
アルミをはじめとした多様な素材の精密加工を強みとする株式会社エフエムシー。同社は、半導体関連装置や工作機械、ロボットアームなどに使用される多くの部品の加工を手がけ、幅広い産業を支えている。近年は自社ブランド「Tsunagari Factory(つながりファクトリー)」で消費者向け製品も展開している同社の代表取締役、森岡寛氏に話を聞いた。
ものづくりの師匠から技術と会社の未来を受け継いだ
ーー森岡社長のご経歴を教えてください。
森岡寛:
私が弊社に入社したのは2004年のことです。それ以前は兵庫県の会社で4年ほどものづくりの修行に励み、その後は東大阪の会社で工場長を9年ほど務めました。工場長としての経験は貴重なものでしたが、私は現場で自分の手を動かすことに喜びを感じる性格です。会社が大きくなるにつれて現場作業よりも管理業務が増えたことで、次第に物足りなさを感じるようになっていきました。
そうしたタイミングで、兵庫県の会社で働いていたときの師匠から声をかけていただきました。その方は弊社を創業した方で、私に加工技術を教えてくれた人物です。私は以前から「いつか独立してみたい」という思いを持っていたので、まずは経験を積もうと考え、弊社に入社しました。そこから技術と経営の両面を学び、2015年に師匠から会社を引き継ぐ形で、代表取締役に就任しました。
ーーこれまでの経験で、特に学びが大きかったことは何ですか?
森岡寛:
東大阪の会社で工場長を務めた経験が大きな財産です。機械が設置されただけの状態から工場を立ち上げ、電気工事から工具の調達、人材育成まですべてを担当していました。身近に相談できる先輩もいない環境でしたから、自分で考え、実行する力が養われたと感じています。
また、師匠から学んだ「素材にこだわらず、幅広く対応する」という姿勢も今に活きています。私はアルミ加工を得意としていましたが、師匠のもとでステンレスや鉄、鋳物などさまざまな素材や形状に挑戦したことで、技術の幅が何倍にも広がりました。このおかげで多様なニーズに応えられる技術者になれたことを誇りに思っています。
日本の産業を縁の下から支える確かな技術力

ーー貴社の事業内容について教えてください。
森岡寛:
弊社の主力事業は精密部品加工で、主に半導体装置メーカー向けの部品製造を行っています。半導体産業は日本の技術力の結晶ともいえる分野であり、そこで使われる部品には極めて高い精度が必要です。そうした要求に対し、確かな技術で応えています。
加工に際しては、マシニングセンターという機械を主に用いています。この機械は多様な工具を自動で交換しながら加工を行うもので、プログラミングによってさまざまな形状に削り出すことができるのです。この高精度な加工技術を評価いただき、工作機械やロボットアームを製造しているメーカーから数多くの依頼を受けています。
ーー主力事業以外では、どのようなことに注力していますか?
森岡寛:
昨年から「Tsunagari Factory」という自社ブランドを立ち上げ、BtoC事業に挑戦しています。この事業を始めたきっかけは、コロナ禍明けに参加した企業交流会での出会いにあります。会場で知り合った金型メーカーが自社ブランドを展開していると知り、「私たちもできるのではないか」と刺激を受けたのです。
そこで、弊社の精密加工技術を活かして、「爪楊枝も置ける機能的なアルミの箸置き」や、ジュラルミンを削り出した「アルミニウム合金のおちょこ」などの製品を開発しました。最近では広島の「JAM MASSIVE(ジャム・マッシブ)」というレゲエグループとの交流から、レコード用スタビライザーも製品化しています。
これらを自社ECサイトと奈良県にあるお土産店で販売していますが、さらに多くの方に触れていただくため、新たな販路の開拓に取り組んでいるところです。
職人の技を日常へ届ける「Tsunagari Factory」の次なる一手

ーー今後の展望をお聞かせください。
森岡寛:
今後注力していくのは、「Tsunagari Factory」ブランドでの新商品開発です。現在、箸置きやおちょこ、スタビライザーに続く製品として、キーホルダーやネームタグといった小物の開発を進めているところです。お客様からの声を大切にしながら、使い勝手の良さとデザイン性を兼ね備えた製品を生み出していきたいと考えています。
ーー最後に、この記事の読者へメッセージをお願いします。
森岡寛:
読者の皆様、特に若い世代には、日本のものづくりの価値を再認識してほしいと思います。海外製品との価格競争は激しいですが、日本の技術は決して負けていません。価格だけでなく、その背景にある技術や思いにも目を向けて、「Made in Japan」の製品に誇りを持ってくれることを心から願っています。
編集後記
森岡社長の言葉の端々から、ものづくりへの情熱と日本の製造業に対する強い思いが伝わってきた。価格競争の荒波の中でも「Made in Japan」の価値を守り抜こうとする姿勢からは、職人としてのプライドがにじみ出ている。エフエムシーの技術が惜しみなく込められた「Tsunagari Factory」の製品には、日本のものづくりへの誇りと、次世代への思いが込められていた。

森岡寛/1968年、兵庫県生まれ。阪南大学卒業。大学卒業後、兵庫県の精密部品加工会社に入社し、4年の修業期間を経て、精密加工技術を習得。1995年、東大阪市の製造会社へ入社し、工場長を9年間務める。その後、2004年に株式会社エフエムシーへ入社。2015年、同社代表取締役に就任。2024年、自社ブランド「Tsunagari Factory」を立ち上げる。