2011年に設立された株式会社TableCheck。飲食店向け予約・顧客管理システムやゲスト向け飲食店検索・予約ポータルサイトなどを展開し、飲食店とゲスト双方により良い食体験を提供している。代表取締役社長CEOの谷口優氏に、サービス立ち上げの経緯や今後の展開についてうかがった。
独学ビジネスマンの旅。自らが決裁者になるための起業
ーー谷口代表の経歴を教えていただけますか。
谷口優:
10代半ばまでシンガポールで暮らし、20代で日本のクレジットカード決済代行会社に入社しました。営業として入ったものの、自由にやらせてくれる上司のもとで非常に多くの経験ができました。個人的に平日は1日6時間、土日は10時間ほど勉強していたため、次第に周囲の仕事のクオリティやスピード感に対し、違和感を覚え始めました。
特別起業を志したことはありませんでしたが、退社したきっかけも「自分で意思決定できない環境」にフラストレーションが溜まったからです。「社長になりたい」というより「決裁者でありたい」という思いがありました。
ーーどのように現在の貴社の事業につながるのでしょうか?
谷口優:
前職の仕事柄、ホテルの宿泊予約が急速にネット予約へとシフトしていく様を目の当たりにしたことがきっかけでした。ネット予約を導入することで、時差や言語の障壁をなくすことができ、人手をかけずに24時間予約受付が可能になりました。
さらに、ネット予約時にクレジットカード情報を取得することで、キャンセル料が容易に請求できるようになったんです。この2つの大きなメリットをもたらしたネット予約は、飲食業界でも必須になると痛感し起業した、というのが経緯です。また、もともと食事が好きということも、飲食領域で起業した大きな理由になりました。
生きている時間の多くを仕事に使うのに、自分のやりたいことをできない状況は間違っていると常々思っていました。「仕事中でも食のことを考え続けたり、レストランに行ったりすることを許されたい」という発想です。
強みは「レストランとゲストのためのプラットフォーム」
ーー他社との差別化ポイントを教えてください。
谷口優:
弊社が掲げるミッションは「Dining Connected 世界中の飲食店とゲストをつなぐプラットフォームになる」というものです。中立的かつ定量的な観点から飲食店とゲストの最適なマッチングを実現し、世の中の非効率・非合理を解消していきたいと考えています。
たとえば、「金曜日は予約必須でも月曜日は空いている」という飲食店は多いと思いますが、繁閑差に関わらず毎日同じサービス・商品に、同じ価格というのも非合理的です。需給バランスに合ったより最適なプライシングができるようになれば現状飲食業界が抱えているさまざまな課題の解決につなげられると考えています。
マーケットへの啓蒙――店とユーザーのミスマッチをなくしたい
ーー起業後に苦労した点はありますか?
谷口優:
マーケットインではなくプロダクトアウトな会社なので、マーケットが受け入れてくれるまで、啓蒙し続けなければいけません。創業当時、宿泊業界ではすでにネット予約が普及していたにもかかわらず、弊社の資金繰りは常に厳しいものでした。投資家に「レストランもネット予約が当たり前になる」とプレゼンしても、「電話予約で十分」と断られていたのです。
2024年2月にリリースした「TableCheck FastPass」も、飲食業界にとっては新しい概念なので、地道に啓蒙を重ねていく必要があるでしょう。このサービスは、手数料を支払うことで優先的に行列店へ入店できる有料の優先案内サービスです。
2017年頃から提案していたものの、「手数料で儲けると消費者に嫌がられる」「お客様は公平に扱うべき」という理由で拒絶するお店がほとんどでした。いつ世論が変わるのかは不明で、それまでは長いトンネルをひたすら歩いているような感覚です。
ーーダイナミックプライシング(需要と供給に応じた価格戦略)についての考えをお聞かせください。
谷口優:
外国人観光客には、普段の3万円のコースではなく、プレミアムウイスキーのペアリング(それぞれの料理にソムリエが酒を組み合わせること)付きで1人50万円の寿司コースのほうが喜ばれることもあります。そこに支払意欲の高い顧客がいるのに、お店側が一律価格にこだわることで機会を損失しているのです。
最近では「インバウン丼」が叩かれていますが、「なぜお店が利益を上げてはいけないのか?」という僕の思いは強く、新たな長いトンネルを歩き始めたように感じています。
ただ、TableCheck FastPassは予想よりも早く受け入れられていると感じています。すでに約30店舗の人気店に導入され、利用者数は4万人を突破しました(2024年6月末時点)。TableCheck FastPassは、来店意欲の高いゲストと、行列のできる人気店のより良いマッチングを実現しています。
企業が見つけた社会的意義――日本の食文化を守ること
ーー今後の展望について、お話しいただけますか。
谷口優:
「日本発の世界を席巻するテックカンパニー」を目指してグローバル展開もさらに進めていきます。また、さらに多くの海外ゲストを日本の飲食店に送客していける仕組みを強化していきます。飲食店の予約・顧客管理システムという枠を超え、日本の食文化を守り、育てていく、社会的意義のある事業だと思っています。
僕には「チーム・ジャパン」という考えがあり、日本を再び元気にしようと志す方に、弊社に来ていただけるとうれしいですね。世界中でリスペクトされている日本の食と海外のゲストをマッチングする仕事は、やりがいが大きいと言えるでしょう。
編集後記
「世間の常識を懐疑的に見てしまう」と語った谷口代表。「いい大学に入り、大手企業に就職すること」が理想とされる世間に抗い、自分が正しいと思う道を選んだ結果、幸せに生きている。起業を夢見る人は背中を強く押されたはずだ。
谷口優/1984年、神奈川県生まれ。幼少期の約10年間をシンガポールで過ごす。国際的な統合決済管理プラットフォーム企業で、営業・リーガル・経営企画など、さまざまな業務に携わる。2011年、株式会社VESPER(現・株式会社TableCheck)を創業、代表取締役社長CEOに就任。飲食店向け予約・顧客管理システムを世界35カ国・地域、約1万店舗に提供し、グローバル展開を進めている。