※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

東信化学工業株式会社(東京都)はポリエチレン製品のメーカーとして1952年に創業した。開発したポリエチレンフィルムにおける先駆者として卓越した技術は他の追随を許さない。

創業以来、絶え間ない需要増を受けて生産体制を拡充し、高度成長期という大きな変革の波に乗り飛躍的に業容を拡大してきた。脱プラスチックが叫ばれる近年は、化学物質を製造する会社として環境保全にも配慮している。

代表例の「ナチュラポリシリーズ」は、石油由来のプラスチックをバクテリアが消化して水や空気に変換することができる画期的な製品。このほか原材料に有機性資源を利用したバイオ・生分解製品の製造など、SDGsの達成に向けて精力的に取り組むメーカーとして存在感を示している。

次代の経営のかじ取りを担う常務取締役の久野智孝氏に、プロフィールや経営方針について話を聞いた。

自動車販売の大手企業で得た学び

ーー東信化学工業創業の経緯をお聞かせください。

久野智孝:
祖父がアメリカに訪問したときにポリエチレンという素材を知り、「こんなに便利なものがあるのか」と感心して日本に帰ってきました。あるとき一斗缶の中に入れていた飴に紙がくっついてダメになってしまったことがあり、そこに祖父が目を付けたんです。

飴の販売者に「くっつかない素材があれば使ってみますか?」と提案したことから事業が始まったそうです。それからお祭りの金魚を入れる袋などの製造にも発展していきました。

ーー大学卒業後、家業ではなく大手自動車販売店に就職したのはなぜでしょうか?

久野智孝:
祖父は出身地の福井県から中学卒業後に上京し、同じ村の人たち数人で一緒に寝泊まりや仕事をするなかで弊社を創業しました。

社員を家族のように大切にする気持ちが強かったため、会社のことを分かっていないうえに大学を卒業したてで世間知らずの私が軽い気持ちで入社することを祖父は良く思っていませんでした。

そこで自身の成長のためにも自動車のメンテナンス・販売のトップといわれる会社に就職し、営業成績で1番を目指すことにしたのです。

ーー就職先で印象に残っている経験はありますか?

久野智孝:
意気揚々と入社して営業を担当したものの、最初の2カ月間ほどはまったく売れず、接客のチャンスすらありませんでした。当時は「こんなはずじゃないのに」と思いながら周囲の人や環境のせいにしていました。

しばらくしてトップセールスの方と話す機会があり、自分の状態を聞いてもらいました。その方のアドバイスで「周りではなく自分が悪い」という考え方を学んでから、自身の取り組む姿勢に変化が生まれました。

自分なりに「どうしたらコンタクトの回数を増やせるか」「どうしたらお客様から選んでいただけるか」と考えるようになり、今はダメでもやり方を変えていけば必ず最後は報われると信じて前向きに行動するようにしたのです。このことは、人生において大きな学びとなりました。

持続可能な開発目標に貢献するためリユースを積極的に進める

ーー社内の課題に対して、どのような姿勢で取り組んでいますか?

久野智孝:
時代の流れにしっかり対応できる会社にするために、各部署の問題点を自分たちで探し出し、共有して問題解決につなげていくことを数年続けてきました。

大事なのは問題が起きたときに「それはできません」ではなくて「こうしたらここまではできます」という前向きな方向に持っていくことです。

以前は他人が変化することを考えていましたが、自分のアプローチも変えるべきではないかと考えるようになりました。動けないことには理由があって、それをちゃんと聞いてなかったことに気づいたからです。

また、私と従業員それぞれが考える「いい会社」の価値観をすり合わせることにも努めています。

ーー貴社ならではの強みは何でしょうか。

久野智孝:
1つはお客様に誠実に向き合っていることだと思います。顧客がなにを求めてるかをきちんと理解して追求していくことがいいサービスにつながると信じています。

もう1つの強みは環境への対策です。製造する際のロスを有効活用できていなかったことから、現在はリユースすることで95%以上を自社内で循環できるようにしています。

かつてリペレットは2級品のイメージがありましたが、現在はむしろ環境にやさしい製品としての理解が進んでおり、弊社では、お客様に寄り添って相談したうえで積極的に使用しています。

従業員や取引先を大切にする気持ちを持ち続ける

ーー今後の展望や求める人材についてはいかがでしょうか。

久野智孝:
時代や環境に合わせた経営はもちろん、モノづくりの会社として目指していることは「こんなにいいものがある」と胸を張れる製品を開発し、社会に向けてもっと自分たちから発信していくことだと考えています。

また、人材に関してですが、自分の頭で考えることができ、なおかつ疑問があれば素直に聞けるような人を求めています。自分の本音を人に伝えることは難しいことかもしれませんが、分からないことを自己完結しないで積極的に聞いて一緒に解決できる人と仕事がしたいですね。

ーー最後に一言メッセージをお願いします。

久野智孝:
会社で変えるべき部分と変えてはいけない部分をしっかり区別して経営を進めていきたいと思っています。祖父が病床で亡くなるとき、私に「従業員をくれぐれも幸せにしてくれ」と言い残していきました。

その思いが自分の中に強く残っていることから、従業員とお客様を大切に、誠実に向き合うことをなによりも大切にしています。

従業員や取引先の皆さんを大切にしない限りは商売として成立しません。ですから創業者の教えはずっと変えずに守っていきたいと思います。

編集後記

久野常務の従業員に対する徹底した配慮は「社内の満足度をとても重視しています」というコメントにも表れている。数字を追う経営の中で人を大事にする姿勢を貫く背景に、創業者への思いや高い道徳観があるからだろう。

創業者が道徳観を重視して会社経営を成し遂げたように、この先も信じた道で東信化学工業が成長していく姿を見ていきたい。

久野智孝/1982年東京生まれ。和光大学卒業。株式会社ヤナセに入社後、5年間の修業期間を経て東信化学工業株式会社に入社。営業を経て常務取締役に就任。社内改革、販路拡大を精力的に行っている。