薬製造に取り組んでいるのが、神奈川県座間市に本社を置く桂化学株式会社だ。1948年創業と歴史は長く、70年以上にわたって日本の医薬品業界を支え続けている。従業員数約50人という少数精鋭で、国内、海外製薬メーカーのグットパートナーというポジションを確立しているという。

なぜ規模が小さくても業界内で存在感を発揮できるのか。代表取締役の桂良太郎氏に、組織の強みや戦略についてうかがった。

経営立て直しの統率者として新社長に就任

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

桂良太郎:
私が社長に就任したのは2003年のことです。前社長である父のあとを継ぐ形で、社員としての勤務を経て、社長に就任しました。ほかの企業を経由せずに、大学卒業後に2年間オーストラリア留学へ行ったのち、入社しました。

社長に就任したきっかけは、会社の経営立て直しです。当時、弊社は不採算部門の切り離しが必要なほど、経営状況が悪く、同時に従業員の士気向上も必要な状態でした。そこで、会社に新しい風を入れて再出発しようと、私が新社長となって社員たちを率いていくことになったのです。

ーー社長に就任してから特に大変だったことを教えてください。

桂良太郎:
社長就任直後から始まった経営の立て直しが大変でした。当時金融機関から融資が受けられないレベルまで売上が落ち込んでいた弊社は、従業員数も30人未満まで減っており、資金繰りがかなり厳しい状態でした。

そんな状態が約7年続きましたが、ある製品が多くの顧客に受け入れられたことで、売上総利益が大きく向上し、会社の状況が改善しました。その製品はいつもどおり顧客の依頼で作ったものだったので、驚きました。

しかし、それと同時にコツコツと真面目に続けることの大切さを実感しました。漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』の登場人物のセリフのように、「あきらめたらそこで試合終了」です。どんなに厳しい局面でも、打破する方法を考え続けて常に真摯に対応し続ければ、どこかで事態が好転するきっかけが訪れると思います。

大切なのは顧客の「グッドパートナー」であること

ーー貴社の事業内容を教えてください。

桂良太郎:
弊社では「原薬」を作っています。原薬というのは医薬品に含まれる有効成分のことで、主に製薬会社が医薬品の製造に使います。主要な取引先は国内外の製薬会社で、国内の大手製薬会社のほとんどが取引先です。

また、新薬開発を主な目的とした『CDMO事業』にも取り組んでいます。CDMOとは「Contract Development and Manufacturing Organization(医薬品開発製造受託機関)」の略で、創薬ベンチャーや大学、各種研究機関などと連携して新薬開発に関する原薬開発から臨床試験、治験、薬事申請まで、一通りの作業に取り組んでいます。

また、化粧品やサプリメント、コンタクトレンズに使う素材などの開発もCDMOの対象範囲です。

ーー業務において特にこだわっていることを教えてください。

桂良太郎:
顧客と、「グッドパートナー」と呼べる、良好な関係を築くことです。顧客の目的や目標を達成したり、課題などをくみ取ってその解決に導けるように、お互いに手を取って進んでいくことを大事にしています。

顧客との信頼関係の構築は製品の質を高めるために欠かせません。顧客と共に同じビジョンに向かってこそ、本当に良いものがつくれます。

また、「薬」という人の人生に関わるものをつくる以上、「本当に信頼できる製品づくり」を徹底しています。自分の大切な人に安心して飲ませられる品質を維持するため、試験やルールの遵守などに徹底して取り組んでいます。

「桂化学クオリティ」で高品質の一つ上のクオリティを提供する

ーー「桂化学クオリティ」という独自基準を設けているとうかがいました。具体的にはどのような内容でしょうか?

桂良太郎:
「桂化学クオリティ」とは業務で遵守すべき23箇条の約束です。高品質のさらに上をいく、「顧客のかゆいところに手が届くクオリティ」を徹底し、製品の安全性確保や顧客からの信頼獲得に取り組んでいます。

「桂化学クオリティ」は顧客とのやり取りだけでなく、日常業務の中で培われていきます。常日頃から一つひとつの仕事を最大のクオリティで達成することで、業務の質が上がり、ひいては顧客に高い品質を提供できるようになります。

「グローバルニッチ」で世界にも進出できるポジションを確立

ーー貴社の強みを教えてください。

桂良太郎:
一言で言うと「グローバルニッチ」です。

弊社は組織として大きくないので、競合を避けるニッチ戦略を選んでいます。他社と勝負をしようとしても、世界には安価で大量に製造するメーカーがたくさんあるので、勝負になりません。

そこで弊社では、他社の参入が少ない、「複雑で時間がかかる分野」を選んでいます。需要は少なくても確実にニーズがある分野に取り組むことで、弊社だけのポジションを確立しているのです。このスタイルで販路を海外にも展開することで、世界的なブランディングを実現しています。

社会のスピード感に対応するため、若手育成に力を入れる

ーー今後、取り組みたいことは何ですか?

桂良太郎:
幹部育成と採用強化に取り組みたいですね。

まず幹部育成ですが、弊社はスピード感を求める社会に対応するために、各部門長を現場感のある40代前半の部長に任せています。これは実務面では有利に働いていますが、一方で会社運営の面では課題が残っています。

この課題をクリアするために必要なのが経営者目線からの幹部育成です。現場と経営の両方の目線を併せ持った幹部たちが会社を運営できるようになれば、新たな価値観を持った世代育成にも有利に働くでしょう。

また、採用強化については「とがった会社で働きたい」という意思を持った方に来てもらいたいですね。大手製薬会社がたくさんある中で、それでも弊社を選ぶ理由を持った方ならきっと活躍できるでしょう。原薬会社で働く素養である「素直で勉強好きで前向きな人」ならさらに期待できます。ちなみに、採用区分は新卒と中途それぞれ半分くらいの割合です。

編集後記

桂化学は品質に対する責任感が極めて高いが、この姿勢は原薬を取り扱っているためだけではなく、組織の体質やマインドによるところが大きいと感じた。会社の経営を立て直せたのも偶然ではなく、真の価値を真摯に求め続けた結果なのだろう。原薬で日本全体を支える「小さな巨人」の存在感は、今後も静かに増していくに違いない。

桂良太郎/1973年東京都生まれ。1996年、学習院大学法学部政治学科卒業。海外留学を経て桂化学株式会社へ入社。2004年、同社代表取締役に就任。