2024年2月の訪日外客数が279万人にのぼり、前年同月比では89%増であることが日本政府観光局から発表された。これはコロナ禍以降で最多であり、日本のインバウンド率は増え続けていることを示している。
このようなインバウンド業界を支えているのが、株式会社HANATOUR JAPANだ。同社代表取締役社長の李炳燦氏に、事業内容や同社の強み、今後の旅行業界の課題などについて、話をうかがった。
韓国の大手旅行会社との出会いにより共同出資で会社を設立
ーー貴社は韓国の旅行会社との共同出資で設立されていますが、出会った経緯について教えてください。
李炳燦:
前職で多くの旅行会社と取引をしてきた中の1つがHANATOUR SERVICE INC.でした。愛知万博が開催された2005年頃から韓国の旅行客が増加してきたタイミングで、「一緒に会社をつくらないか」と誘われたのです。
前職で培った仕入れ力を活かして、面白いことができると思い、共同出資でHANATOUR JAPANを設立することを決めました。
日本旅行をトータルサポートできる安定したワンストップサービス
ーー事業展開について、詳しく教えてください。
李炳燦:
1つ目は、旅行事業です。訪日外国人へのサポートを行っており、ホテルや交通、食事、観光地などを組み合わせた商品づくりが主な仕事です。国によって日本へのイメージや好みなどが異なるので、それぞれにカスタマイズした商品を提供しています。BtoB向けの旅行サービスをワンストップで提供する「Gorilla(ゴリラ)」という販売サイトの運営も手がけています。
2つ目は、バス事業です。2005年頃に韓国からの観光客が増えたことにより、バスの需要が高まりました。そのタイミングで、取引先だった株式会社友愛観光バスの社長から「うちを買いとってほしい」と依頼を受け、バス事業をスタートすることになったのです。今では120台を超える観光バスを運営するほどにまで成長しています。
3つ目は、ホテルなどの施設運営事業です。これは子会社である株式会社アレグロクスTMホテルマネジメントが運営しています。弊社の送客力を活かした事業です。
ーー貴社の強みやオンリーワンの要素をお聞かせください。
李炳燦:
インバウンド強者といわれる企業は、ほとんどが社員数10名以下の小規模な会社です。しかし弊社は、設立した2005年には約40名の組織であり、また日本全国で安定した送客を行ってきました。弊社のような規模で日本全国をカバーしている会社はほとんどないと自負しています。
個人客をパッケージ化するためのシステム開発で売上アップを目指す
ーー現在の事業における注力テーマを教えてください。
李炳燦:
販売サイトを向上するべくGorillaシステム3.0の開発を行っています。弊社の売上の半分以上が団体客からの収益ですが、今後は個人客が増える流れになることは否定できません。
そこで、そのような個人客の旅行をパッケージ化するためにGorillaシステムの開発を進めています。開発はベトナムにあるシステム会社に依頼しているのですが、点検やアップグレードは弊社で行っています。
弊社には今までに蓄積された商品とデータがあるので、将来的には生成AIを搭載し、データを基に、お客様の要望に合わせたホテルや交通手段などを含めたプランを、簡単に予約できるところまで実現したいと思っています。
日本人も外国人も安心して楽しく過ごせる環境整備が必要
ーー求める人材はどのような要素を持つ方ですか?
李炳燦:
「アイデア力」「思考力と実行力」「情熱」を持った人です。アイデアを持って方向を定めて努力ができる人は必ず報われます。実際に弊社でもそのようなポテンシャルとスキルを持った社員が働いているので、同じような方に活躍してもらえる環境だと思っています。
ーー5年後、10年後にどのような会社でありたいか、考えをお聞かせください。
李炳燦:
社員たち全員にグローバル人材になってほしいと思っています。そのためには、さまざまな人や文化に出会い、多様性とは何かを理解する必要があります。弊社ではグローバルな環境で多くの企業と接する機会が多いので、社員にはこの環境をうまく活用して成長につなげてほしいと思っています。
ーー読者に向けてメッセージをお願いします。
李炳燦:
日本のインバウンドは好調で、2030年には訪日外客数を6000万人まで伸ばすという目標も出されていますが、現状のインフラではその対応が厳しい状況です。また観光客が増えたことにより、オーバーツーリズム(観光公害)の問題も起こっています。
この対策として観光税をとる案が出ていますが、私はこれに賛成です。税金をしっかりとれば、インフラ整備に還元することができるからです。観光客にも私たちの大切な日本という国を守ってくれるようになることを望みます。
一方で、円安であることから、観光客向けに通常よりも高い価格を設定する二重価格制度の案も話題になっています。実際にハワイやシンガポールではこの制度が実施されていますが、前例が少ない日本でこれを行ってしまうとマイナスイメージがついてしまうのではないでしょうか。
日本に行きたいと思う人がさらに増えるような施策を、業界全体で考えていきたいですね。
編集後記
李社長は「団体客に比べて個人客に向けたサービスは手間がかかるので皆やりたがらない」と語る。その中で同社が個人客をターゲットにしたシステム開発・パッケージ化を進めているのは、今後のマーケットの変動に合ったサービスになるからとのこと。
その話を聞いて、社長が前職から培った「何が売上につながるのか」を見極める力を実感した。今後ますます盛り上がるインバウンド業界を支える大きな要として、同社はさらに重宝されていくだろう。
李炳燦/1964年生まれ、韓国全羅南道出身。1996年に日本大学法学部を卒業し、同年3月、旅行会社である株式会社ワスに入社。旅行会社の経験を経て、1999年に株式会社宇進を設立。2005年に韓国の大手旅行会社であるHANATOUR SERVICE INC.を親会社として、共同出資で株式会社HANATOUR JAPANを設立。2017年、東証マザーズ(現:東証グロース)市場に上場。