ライフネット生命保険株式会社は、国内外の保険会社を系列としない74年ぶりの独立系生命保険会社だ。2012年より東証マザーズ(現東証グロース)市場に上場。「正直に、わかりやすく、安くて、便利に。」をマニフェストに掲げ、シンプルな商品設計や保険料の内訳の公開などを行い、「お客さま自身で自分に合った保険を選ぶ」というコンセプトを確立している。
今回は、同社、代表取締役社長の森亮介氏に、保険会社に入社を決めたきっかけや入社後の苦労、社長に就任するまでの経緯、事業の強み、今後の展望などについて話をうかがった。
苦手を克服するために飛び込んだ新たな業界
ーー保険会社に入社しようと思ったきっかけは何ですか?
森亮介:
前職のゴールドマン・サックス証券株式会社では、財務アドバイザリーを担当していました。
そこで金融機関の担当になったのですが、保険会社のお客さまが多く、業界知識を養うための学習に取り組む中で自然と保険業界に注目するようになりました。
そのときに感じたのは、保険業界の難しさです。製造業やサービス業など、他の業界ももちろんそうですが、保険会社の会計や財務分析には特有の難しさがあり、理解するまでに自信を失うほど苦戦しました。
最初から最後まで、ずっと保険業界への苦手意識を持っていましたが、「苦手なものを苦手なままにしておきたくない」という思いもありました。
「外部からアドバイスをするだけでは理解にも限界がある」と思い、いっそのこと、内部に飛び込み、「保険会社のファイナンスを自分でコントロールできるようになりたい」と思ったことが、入社を決めたきっかけです。
ーー入社後、営業部門に配属されて大変だったことがあれば教えてください。
森亮介:
営業といえば、商品を「売りに行く」プッシュセールスをイメージする方もいると思いますが、当社はお客さまが「買いに来る」のを待つプルマーケティングが特徴です。そのため、私が営業をしていたときも「どうすればお客さまが買いに来てくれるか」がミッションでした。
今まで保険を売った経験がない私が営業を行うことは、確かに大変でしたが、保険以外の業界を経験してきたからこそ、お客さまの視点を理解し、大切にできたのだと思います。最終的にはチームメンバーの献身的な努力のおかげで、プロモーションやサイトの作成、商品開発などを成功させることができました。
ーー代表取締役社長に就任するまでの経緯を教えてください。
森亮介:
2016年に執行役員、2017年に取締役に就任しました。そして2018年の年明けに、前社長から「次の社長をやらないか」というお話をいただきました。
私のような若輩者が「上場金融機関の経営者になる」というビジョンは社会人になった当初には考えていませんでしたので、話をいただいたときは驚き、数日考える時間をもらいましたが、最終的にはチャンスと捉えて社長になることを決心しました。そして2018年6月に、当社の代表取締役社長に就任しました。
お客さまに売るのではなく、買い求められる保険を提供していきたい
ーー貴社が展開する保険サービスのテーマを教えてください。
森亮介:
お客さまから買い求められる保険サービスを提供していくことです。保険業界は、「保険は他と違って特別な商品であり、売る(営業に主導権がある)商品だ」と考える傾向にあります。
しかし、私は保険も一般的な商品と同じだと思っています。お客さまも、保険は自分の生活を豊かにするための手段であり、幸せに生きていくための商品の1つと考えていると思うので、あまり特別扱いをしないように気を付けています。
誰かから売られるよりも、自分から買いに行く方が「自分で買った」という意思決定に自信が持てます。そういった考えから、当社では今後も「買いに行きたい」と思っていただけるサービスを提供していきたいと思います。
ーー他社と差別化しているポイントを教えてください。
森亮介:
主に3つあります。
1つ目は、独立系の生命保険会社であり、オンラインに特化しているということです。グループ会社を気にせずに事業を行える点や、リソースの分散がなくオンライン販売に集中できる点は、当社独自の強みといえます。
2つ目は、さまざまなバックグラウンドを持った優秀な社員が多く在籍していることです。
特にエンジニアやデザイナーは、オンラインサービス事業をつくる上で重要な役割を担うポジションですが、彼らは金融機関で働くことに対して「つまらなさそう」「伝統的でスピードが遅いイメージがある」などのネガティブな印象を抱いています。その点、当社には「金融機関らしくなくて面白そう」と思っていただける文化や風土があり、多様な人材が集まってくるのだと思います。
3つ目は、他社と連携して金融の経済圏の中に組み込まれる役割が増えていることです。当社はもともと直販のビジネスとして始まった会社で、商品開発からプロモーションまで全て自社で行っていました。しかし今では、いくつかの出来上がった金融経済圏の中に、当社の商品サービスが組み込まれています。これは、当社にとって明確な前進だと感じています。
当社は約15年間ビジネスを展開しており、他社よりもリードしている点が少なくないと思いますが、さきほどの3点の差別化のポイントなどを活かし、これからもリードの差を縮められることなく一層広げていきたいと思っています。
ーーリードの差を縮めないために意識していることはありますか?
森亮介:
2008年からつくられてきた事業の殻を破り、新しい挑戦をしていくことが大きなテーマです。参入してきている競合他社は、当社のことをよく研究しており、同じようにシェアを取れるよう事業を進めているので、それに対して当社は「横綱的な存在として一緒にオンライン生保市場を盛り上げていこう」という意識は持っています。
同時に、まだ誰も手がけていない領域にも取り組み、新しいものを生み出す必要もあると感じています。当社独自の活動も進め、新たな強みを持てるよう取り組んでいきたいと考えています。
ブランド力とオンライン事業のさらなる強化に取り組む
ーー現在新しく取り組まれていることはありますか?
森亮介:
キーワードとして大きく2つ掲げています。
1つ目は、現在のブランドをより強くすることです。ありがたいことに、当社の社名はある程度世間に知られていますが、「何をしている会社か」「どういう特徴の会社か」がまだ十分に理解されていないと感じています。
現在打ち出している強みは、部分的なものでしかないため、今後は伝えきれていない部分を含めてブランドとしての魅力をしっかりと周知していきたいと思っています。
2つ目は、「人が得意でインターネットが苦手なこと」を、乗り越えていくことです。インターネットは、場所や時間を問わず、どんな方が申し込んでも全く同じ顧客体験が再現され、ばらつきや不正が起こりません。
一方、お客さまの話を聞き、お客さまに合わせてカスタマイズするなど、従来人が得意としていることはインターネットは苦手でした。しかし、これからの時代はテクノロジーの発展によりオンラインが強くなる可能性が高まってきたので、「インターネットが苦手としている領域を、当社が強くしていけるのではないか」と考えています。
部門の垣根にこだわらず、想像力を持って働ける方に入社してほしい
ーー人材を育成するためにこだわっているポイントはありますか?
森亮介:
部門の垣根を意識しないような人事制度を設け、関わる範囲を限定しすぎないようにしています。経験したいことや挑戦したい領域にすぐ飛び込める環境づくりに配慮しているのです。
そのため、「ビジネスを総合的に見たい」、「自分の力がどのくらい通用するのか腕試ししたい」などと考える方には、当社はとてもマッチしていると思います。
ーー貴社が求める人物像を教えてください。
森亮介:
想像力を持った方に入社してほしいと思っています。オンラインサービスは顔の見えないお客さまのことを想像してつくらなければいけません。
また、当社にはさまざまなバックグラウンドを持った社員がいるので、他の部署や相手のことを想像して仕事を行えたり、リスペクトの心を持ち、一緒に前進していける方に来ていただければ嬉しく思います。
編集後記
最初は保険業界に強い苦手意識を持っていたにもかかわらず、その苦手を克服するために自ら保険業界に足を踏み入れた森社長。「売るのではなく買い求められる保険を届けたい」という思いのもと、常にお客さま視点を大切にした事業を展開してきた。
今後もブランド力や販売力の強化を進め、成長・発展を目指すライフネット生命保険株式会社をさらなる高みへと導いていくに違いない。
森亮介/1984年愛知県生まれ。2006年に京都大学法学部を卒業後、2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。投資銀行部門において、生命保険会社を含む金融機関に対する財務アドバイザリー業務に従事。2012年にライフネット生命保険株式会社に入社。企画部長、執行役員、取締役を経て2018年6月より現職。