※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

埼玉県比企郡に本社を置く株式会社ビー・アンド・プラスは、1980年の創業以降、ワイヤレス給電業界のトップを走ってきた企業だ。同社は「ワイヤレス給電世界一」をスローガンに、幅広い分野の製品開発を行っている。

ワイヤレス給電を活用して世の中を変えていきたいと語る代表取締役社長の亀田篤志氏に、さらなる飛躍を続ける同社の強みや今後の展望についてうかがった。

世界に触れパッションが持つ力と可能性を知った

ーー株式会社デンソーを退社後、バックパッカーとして世界一周されたとお聞きしました。

亀田篤志:
弊社の創業者である父の背中を見て育ってきたので、学生時代からいつかは父の会社を支えたいと考えていました。デンソーで最先端技術やチャレンジ精神を学ばせていただき、いざ弊社に入社しようと思ったときに、その前に一度、違う経験を挟みたいと考えたのです。そこでバックパッカーとして約5か月間、世界を周りました。その経験で自分の人生観が大きく変わりました。

まず気付いたのが、自分の勘違いです。それまで恵まれた環境に生きてきたことに気づかず、自分の能力に少し天狗になっていました。しかし企業という土俵から降り、個として世界に出た時に、1人では何もできない空っぽの自分や、存在の小ささ、考えの浅さを痛感したのです。

同時に、笑うことの大切さを思い出しました。旅の途中に出会った子ども達が、些細なことでも本当に楽しそうに笑っていたのです。純粋に心から笑う姿を見て、1つのことに向き合って生きるのは、こんなにも尊いんだと学びました。バックパッカーの経験で、お金や社会的地位にとらわれず、1日1日を大切に考えて生きようと思えたのです。

ーー2015年の社長就任後は、アメリカ支社の立ち上げに尽力されたそうですね。

亀田篤志:
アメリカの最先端の企業にアプローチすべく、シリコンバレーの現地企業にコンタクトをとり続けました。コネクションのない、まったく新規の企業をアポなしで周ったのです。断られるケースも多かったですが、必死な思いが伝わってアポが取れ、後日30人ほどのエンジニアの前で3時間プレゼンさせてもらえたこともありました。

その際に感じたのは、パッションの大切さです。この経験を基に、社員には、たとえ英語ができなくても、海外に行くよう勧めています。綺麗な言葉で飾らなくても、パッションと製品を見せれば、相手に思いは伝わるものです。シリコンバレーで出会った人や数々の挑戦が、今につながっていると思います。弊社のリーンスタートアップのアドバイスも、彼らからもらったものなんですよ。

幅広いジャンルへの実績とスピード感で夢を叶える

ーー改めて、貴社の事業内容を教えていただけますか。

亀田篤志:
一言でいうと、ワイヤレス給電に特化した企業です。ワイヤレス給電は工場設備から電気自動車、ドローンまで幅広い分野で活躍していて、さまざまなところに可能性があります。

たとえば医療分野でいうと、体内にワイヤレス給電を埋め込み、体外から電波を与えて光らせて、癌を治療するといった活用方法もあります。弊社は分野を絞らず幅広く対応しているので、あらゆる業界のお客様がいます。

ーー貴社の強みはどういったものでしょうか。

亀田篤志:
弊社の強みは2つあると考えています。まず1つ目は、あらゆるジャンルに対して、実績と事例があることです。ワイヤレス給電の研究機関は多数ありますが、製品を扱うメーカーは決して多くありません。さらに、ワイヤレス給電の企業は、1つの分野に特化しているケースがほとんどです。その中で、弊社ほど幅広い分野の市場にチャレンジしている企業は珍しいのではないかと思います。

そしてもう1つは、スピード感です。弊社はリーンスタートアップというワイヤレス給電のプロトタイプを開発していますが、お客様から「こういうものが欲しい」とお話をいただいてからの試作開発が非常にスピーディーです。

これまで何千種類ものワイヤレス給電を開発してきたので、技術リソースの土台が十分にあります。お客様の夢を素早く実現できるのは弊社の強みです。

少し先の未来は、現段階ではわからないですよね。一歩進んでみないと見えてこない。そのため、最終製品はまだ先でも、まずはお客様と一緒に少し歩いてみるというのが、弊社のスタンスです。

ワイヤレス給電を活用しワクワクできる世の中をつくる

ーー今後の展望についてお聞かせください。

亀田篤志:
ワイヤレス給電を使ったシステムで、世の中を良くしていきたいと考えています。お客様の要望で製品をつくるだけでなく、ワイヤレス給電が搭載されたシステムを活用し、多くの夢を実現していきたいですね。現在は、ドローンやロボットのワイヤレス給電に力を入れています。

たとえば農業分野で、夜中に畑を荒らす動物を追い払うためにドローンを活用する事例があったため、ドローンを着陸させるだけで充電できるワイヤレス給電の製品をつくりました。ここからもう一歩、世の中を変えるとするならば、弊社がドローンを使った見守りなどの農業支援のシステムサービスを開発し、パッケージで提供するという構想が出てくるわけです。

お客様からのヒントで、ワイヤレス給電が生きる方法がどんどん見えてきます。システム単位の製品を開発することで、ワイヤレス給電の使い方も増えるのではないでしょうか。

ーー農業分野以外に考えているものはございますか。

亀田篤志:
個人的には、ドローンを活用した子どもの見守りサービスを開発したいですね。たとえば、ワイヤレス給電で充電しながら、朝や昼、夕方、夜の定時にドローンが街を巡回して子どもたちを見守る。ドローン自体が何かするわけではありませんが、監視の目があるだけで安心できる街になるのではないでしょうか。

また、医療分野でもワイヤレス給電を使えたらと考えています。医療は挑戦の積み重ねが人類の未来を変えます。その流れの中に弊社が関われたら、ワイヤレス給電を扱う会社としての社会的意義があると思うのです。子どもの見守りや医療分野での活用など、社会的意義があることなら売上関係なく挑戦していきたいですね。

ーー最後に、読者にメッセージをお願いいたします。

亀田篤志:
弊社は、ワイヤレス給電を世界一楽しんでいる会社だと思います。ビジネスだけを考えるのであれば、売上を最優先することが正解なのかもしれません。しかし、「人生において世の中をどれだけワクワクさせられたか」ということは、お金には代えられません。お客様には、ぜひ私たちと一緒にワイヤレス給電を楽しんでいただきたいですね。

編集後記

取材を通して、亀田社長の形にこだわらない柔軟さや、企業の社会的意義に対する熱い思いに感嘆した。大きな可能性を持つワイヤレス給電を楽しみながら社会に広げていく株式会社ビー・アンド・プラスは、今後さらに躍進するだろう。

亀田篤志/1979年埼玉県生まれ。北海道大学大学院量子集積エレクトロニクス研究センター卒業後、株式会社デンソーに入社。2007年株式会社ビー・アンド・プラスに入社し、2015年代表取締役社長就任。ワイヤレス給電世界一の企業を目指す。