※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

株式会社マイファームでは、農業業界にある数多くの課題解決を目指すべく、体験農園・農業教育・流通販売・農業コンサルティング・複数地域での農作物生産など、多岐にわたるビジネスを展開している。

2023年11月には、農業ソーシャルベンチャー企業(※)として日本で初めて東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに上場を果たした。

代表取締役の西辻一真氏に、農業を志したきっかけや、多角的な事業展開のメリット、同社が目指す農業における理想の社会像について話を聞いた。

(※)ソーシャルベンチャー企業:ビジネスとして社会貢献や社会問題の解決を目的としながら、社会の持続可能性とビジネスの両立を目指す社会的企業を「ソーシャルベンチャー企業」という。農業分野から社会課題の解決に取り組む企業としての上場は日本初。

どうせやるならノーベル賞を獲るほどの農家に

ーー農業を志したきっかけを教えてください。

西辻一真:
僕の家系には農業を営む人間は1人もいないのですが、田舎町で育ち、周りの友達は農家か漁師がほとんどでした。友達と仲良くなりたい一心で家庭菜園を始めたのが、僕と農業との最初の出会いです。初めて自分で育てた大根でお味噌汁をつくったとき、父と母にとても褒められた経験が原動力となっています。

高校生になり、地域で使われていない農地を数多く見つけたことで、「この場所で畑をつくって農家になりたい」と目標を定めました。その話を両親にしたところ、「どうせやるならノーベル賞を獲るくらいすごい作物を発明する農家になりなさい」と激励され、当時日本で一番ノーベル賞が出ていると言われた京都大学の農学部で品種改良をしようと決めたのです。

ーー大学の研究者の道ではなく、農業ビジネスの道を選んだ経緯を教えてください。

西辻一真:
大学では米や麦、大豆の品種改良をしていましたが、そもそも品種改良の目的は「簡単に、たくさん農作物をつくる」というのが原点です。僕がやりたかった農業というのは、「自分で作物に向き合って大切に時間をかけて育てたい」というものなので、方向性の違いを感じて研究の道を辞め、農家の道へと進むことを決めました。

しかし、いざ農家になろうとしたときに、そもそも農家になる方法がわかりませんでした。大学で就職相談をしたところ、たまたま求人募集のあったリクルートの子会社に就職することができ、飲食店を対象に営業活動をしていました。

ある日大量の食べ残しが捨てられているのを目の当たりにしたとき、当初の農業への熱意を思い出したのです。1年で会社を辞めて京都に戻りました。JAなどのさまざまな窓口に当たって農地を見つけ、マイファームを立ち上げてようやく農家へのスタートを切ったわけです。

事業の多角展開で災害リスク分散

ーー農家と言っても、単に農作物をつくるだけでなく、多角的な事業を展開されていますね。どのようにして現在の事業形態になったのですか?

西辻一真:
弊社は「人と農をつなぐ会社」として、まず体験農園などで農業に触れる機会を提供し、そこから野菜の作り方を学びたいという人に向けて農業学校をつくりました。卒業後の職場提供や販路の確保に関するコンサルティングに加え、通販などの流通・販売で農作物を生活者へ届けるところまでおこない、循環の輪をつくり上げています。

実は、この事業形態については創業当初から構想していました。農業業界では問題がいくつもあり、1つのプロダクトやソリューションで全てが解決することはないと思っています。農にまつわる「ヒト・コト・モノ」の側面から多角的に捉えて活動を循環させることが必要なので、徐々に体制を整えていきました。

ーー事業を多角展開したことで、どのようなメリットや強みが生まれましたか?

西辻一真:
事業を多角展開することで、リスク分散されているところが大きな強みだと思います。農業業界におけるリスクというのは「自然災害」です。台風などの天災を考慮したときに、一か所のみで農場を持つことは、チャンスには強いがピンチには弱いということ。いろんな場所に農場を持つことで毎年台風が来ても被害総額は少なく済みます。

またコロナ禍のときは、世の中が大変な事態となりながらも、通販や貸し農園の事業は最高益となりました。コロナ禍が落ち着いてくると通販は悪くなりつつも農業学校が伸びてくる、といった具合に、事業と場所を分散させることで安定した収益基盤ができました。

みんなで少しずつ意識することで、「自産自消」の社会を創り上げる

ーー今後5年、10年先の展望を教えてください。

西辻一真:
まず1つ目が海外展開です。先ほどのリスク分散の話にも通じますが、天変地異やグローバル環境などを考えると、日本だけで事業をおこなうこともリスクの1つです。海外展開の第一歩として、マレーシアにドリアン農地をつくっているため、そこで収穫した農作物で自社製品を開発し「ドリアンマニア」というECサイトで販売を強化していきます。

2つ目の展開としては、農業法人の事業再生に取り組もうと考えています。国内では円安や後継者不足などが原因で、農業法人の倒産が最多を更新している状況です。そこで弊社の持つ学校機能や優秀な人材・技術を駆使して赤字経営の農業法人の立て直しを図っていきます。

ーー最後に、貴社が目指す理想の社会はどのようなものでしょうか?

西辻一真:
「自産自消ができる社会をつくろう」というのが弊社の目指す理想です。人が地球上にいる限り、「食べる」ということは必要不可欠で、そこに紐づいている農業は絶対になくなりません。

ただ今の世の中を見ていると、地球環境を無視する行為や、口に入れるものでも適当に済ませるスタイルが増えているように感じます。そうして「人と農」の距離が離れていくと、いざ大きな天災や社会の変動があった際に困るのは結局自分たちです。少しでも自然のことを理解し、趣味の範囲で構わないので「土に触れて野菜をつくる」ということをみんなでやっていけたら良い方向に向かうのではないかと思っています。

編集後記

農業界の課題に根本から向き合い多角事業を展開してきた西辻社長。柔らかな物腰とポジティブな思考が、そのまま会社の雰囲気を表しているようであった。

採用でのポイントは「素直・勤勉・元気の3つが当てはまればOK」としており、同じ農業界の中でもそうしたマイファームらしいポジティブさが「新しい風」として驚かれているようだ。現在の事業の種まきが、この先どう芽を出し未来につながるのか。同社の発展に今後も注目していきたい。

西辻一真/1982年福井県生まれ。2006年、京都大学農学部資源生物科学科卒業。1年間の社会人経験を経て「自産自消」の理念を掲げて2007年に株式会社マイファームを設立。体験農園、農業学校、流通販売、農産物生産など独自の観点から農業の多面性を活かした事業を立ち上げる。2023年に東京証券取引所、東京TOKYO PRO Marketに上場。学校法人札幌静修学園の理事長も務めている。