※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

釣りエサの業界をリードするマルキユー株式会社。創業114年を超える歴史の中で、同社は釣り具分野への進出や海外展開を遂げてきた。この躍進を牽引してきたのが、2016年に代表取締役社長に就任した岡田信義氏だ。釣りを知らずに入社してから46年、営業、工場長、海外事業と、幅広い経験を積んできた岡田社長に、同社の歩みと未来像を聞いた。

釣り知らずの新入社員から大阪営業所長へ

ーー貴社に入社したきっかけを教えてください。

岡田信義:
同級生に誘われたことがきっかけでした。一緒に受けた試験に、思いがけず合格したのです。当時の私は釣りエサはおろか、釣り自体をほとんど知りませんでした。マルキユーの製品も知らなければ、へら鮒釣りって何だろうと思いながらの入社でしたね。

そのときから釣りについてイチから勉強し始めました。入社後は、右も左も分からない状態だったので、先輩たちに教えてもらいながら、徐々に釣りの知識を吸収していきました。

ーー社長に就任するまでの経緯を教えてください。

岡田信義:
まずは営業部門に配属され、そこで営業の基本は人間関係だと教わりました。製品知識はもちろん大切ですが、それ以上に自分自身を売り込むことが重要だと。1984年には大阪営業所の所長になり、西日本エリアの開拓に従事しました。トラックに釣りエサを積んで、2週間ほど出張に行くのですが、冬は雪で大変でしたね。関東のメーカーが西日本に進出するのは珍しかったので、チャレンジャーとして先頭を歩く意識を持って取り組みました。

その後、2001年に取締役生産部部長兼務工場長に就任した後、中国の現地法人の総経理を担当。言葉の壁や文化の違い、すべてが手探りでしたが、社員の協力もあって乗り越えました。2008年に常務取締役、2010年に専務取締役と、着実にキャリアを積み重ね、2016年に、代表取締役社長に就任しました。

釣りエサからルアーまで、幅広い製品展開で業界をリード

ーー貴社の事業内容を教えてください。

岡田信義:
弊社の事業は大きく分けて3つあります。まず、創業以来の主力事業である釣りエサの製造販売です。淡水用と海水用があり、へら鮒、クロダイ、メジナなど、さまざまな魚種に対応した釣りエサを300種類以上製造しています。これらはすべて自社で開発・製造しております。

次に1994年から始めたルアーフィッシング用品の販売です。「NORIES(ノリーズ)」というブランドで主にブラックバス用のルアーを扱っています。「ECOGEAR(エコギア)」というブランドでは主に海釣り用のソフトルアーを展開。これらはブランド別にホームページやカタログを分けており、それぞれ専門のチームが開発にあたっています。

最後に、管理釣り場の運営です。千葉県野田市にある「WakuWakuField 野田幸手園(へら鮒釣り、タナゴ釣り)」や、埼玉県の児玉郡にある「矢納フィッシングパーク」を運営しています。矢納フィッシングパークでは、釣り竿や釣りエサもあるので、初心者の方や家族連れも気軽にニジマス釣りを楽しめる、人気の釣り堀ですね。炭火焼きコーナーやバーベキューエリアもあり、釣ったニジマスを焼いて食べることもできます。

ーー貴社の強みはどこにあると考えていますか。

岡田信義:
社員が実際に釣りに行って、製品をテストできるのが大きな強みですね。研究開発部門では13人のスタッフが、新しい釣りエサの開発に取り組んでいます。また、「釣り手当」という独自の制度を設けており、釣りに行くと手当が支給されるのです。月曜のお昼には釣果報告会が開かれるほど、社員全員が釣りに熱中できる。この情熱こそが製品開発の原動力になっていると思います。

自然との共生を目指し、釣りのイメージ向上にも注力

ーー釣り業界全体の課題にも取り組まれているそうですね。

岡田信義:
全社一丸となり、釣りのイメージ向上に取り組んでいます。釣りスポットは、釣りエサやゴミで汚れがちですが、環境美化の啓発活動に力を入れていますね。やはり綺麗な場所で釣りをするのは気持ちのいいものです。しかし、釣りに熱中するあまり、後始末がおろそかになってしまってはいけません。

そういった釣りのマナーを教えてくれる場所が少ないのも事実ですので、弊社ではSNS(YouTubeなど)を活用し、初心者に向けた情報を発信しています。弊社は業界の中でも、比較的大きく、釣りの団体に関わることも多いので、業界も巻き込んで、マナー向上に取り組んでいきたいですね。

最近では、埼玉県主導で、県内の不登校や引きこもりの子どもたちを対象に、釣りを通じた支援活動も始めると聞きました。議員さんの提案によるもので、今年の10月から埼玉県で実施するそうです。釣りには情操教育の効果があるということで、こうした活動が全国に広がり、少しでも釣りが子どもたちの助けになればと思っています。

編集後記

釣りを知らない新入社員から始まり、国内外での事業拡大、そして社長就任まで、常に新しいことに挑戦し続けてきた岡田社長の姿勢が印象的だ。釣りを通じて自然の豊かさを感じ、それを次の世代に伝えていく。これは、持続可能な社会の実現に向けた一つの答えのように思える。岡田社長の言葉からは、ビジネスの枠を超えた使命感が感じられ、その視線はまさに未来を見据えていた。

岡田信義/1956年、埼玉県鴻巣生まれ。亜細亜大学経営学部経営学科を卒業後、小口油肥株式会社(現マルキユー株式会社)に入社。1984年に大阪営業所所長、2001年には取締役生産部部長兼務工場長に就任。2003年、丸九(中国)有限公司総経理に就任。2008年に常務取締役、2010年に専務取締役を経て、2016年に代表取締役社長に就任。