食品の製造過程で、大量に廃棄されていた動物の臓器を使い医薬品をつくり出すという独自の発想から、現在は、消化器や甲状腺などの内科、産婦人科、泌尿器科の3領域に強みを持つスペシャリティファーマに成長したあすか製薬株式会社。これまでの会社の歩みや、大きな変革期を迎えている製薬業界における今後の取り組みなどについて山口社長にお話をうかがった。
食品の製造・販売から医薬品部門へ参入
ーー貴社の事業内容について教えてください。
山口惣大:
弊社は主に医療用医薬品の製造販売を行っています。創業者はもともと食料品の輸入商として事業を立ち上げ、その後、肉や缶詰など食品の製造・販売を手がけていました。使用されない動物の臓器は廃棄されていたのですが、もったいないので活用できないかという発想から医薬品の研究開発につながったそうです。
ーー製薬会社の創業者が最初は肉の販売を行っていたとは意外です。
山口惣大:
捨てられていた臓器からホルモンを抽出する研究を始めたのが会社創立のきっかけです。最初に男性ホルモン製剤を発売、その後女性ホルモン製剤を発売するなど、ホルモン製剤を中心にラインナップを広げていきました。現在、特に注力しているのは産婦人科領域です。
女性のライフステージに合わせ、思春期から性成熟期、更年期とさまざまな製剤のラインナップをそろえています。また、それぞれの年代の悩みを広く共有しながら、正しい知識を伝えて、女性の不安を和らげることが私たちの大切な役目と考え、「女性のための健康ラボMint⁺」という情報サイトも立ち上げました。
治療だけではなく予防や予後にも貢献するトータルヘルスケア
ーー社長に就任してから注力してきた取り組みについて聞かせてください。
山口惣大:
弊社ではジェネリックと新薬の両方を取り扱っていますが、私が就任してからは新薬の開発に力を入れており、現在は売上の半分以上を新薬が占めています。
もう1つ、産婦人科や女性に多い甲状腺の病気など、特定の領域ではリーディングカンパニーであると自負しています。今後は治療だけではなく、予防、予後など産婦人科以外にも広く女性の健康に貢献できるトータルヘルスケア企業を目指し、グループの検査会社と連携して開発に取り組んでいるところです。
ーー2023年度に、産婦人科領域で売上ナンバー1を達成されましたね。こちらに関してはどのようにお考えでしょうか。
山口惣大:
女性の月経に関する疾患の医療ニーズが増えていると感じています。今の時代だから増えたのではなく、もともとそのような課題を持っている女性はたくさんいらっしゃったはずですが、病院に行ってちゃんと治療する方が増えてきたということだと思います。そのニーズを捉えてしっかり医薬品を供給できている点が、成長につながっているのではないかと考えています。
産婦人科領域のリーディングカンパニーとして海外への市場拡大を目指す
ーー今後のビジョンをお聞かせください。
山口惣大:
国内で産婦人科領域のリーディングカンパニーとしての地位を維持しながら、東南アジアでの市場拡大を考えています。2020年からはベトナムの製薬会社に出資し、共同で新工場稼働に向けたプロジェクトを進めています。
また、女性(Female)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語である「フェムテック」の取り組みとして、多くのスタートアップ企業様と連携し、⼥性のライフステージごとのさまざまな課題を解決できる製品やサービスの提供を検討しています。医薬品の研究開発をしながら情報提供活動にも注力し、市場をリードするトータルヘルスケアカンパニーでありたいですね。
編集後記
廃棄する動物の臓器から医薬品を開発するというユニークなスタートから、社会的ニーズに応えてきたあすか製薬株式会社。治すための薬だけではなく予防、予後にも貢献できるサービスを提供したいと語る山口社長は、枠にとらわれず自由な発想でさらに業界の最先端を突き進んでいくだろう。
山口惣大/1983年生まれ。神奈川県出身。2008年に首都大学東京(現:東京都立大学)大学院理工学研究科修了。2020年に一橋大学大学院経営管理研究科修了。2008年、株式会社日立製作所入社。2016年にあすか製薬株式会社に入社し、取締役常務執行役員、常務取締役を経て2021年、代表取締役社長に就任。同年、あすか製薬ホールディングス株式会社の代表取締役専務取締役に就任。