2002年に南青山で設立された株式会社ブライダル・イン・プロジェクト。洗練された結婚式の引出物や、電子カタログギフトの企画・販売でブライダル業界を盛り上げてきた。2021年にはスーパーカーとプレジャーボートのシェアリング事業をスタートし、世界の富裕層に重宝されている。代表取締役CEOの山田希彦氏に、これまでの歩みや今後の展望についてうかがった。
「経営者」という生き方に憧れてブライダルギフト事業で独立
ーー起業した経緯をお話しいただけますか。
山田希彦:
独立を目指した背景には、経営者だった父の影響が大きくあります。家族で海外旅行をした先々で、父が取引先の社長たちに出迎えられていたことが印象的でした。家族ぐるみで付き合い、信頼関係を築く「経営者」という生き方に面白さを感じ、いろいろな人と出会うために「仕事」があるのだと思ったのです。
大学卒業後は、20代で独立すると決めた上で証券会社に就職しました。金融について学べるほか、多くの経営者に出会える仕事だと思ったからです。海外留学制度を利用して英語を学ぶ予定でしたが、会社の方針変更により叶わず、外資系企業への転職を決めました。面談時の要望が受け入れられ、社費で英語の家庭教師をつけていただけたことに感謝しています。
起業のために事業の種を探す中で、ブライダル会社を経営していた友人を通してウェディング業界に興味を持ちました。「もっと業界のコンテンツを充実させたい」という話を受けて、僕が仲間を集めておしゃれなブライダルギフトを扱う会社をつくることにしたのです。
ーーギフト事業の変遷をうかがえますか。
山田希彦:
創業後しばらくはアジアや東ヨーロッパでものづくりができましたが、円安と人件費の高騰で製造コストが上がる一方、新郎新婦からはギフトの多様さが求められる時代となりました。一つのアイテムを海外で大量生産するビジネスは難しくなり、抱えていた在庫は東日本大震災や熊本地震の際に寄付する形で完全撤退しました。
2013年に戦略的子会社として株式会社ギフトライフを設立し、カタログギフトの電子化を推進、無在庫の受発注システムが実現しました。当初は売り上げが伸びなかったものの、リッツ・カールトン東京への導入を皮切りに一気に成長しました。しかし、コロナ禍以降は「小さな結婚式」がトレンドとなり、引き出物事業だけでは厳しい状況となったのです。
VIP向けコンシェルジュサービスで「プライスレス」な時間を提供
ーー現在注力しているのはどんな事業でしょうか?
山田希彦:
ギフト事業で築いたラグジュアリーホテル様との信頼関係と当社所有の資産を活かして、陸・海・空のモビリティコンシェルジュサービス「A Wonderful Day」を展開しています。日本を訪れる海外の富裕層を中心に、ゲストの多様なリクエストにお応えする紹介制サービスです。
アジア最大級のヨットチャーター会社と業務提携して、アジアの海上でイベントやステイを楽しめるマリン事業を展開予定です。新婚旅行と合わせて家族とアイランドホッピングを楽しむ、一生に一度の体験を提供します。
カメラマン・通訳・シェフを同行させたり、ドローンで記念撮影したり、船上からサンライズやサンセットを眺める特別なウェディングクルーズをもっと広めていこうと思っています。
ーー御社全体のサービスの強みを教えてください。
山田希彦:
国内の新郎新婦から海外富裕層まで、ジャンルに縛られず、スーパーカーやクラシックカー、ヨット、ヘリコプターなど、陸・海・空すべての領域で移動手段や旅程をシームレスにコーディネートできることが強みです。
日本の交通事情に不安があるものの「スーパーカーを運転したい」という外国人向けには、先導車をお付けしたり、助手席でサポートしたりするなど、一人ひとりのご要望を満たす、国内唯一のモビリティコンシェルジュサービスとなっています。
「人生のハレの日を応援する」という方針で、社員同士で助け合う姿勢は会社の強みです。「お客様の最高の笑顔」のために、どんなご要望も実現することを心がけた結果、リピート率は売上の3割を占めるようになりました。
「記憶に残る1日」を増やすことが人生の豊かさにつながると考え、「生きていてよかった」「明日もがんばろう」と前を向けるような思い出づくりをお手伝いしたいと思っています。
ーー現在、特に注力している目標は何ですか?
山田希彦:
外国人の方に日本を「第二の故郷」だと感じてもらうことが目標です。僕は日本人として生まれて、「素晴らしい国である日本に恩返ししたい」と思うようになりました。日本の魅力をもっと世界にアピールするべきですし、円安の今こそチャンスです。
世界中の富裕層の心をつかめればまた訪日していただけて、日本が大きな経済効果を得られるという意味でもVIP向けモビリティコンシェルジュサービスにさらに力を入れたいと思います。
「世界中に友達をつくりたい」信頼でつながる経済圏づくり
ーー今後の展望をお聞かせください。
山田希彦:
オルタナティブ・アセット(代替資産)からなるアジア経済圏をつくりたいと思っています。たとえば、高級車の税が高く登録可能な車両台数が制限されているシンガポールでは、仲間同士で車をシェアする文化があります。弊社の事業に置き換えても、信頼関係で成り立つネットワークは安心感がある点でとても重要です。
「アジアの玄関口」である日本に立ち寄ったお客様が、遊休資産を活用し合える「経済エコシステム」がつくれたら面白いですよね。アジアの仲間として、日本ならではのコンテンツでアジア全域を盛り上げていくことが僕たちの役割だと思います。
僕には「世界中に友達をつくる」という夢もあります。日本経済に貢献する方法としては、海外の富裕層の友達に日本を好きになってもらうことが効果的です。その発想を実現できる環境にようやくたどり着きました。会社の最大の財産は「つながり」であると考え、今後も他社にはない試みで「日本一、世界の富豪とつながる会社」にしていきたいと思います。
編集後記
ギフト事業からスタートしたブライダル・イン・プロジェクト。ギフトの形に「スペシャルな体験」が加わったことで、国を越えて支持される企業グループへと成長した。「最高の思い出をつくってほしい」という理念がサービスを通して伝わるからこそ、価値の高い「縁」が育っていくのだろう。父の活躍を見て育った山田氏が、形は違えど「世界とつながる経営者」になったことも非常にドラマチックだ。
山田希彦/1973年生まれ。青山学院大学を卒業後、日興証券(現:SMBC日興証券株式会社)に入社。日本最年少のプライベートバンカーとして活躍。その後、ドイツ銀行・証券会社にてプライベートバンキング部の立ち上げに参画。独立し、2002年に株式会社ブライダル・イン・プロジェクトを設立、代表取締役に就任。同社グループCEO。関連会社・ギフトライフ社にて、来日する世界の富裕層相手に陸海空のモビリティコンシェルジュサービス「A Wonderful Day」を展開。