「労働生産性向上」や「働き方改革」を旗印に、業務のデジタル化が進む現代において、その実現手段として注目されているのが、導入・運用コストを軽減できるクラウドプラットフォームの活用だ。ただ、企業ごとの環境に合わせてデータ管理やセキュリティ対策などの細かな設定を行わなければならない点が、導入するうえでの大きな壁となっている。
この問題を解決に導くのが、クラウドプラットフォーム向けデータマネジメントサービスを提供する、米国のITベンダー、AvePoint,Inc.だ。同社は2008年に日本法人AvePoint Japan株式会社を設立し、日本独特の企業文化や商習慣を捉えた事業戦略で市場開拓を進めてきた。「日本の労働生産性の向上に寄与したい」と夢を描くAvePoint Japanの代表取締役、塩光献氏に事業についてや、今後の展望をうかがった。
社長に就任するまでの経緯
ーーAvePoint Japanに入社した後、どのような経緯で代表に就任しましたか。
塩光献:
2008年、マイクロソフトのグローバルパートナーでもあるAvePointが日本市場に進出する際に「新設の日本法人で正社員にならないか」と声をかけられました。当時、私は日本マイクロソフト株式会社の契約社員として社内のITサポート業務に携わっていました。
日本語・英語のバイリンガルであり、マイクロソフトで「Microsoft SharePoint」(AvePointが扱うクラウドプラットフォーム「Microsoft 365」にも実装されている機能)というコラボレーションツールを熟知していた私は、「自分のスキルや経験を存分に活かせる」と感じて入社を決めました。
入社後は、ビジネスを早く軌道に乗せるべく、エンジニア職と兼務でマーケティングやセールス、お客様サポートなどあらゆる業務に関わりました。その後、数年間シンガポール拠点のカントリーマネージャーを務め、2013年に日本法人に戻り、代表に就任しました。
ーースタートアップの頃は苦労も多かったのではないですか。
塩光献:
苦労もありましたが、その中のやりがいの大きさに喜びを感じていました。AvePointにはもともと「率先して手を挙げ、新しいことに取り組む社員にはどんどん機会を与える」という企業文化が根付いており、私はそのカルチャーがとても気に入っています。開設したばかりの日本法人で、23歳の未熟な若輩者の私が職務を超えて行動できたのは、このカルチャーがあったからでしょうね。
「自由を着こなし、責任を果たす」
ーー仕事に臨むうえでどのような信念をお持ちですか。
塩光献:
私なりの表現ですが、「自由を着こなす」ということを大事にしています。かみ砕いて説明すると、「やりたいことをやる=自由」には責任が伴い、その責任を最後まできちんと果たす必要があります。そのような自覚を持って行動し自由を得ている人は、やはり格好良いですよね。なので、ファッションに例えて「着こなす」という表現をしました。
もう1つ、「最大の敵は自分」という考え方も肝に銘じています。アクシデントが起きた場合、周囲の人や環境などのせいにしがちですよね。しかし、まずは「自分の中に何か問題点や落ち度がなかったか」ということを考えます。それが、きっと成功への近道になるでしょう。
国内市場への真剣な取り組みが差別化を生む
ーー貴社の事業内容を教えてください。
塩光献:
「Microsoft 365」をはじめとするクラウドプラットフォームでのデータの保管・保護、セキュリティやコンプライアンス対策などの運用・管理をサポートするマネジメントサービスを展開しています。大手から中堅・中小にいたる企業、官公庁・地方自治体、教育機関を対象として、個々のニーズに応じたカスタマイズを行い、業種・業態ごとの特性を捉えたソリューションを提供しています。
また、「Microsoft 365」と組みわせて利用するエンドユーザー向けアプリケーションの開発・販売も行っています。たとえば、社内の備品管理・予約、コミュニケーションに用いる掲示板、日本企業の階層型組織に適したアドレス帳といったソフトウェアを商品化しています。
ーー貴社の強みは何でしょうか。
塩光献:
外資系でありながら、日本の言語や文化、習慣をきちんと踏まえたビジネスを展開していることです。
先進的なITテクノロジーは主に欧米から生まれていますが、日本とは企業風土や組織形態、商習慣などが違うため、日本企業がそのまま利用しようとしても上手く当てはまらないケースが多いのです。この差異をいかに埋めるかが、外資系ITベンダーにとっては非常に重要です。
弊社は、米国本社で開発される最先端のテクノロジーをスピーディーにフォローしながら、日本市場にどうマッチングさせるかを徹底的に追求しています。事業開始当初には、日本向けの仕様変更を本社に強く訴え、一般的には1カ月に1件あるかないかの「ホットフィックス(※)」と呼ぶ修正を3カ月で53件も行いました。このことからも、弊社が日本のお客様に真剣に向き合っていることが分かっていただけると思います。
日本企業の特性を熟慮したエンドユーザー向けアプリケーションを開発・提供していることも、その一端ですね。日本のお客様が求める「きめ細やかさ」に関して、米国本社もビジネスとしてのポテンシャルを認識するようになり、日本市場向けの独自プロダクト開発を推進し始めています。
(※)ホットフィックス:ソフトウェアの不具合などを解消する修正プログラムのうち、迅速な対応のために緊急で配布されるものを指す
ARRの年40%成長を継続し、業界トップクラスの企業を目指す
ーー今後の計画や目標について教えてください。
塩光献:
業界トップクラスの企業になるべく、SaaS業界でよく用いるKPI(重要業績評価指標)であるARR(年間経常収益)を、毎年40%成長させることが今の目標です。そのためには、新規のお客様開拓に一層注力していく必要があります。特に、デジタル化の支援を最も必要としている中堅・中小企業層へのアプローチを積極的に行いたいですね。
ーー事業拡大に向けて、どのような人材を必要としていますか。
塩光献:
「やりたいことに挑戦したい、責任をもって最後までやり遂げたい」という意欲を持つ方を必要としています。私たちの事業を通じて、日本の労働生産性をもっと向上させたいと考えているので、この夢をメンバーと一緒に追い求められたら嬉しいですね。
編集後記
塩光社長は取材の中で、自身がホームスクーリングで育ったこと、そのために父親が仕事のかたわら家族と向き合う時間をつくろうと起業したこと、その父親を見てスタートアップに興味を持ったことを明かしてくれた。こうした背景が、新設のAvePoint Japanに心ひかれた一因であり、「自由を得るには責任が伴う」という信念にもつながっているのだろう。
終始おだやかな口調ながら、言葉の端々に熱意を感じた。塩光社長のリーダーシップがより発揮されることで、業績とともに同社の認知度・知名度が上がっていくことは間違いなさそうだ。
塩光献/1984年、東京都生まれ。18歳の時に日本マイクロソフト株式会社の契約社員として働き始め、社内のITサポート(SharePoint 2003のメンテナンスなど)に従事。2008年、AvePoint,Inc.の日本法人であるAvePoint Japan株式会社の設立に合わせて同社に入社。その後、シンガポール拠点のカントリーマネージャーを経て、2013年に代表取締役に就任。