日本経済の活性化には地域の存在が欠かせない。地域経済を支える「農業」にスポットを当てた産地直送品のECサイトの運営と、ふるさと納税のサポート事業を展開する株式会社ローカルは、食品の製造から小売までを一貫して行うビジネスモデルとして「食のSPA(製造小売業)」を展開している。
同社の代表取締役社長、吉永安宏氏は地元に貢献したいという想いから起業し、立ち上げたECサイト「くまもと風土」は「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」を5年連続で受賞した。地方から日本を元気にするという志を実現するために大切にしている「農業とインターネットとの関わり方」について話をうかがった。
インターネットの力で地元の農業を救いたい
ーー起業までの経緯について教えてください。
吉永安宏:
23歳で上京して、WEB制作に携わりました。いずれは生まれ育った熊本に帰って地元に貢献したいという想いがずっとあったので、30歳でUターンし、WEB制作やシステム開発の会社を立ち上げました。
ーーその後、なぜ農業分野に取り組もうと考えたのでしょうか。
吉永安宏:
当時、世の中はまだIT投資に消極的で、WEB制作の予算も案件も少なかった中で、インターネットを活用して直接売上につなげるサイトを作りたいというニーズはすでに存在していました。そんな中、親戚のデコポン農家から農業の内情を聞く機会がありました。
話の中で、多くの中間業者を経由するため、農家の手取り収入が売上の3割程度になってしまう問題や、消費者からの声をフィードバックする機会がなかなか得られないという現状を知りました。この2つの問題はインターネットの力で解決できるのではないかと思い、その親戚のデコポン農家のECサイトをつくったのが農業分野に取り組んだきっかけです。
結果として、3ヵ月で200〜300万円を売り上げ、手取り収入も約3倍になったので、農家の方にとても喜んでいただけました。しかし、この単体の販売モデルでは、集客効率や事業拡大に限界も感じました。熊本には、デコポン以外にも魅力的な農作物が豊富に存在します。そこで、さまざまな農作物を集約し、弊社が仕入れて販売する「くまもと風土」というECサイトを立ち上げたのです。
熊本だけでなく、全国の自治体も注目するふるさと納税運営代行業務を開始!
ーーふるさと納税の運営代行業務を始めるきっかけは何だったのでしょうか。
吉永安宏:
「くまもと風土」が楽天市場の「ショップ・オブ・ザ・イヤー2015(年間MVP賞)肉・野菜・フルーツジャンル賞」を受賞し、楽天とのつながりができました。その縁から弊社が行っている地元産品の販売、仕入れルートの確保、マーケティング知識を活かし、楽天サイト内で2017年からふるさと納税の運営代行を始めました。
最初は、熊本県の玉東町(ぎょくとうまち)というみかんで有名な人口5,000人程度の小さな町を担当しました。その結果、前年は1年間で100万円ほどだった寄附金額を、初年度8ヵ月程度の運用で3億3000万円まで伸ばすことができたのです。その実績が口コミで広がったこともキッカケとなり、近隣からの依頼が徐々に増え、今では熊本県内で10自治体様、全国で32自治体様とご契約させていただいています。
仕入れ、加工、販売!トータルで関わる人の満足度を上げる食のSPA
ーー貴社のサービスがこれほどまでに多く選ばれる理由を、どのように分析されていますか?
吉永安宏:
弊社のビジネスモデルの強みは、2つあると考えています。
1つ目は、地域の産品を活かして世の中で選ばれる返礼品を製造し、ECサイトで販売できることです。たとえば小麦や小豆の産地とのプロジェクトの場合、単に小麦の販売を手がけるだけでなく「小麦と小豆を使ってあんパンをつくる」「小麦を使ってピザをつくる」といった、その地域ならではの工夫を施した地場産品の開発を行っています。
弊社は、精米工場やミネラルウォーター工場、ベーカリー工場、精肉加工工場といった自社工場も所有しているため、商品開発だけでなく、製造から検品・出荷までを一貫して行うことが可能です。
2つ目は、以上の工程を踏んだ商品を自社ECサイトでも販売する。つまり、その出口までをも自社で担っているという点です。
この2つが弊社の強みで、多くの方にご支持いただいている理由だと感じています。
ーー最後に貴社が目指しているビジョンについて教えてください。
吉永安宏:
一番は「食のSPA」としての地位を確立させることですね。“SPA”という言葉はもともとアパレル業界が由来の、商品の企画から生産、販売までを統合したビジネスモデルのことを指します。これを私たちも同じように、地域資源を活用し、弊社で開発・製造したものをECサイトで販売することにより「食のSPA」としてのポジションを築き上げたいと考えています。
フルーツはデリケートな商品なので、発送する際は梱包方法や事前のリスク説明なども重要です。そこで、弊社の出番です。ECサイトの経験を活かし、どうしたら満足いただける状態でお客様の元にお届けできるか。製造から販売だけではなく、アフターフォローの体制までトータル的にサポートしたいですね。また、将来的には海外展開も視野に入れていきたいと考えています。
弊社のビジネスモデルは、地域の上質な食材を活かして美味しい商品をつくり、多くの方に喜びを提供する。そして、それを地域の財源確保につなげる。そのような好循環を目指しています。
そういったことにやりがいを感じていただける方々と一緒に仕事をしていきたいですね。クライアントである市町村の財源確保のお手伝いこそが継続すべき業務であると胸に刻み、これからも尽力していきたいと思います。
編集後記
「いずれ社員たちがそれぞれの地元に戻って、ふるさと納税やECサイトを盛り上げてくれたらいいですね」と吉永社長は語る。ECサイトという出口だけでなく、開発、製造といった入口部分としての役割も果たすふるさと納税をサポートし、地方自治体と一緒になって地域や日本の活性化を目指す姿勢に多くの学びを得た。
吉永安宏/株式会社ローカル代表取締役社長。23歳で上京し、WEB制作業務に従事。30歳で熊本に戻り、株式会社ローカル(旧株式会社コムセンス)を創業。農産品や加工品を販売するECサイト「くまもと風土」を立ち上げ、楽天市場の約5万7000店舗の中から選ばれる年間MVP「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」を7回受賞。