※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

「日本における障がい者支援は理解や整備が進んでいない部分が多い」。そう語るのは、障がい者支援者向けオンライン研修サービス『Special Learning』を手掛ける株式会社Lean on Me代表取締役CEOの志村駿介氏だ。

志村代表は24歳という若さで障がい者を取り巻く社会環境を本気で変えたいと思い、起業経験ゼロから一人で会社を興したという。それが今では多くの企業や公共機関などと契約するサービスに成長した。

今日まで事業の成長を支えたものとは一体何なのか、起業のキッカケや事業に対する熱意、日本社会が抱える課題などについて、志村代表にうかがった。

障がい者支援のあり方を変えるべく24歳で起業

ーー起業するまでの経緯を教えてください。

志村駿介:
そもそも私がLean on Meを起業した理由は、障がい者支援施設で多くの職員が抱える悩みである、「障がいのある方とのコミュニケーションの取り方」を改善したいと思ったからです。

我が家にはダウン症の弟がおり、母が障がい者支援の仕事をしていたこともあり、私自身も障がい者支援施設で働いていました。そこでコミュニケーションがうまく取れない問題を多く見てきました。

しかも、当時障がい者支援について体系的に学べるサービスは世の中にありませんでした。課題があるのに解決策がない。そんな状態を変えたいと思い、2014年に24歳で起業しました。

自らの熱意を武器にゼロから事業を起こす

ーー起業のきっかけとなった出来事はありますか?

志村駿介:
障がいのある子を持つ親御さんたちの「将来の見通しが立てられない」という悩みを聞いたことです。皆さんが「自分の死後にも子どもが一人で生きていけるようにすること」という、避けて通れない大きな課題を抱えており、この悩みに誰かが向き合わねばならないと思ったのです。

ーー起業して特に大変だったことを教えてください。

志村駿介:
それまでシステムやコンテンツ制作を専門的に学んだことはなく、私にとって未開拓の分野でしたので、そもそも何から取り組めばいいかわからなかったのが大変でした。

最初に取り組んだのが、サービスの基礎となるシステム開発の方法や動画の作り方を覚えることでした。今でこそコンスタントに動画を制作できるようになっていますが、最初は動画編集の方法を覚えるレベルからのスタートでした。

次に取り組んだのが、コンテンツの内容となる、障がい者支援に関する知見を深めることです。障がい者支援の分野はアメリカが進んでいると言われていたので、オレゴン州へ渡って行政の研修を視察したりしました。

すべてが手探りの状態でスタートしましたが、これらのノウハウは事業の基礎を形作り、今も役に立っています。

40人以上の専門家との協力体制やリレーションを構築

ーー貴社の強みを教えてください。

志村駿介:
障がい者支援に関する40人以上の専門家に協力いただいた、専門性の高いコンテンツを体系的に提供できること、そして、業界とのリレーションが付加価値となっています。

特に、オンライン研修動画は多くの方から高く評価されており、2025年に予定されている大阪・関西万博では、障がい者向けガイドラインの作成やスタッフ向けの研修などを任されるまでになりました。

障がい者支援業界には障がい者の虐待が多いという問題がありますが、これは厚生労働省から「障がい者支援に対する知識不足が原因」と報告されています。弊社のサービスを通じて業界全体で知識の底上げができれば、この問題もゆるやかに解決していくと考えています。

ーー『Special Learning』の契約数や主な契約先を教えていただけますか?

志村駿介:
2024年4月時点での累計利用人数は約8万人、累計利用施設数は5,200施設です。2019年までは契約数が伸び悩んでいましたが、2020年にコンテンツが充実したことと、コロナ禍でオンライン研修が注目されたことをきっかけとして、大きく広まりました。

主な契約先は障がい者支援施設ですが、最近は障がい者雇用をしている企業や、少年院を管轄する法務省などとも契約しています。少年院で用いられている理由は、入院する方に一定の割合で障がいの特性や傾向のある方がいるためです。

日本社会が抱える障がい者支援に対する課題

ーー障がい者支援に関して、日本社会が解決すべき課題はどのようなことがあると思いますか。

志村駿介:
日本は障がい者に対する理解や寄り添いが進んでいないと感じます。特に日常生活でのコミュニケーションの取り方は理解が進んでいない部分です。

例えば電車に自閉症の人がいたとします。日本では対応が分かる人は少なく、戸惑う人もいるかもしれませんが、イギリスでは多くの人が自閉症の特性や対応を理解しています。

また、障がいのある方が何かうまくできないことがあった場合、日本では別の方が代わりに対応してしまうことが多いのですが、イギリスでは自分でできるように導くのが一般的です。障がいのある方から失敗体験を奪わないことで、成長する機会につながります。

組織を拡大してノウハウを活かしたサービス拡充を狙う

ーー今後、取り組みたいことを教えてください。

志村駿介:
事業の拡大と組織の拡大です。まず事業の面では、現行サービスの『Special Learning』をさらに広めたいと考えています。企業や飲食店、病院、学校でも活用が見込めますし、さらにアジア圏にもニーズがあると思っています。

また今まで蓄積してきたノウハウを活かす新事業にも取り組みたいと思っています。アイデアは100個近くあるのですが、障がい者福祉業界は通常の企業と違ってDX化が遅れている部分が多いので、それらをカバーできる専用サービスが必要だと考えています。

また、組織の拡大については、弊社のビジョンやミッションに共感してもらえる人材の獲得を進めていく予定です。弊社は規模が小さい組織ですが、多くの団体と協力して大きな社会課題の解決に取り組んでいます。誰もが住みよい社会の実現に取り組んでみたいと思う方は、ぜひ、弊社にお声がけください。

編集後記

社会が抱える課題を変えたいという思いを持つ人は多くとも、実際に行動できる人は少ない。志村代表の「障がい者を取り巻く社会環境を変える」という思いは、今後、日本全体を巻き込んで、さらに広がってなっていくだろう。

志村駿介/1990年生まれ。ダウン症の弟を持ち、障がいのある人と共生する環境で過ごす一方で、一般社会の障がいとの向き合い方に課題を感じる。真のノーマライゼーションの実現を志し、2014年に株式会社Lean on Meを設立。「障がい者にやさしい街づくり」をビジョンとして、障がいのある人への理解を促進するためのE-Learningである『Special Learning』を中心に事業を展開する。