大学が一緒だった3人の仲間が、大学卒業から2年を経た1998年、わずか3万3千円で設立した合資会社カヤック。
「面白法人カヤック」を通称するITクリエイター集団は、トライ&エラーを繰り返しながら事業を軌道に乗せ、2002年9月鎌倉に移転。“地域資本主義”を掲げて、IT業界の枠を超えた地域密着型の事業を展開し、2005年株式会社に組織変更、2014年12月東証マザーズ上場(現・グロース市場)と着実に成長してきた。
2024年現在グループ企業数18社という規模でありながら、決して初心を忘れることなく「面白法人」であり続けるカヤックのマネジメントについて、代表取締役CEOの柳澤大輔氏に聞いた。
インターネット黎明期に得意技を活かして友人と創業
ーー学生時代から貴社の設立に至るまでの話をお聞かせください。
柳澤大輔:
学生時代に出会った友人2人とともに、卒業してから2年後にカヤックを立ち上げる約束をしました。卒業後そのまま会社を立ち上げるのではなく、それぞれ別の道で経験を重ねてから自分たちの会社を始めようと決めていました。
また、友人3人で起業して面白い会社をつくろうということは決めていたのですが、「何をするか」はこの段階では決めていませんでした。「何をするかより、誰とするか」を重視して、会社を立ち上げたんです。
ーー何をするかという事業内容はどのように決まっていったのでしょうか?
柳澤大輔:
カヤックを創業した1998年は1995年にWindows 95が発売され、インターネットが普及し始めた時期です。
ちょうど設立者の1人がインターネットの研究をしていたこともあり、まずはホームページの制作業務を始めました。こうして「何をするか」が自然と決まっていきました。次第にホームページ制作が評価されるようになったので、採用でも「誰とするか」にこだわり、クリエイターに職種を絞って、ウェブ、アプリ、ゲーム、ネットサービスなど、インターネット領域の事業を拡大していきました。
鎌倉から新しい資本主義「地域資本主義」の考えを提唱
ーー貴社の企業理念について教えてください。
柳澤大輔:
企業理念は「面白法人」です。創業時に企業にも人格があるということを知り、自分たちを「面白法人カヤック」と呼んでいます。これは定款にも記載されています。
この「面白法人」という人格の中で、最も重視しているのは自らが「面白がる」というあり方や姿勢です。「面白がって仕事をする」ためにということを考え、「サイコロ給」に代表されるような給与制度や人事制度、働き方を実践してきました。
ーー鎌倉に本社を置いたのはなぜですか?
柳澤大輔:
先ほど、「何をするかより、誰とするか」という話をしましたが、「どこでするか」も重要な要素と考え、創業者の好きな土地でもあり、クリエイターに人気の湘南エリアということで、鎌倉にしました。
経済合理性を考えれば便利なのは東京で、当時も今も、企業は東京に一極集中しています。経済合理性という物差しでは、画一的になりがちです。でも僕たちは「面白さ」というのは「多様性」だと考えています。だから東京ではなく、鎌倉にあってもいいのではと考えました。
カヤックは鎌倉にコミットする上で、まちの社員食堂やまちの保育園、コミュニティ通貨「まちのコイン」などコミュニティの活性や働く人を支援する事業の他、葬儀社や不動産など地域社会のさまざまな場面に関わる事業を展開しています。
ーー経営者として、特に心がけている点を教えてください。
柳澤大輔:
変化の見極めとスピード感のある意思決定を心がけています。ご承知のように、ITコンテンツは、テクノロジーの進歩が極めて速い世界です。事業転換がほんの少し遅れただけで撤退を余儀なくされてしまうので、常に気をつけています。
自由な社風で社会全体に「面白」の波を広げていく
ーー「面白法人」であり続けるための具体的な社内ルールなどはありますか?
柳澤大輔:
弊社は、現在グループは関連会社も含めて18社、従業員数572人です。当然、組織の規模が大きくなるにつれてルールの数も増えていきます。
そこで考え方をシンプルにして、「これはやってはいけない」というルールだけを決めて、あとは自由、が基本です。とはいえ、ルールだけでは説明しにくいこともあるので、そういう場合はわかりやすいエピソードを伝えて理解してもらえるようにしています。
ーー最後にグループ全体についての考えをお聞かせください。
柳澤大輔:
面白法人グループの成長戦略は、「仲間を増やすこと」です。これまで「誰とするか」にこだわってきたように、「面白法人」という企業理念に共感する仲間を増やすことに注力しています。
グループが増えていくことで、グループの経営戦略が大きなテーマになります。「グループとしてのシナジー効果をいかに高めるか」「グループ企業間の文化をどのレベルで合わせるか」といった問いに対するグループ全体としての最適解と、個々の企業としての最適解をいかにバランス良く保つかについては、カヤック立ち上げの時とは異なる課題となっています。
ここでも、グループのビジョンとして「面白法人」を掲げ、自ら「面白がる」あり方や姿勢を追及していきます。そして、面白がる人がたくさん集う当社、及び当社グループが自由奔放に成長し、存在を広く知られることで、社会全体に「面白がる人」が増えて欲しいと考えています。
編集後記
学生時代の約束を実現し、設立された会社が鎌倉で唯一の上場企業に成長した。創業当時に掲げた「面白法人」というキャッチコピーを裏切ることなく、新たな事業にチャレンジし続けている。
柳澤社長は、課題に直面するたびに状況を冷静に見て、一つひとつ着実に解決してきた。“面白い”と“ビジネス”の両立に軸足を置いているからこそ、「面白法人」のブランドは今後も輝き続けるだろう。
柳澤大輔/1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントでの勤務を経て、1998年合資会社カヤックを、学生時代の友人である貝畑政徳氏(現・代表取締役CTO)、久場智喜氏(現・代表取締役CBO)とともに創業。2005年株式会社に組織変更。サイコロを振って給料を決める「サイコロ給」など、会社という形の新しい可能性に挑戦しながら、「鎌倉資本主義」を掲げ、人々の幸福度を高めるような、地域密着型の事業展開を追求している。著書に『鎌倉資本主義』(プレジデント社)、『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』(KADOKAWA)ほか。「デジタル田園都市国家構想実現会議」構成員。