IT業界の市場規模は、テレワークの整備やデジタル化が進むにつれ右肩上がりに拡大している。一方で、労働集約型のシステム開発におけるテスト工程でエンジニアに過剰な負担がかかり、労働環境の悪化が強く懸念されている。
この現状を脱却すべく、テスト用のAI搭載のアプリケーションを開発し、その運用を開始したのがアミフィアブル株式会社だ。事業が軌道に乗った現在、その視線は全業界に向けられている。代表取締役CEOの河村隆一氏に事業への思いと、社員採用の方針、将来の抱負などについて話を聞いた。
社会貢献への志と自動化技術の革新が生んだベンチャー
ーー貴社を創業したきっかけを教えてください。
河村隆一:
当初はコンサルタント会社に勤務し、銀行のシステムをテストする専門チームに所属していました。大規模な銀行だったためシステムの種類が数多く存在し、数十名から百名規模のエンジニアが会社から動員されてシステムを検証し、問題があれば作り直すという工程を、手作業で何回も繰り返す必要がありました。
実際の現場では単純作業が多く、「彼らの負担をなんとか軽減できないか」と強く感じ会社に直訴しました。予算を立ててもらい、自動化ツールを開発した結果、一定の成果を得ることができたのです。この時、現場からもとても感謝され「苦労を重ねていたみなさんの役に立ったのだ」という感慨を覚えたと同時に、「社会のためにこのツールを活用できるのではないか」という大きな気付きを得ました。
そこで、テスト工程を自動化するアプリケーションをビジネスとして開発しようという思いに至り、会社を立ち上げました。
ソフトウェアテスト市場はブルーオーシャンだったため、「新規参入にそれほど障害はないだろう」という読みを持っていました。それに何よりも、「自らの活動で社会に貢献したい」という強い思いがあり、その思いが起業の決意を後押ししてくれました。
特許取得とAIの活用によるテスト工程の自動化
ーー営業活動はどのように行いましたか。
河村隆一:
自社開発のテスト工程を自動化するアプリケーションは、AI搭載テスト自動化アプリ「MLET.Ⅱ(エムレット ドットツー)」として製品化しました。このアプリケーションによって、設計から実行、エビデンス取得までのテスト工程をAIを使って自動化することが可能になりました。当時、このような取り組みを行っている会社は他になかったので、MLET.Ⅱは特許を取得することができました。
「他社から真似される」というリスクがありますが、弊社は特許取得により先手を打って、他社からの参入障壁を作る戦略を取りました。
現在、日本のソフトウェアテスト市場は全体で5.5兆円ですが、外注先として専門で請け負っている会社の中で大手は3社のみで、その売上は業界全体でも600億円程度です。つまり、市場の中でまだ1%しか外注されていないのです。残りの99%は内製化されていて、ここがまさに私たちの活躍の場として残っているのです。
この未開拓の可能性が広がる巨大な市場で、弊社の特許取得済みAIのアプリを活用し、「ロボットに任せられる作業と人が行う作業を分担し、会社のコストを削減しませんか?」という提案をしています。
「MLET.Ⅱ」を使うことで、テスト工程のコストを約50%に削減し、システムの品質改善に役立てることができます。
ーー顧客には、どのような企業が多いですか。
河村隆一:
現在は主に、大規模企業を取引先としてターゲティングしています。システムの規模に比例してコスト削減の結果が表れるので、費用対効果を考えると、弊社のアプリは大規模企業が適しているからです。
いずれは小規模経営のお客様にもサービスを提供していきたいと思っていますが、それには人手も必要なので、まだ先の話になるでしょう。
ただし、業種にこだわりはありません。システム導入の需要はどの業界でも高いので、営業対象として全業種の全業務を念頭に置いています。しかし、やみくもに営業することは控えています。お付き合いがある企業に十分なケアをしていくことで、関連会社を紹介してもらえたり、弊社のサイトに問い合わせがきたりすることがあるからです。
どのような企業にも、労働環境の改善やコスト削減をさせたいというニーズはあるはずなので、その声が聞ける機会を逃さず、役に立てるサービスができるように尽力したいと考えています。
人間性を重視する会社の自由なカラーと上場への野心
ーー貴社の求める人物像を教えてください。
河村隆一:
弊社は、人間性を最優先に社員を採用しています。そのために、「素直さ」「誠実さ」「努力家」「前向きな姿勢」といった部分を重視しています。この4つの資質を兼ね備えた人材は、すでに優れた社会人だと私は考えています。
また、社員には「私たちは『スーパーマン』なのだ」と常々伝えています。スーパーマンである自分が恥ずかしくないように、自らを鼓舞して成長してほしいという強い気持ちがあるからです。スーパーマンの定義は人それぞれですが、自分の立てたその偶像に向かって、自ら考えて真っ直ぐ歩ける人を私は積極的に採用しています。
社風は良い意味で「自由」を掲げています。弊社はベンチャー企業でもあるので、自由がなければ自分の頭で考える人材は育ちません。「自由」と「自立」、これが弊社のカラーですね。
ーー将来の展望について、どのように考えていますか。
河村隆一:
数年以内を⽬途に上場を考えています。最低でも年間50%の成⻑を⾒据えているので、その頃には、売上は今の3倍や4倍になっているでしょう。まずは一つひとつ、お客様のお役に立てるサービスに尽力していきたいと思っています。
また、社員数は必要に応じて採用するという⽅針を⽴てていますが、現状は多くのお客様からのお問い合わせを頂いており、会社のカラーにあった人材を積極的に採用しています。
将来的には、販売代理店制度の導⼊を検討しています。これが整備されれば、社員採用のボトルネックの影響を受けずに売上を⼤きく拡大することが出来るでしょう。
社員⼀⼈当たりの稼ぐ利益を増やすことによって、⽇本⼀⾼い給料を⽀払う会社にしたいですね。
編集後記
「社会貢献」の言葉を軸に、企業の在り方に信念をもって臨んでいる河村社長。その思いは人に押し付けるものではなく、河村社長の人生経験から導かれた純粋な気持ちなのだと感じた。
ベンチャー企業としての気概を持ち、自由な環境の中で自分の頭で考えることができる社員を集める河村社長のその姿勢は、全業界を対象にしたサービスにも遺憾なく発揮され同社の利益に還元されることだろう。
河村隆一/1998年、東京理科大学先進工学部卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。2005年にアクセンチュア株式会社に転職後、シニアマネージャとして金融業界向けのプロジェクトを牽引。2014年、シンプレクス株式会社の執行役員に従事。2015年にアミフィアブル株式会社を立ち上げ、2019年より代表取締役CEOに就任。