※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

ただ単に「楽しく働く」と言っても、それを実現するためには複数の条件を満たすことが前提だろう。たとえば、従業員が楽しく働くためには、会社が利益を出し続けることが必要だ。

デジタルマーケティング企業、株式会社World Wide Systemを率いる代表取締役の藤井祥生氏は、社員が「楽しく働く」ことを経営の柱としており、その実現に向けたマネジメントに徹している。そんな藤井社長に会社の事業、人材育成への取り組み、経営に関しての思いを聞いた。

消費者が喜ぶデジタルキャンペーン支援サービスをベースに

ーー貴社の事業内容を教えてください。

藤井祥生:
「新しい仕掛けで、新しい市場を創る」をビジョンにして、デジタルマーケティング事業では、主にBtoC企業の販売促進、ブランドの認知度アップ、集客などをサポートしています。現在の主力事業は、2011年に開始した「SmartPRシリーズ」という、WebやSNSを使ったデジタルキャンペーンシステムの提供です。キャンペーンに参加した消費者はポイントやクーポンなどがもらえます。弊社の直接の顧客である企業は、キャンペーンを通して、顧客の動向を把握し、認知の拡大やブランディング、あるいは来店や購入の促進といったメリットを得られます。

市場参入が早かったこともあって、業界での評価はかなり定着しており、現在の導入件数は2,000件以上にのぼっています。

ーー事業運営で心がけていることは何ですか?

藤井祥生:
消費者と企業との間を取り持つ事業ですので、個人情報やセキュリティの確保、システムの安定運行などについては第三者機関のチェックを受け、最大限の備えをしています。

もうひとつは、消費者の興味、こだわりの傾向と変化をキャッチして、新しいサービスを開発することです。基本的には、他社が手掛けていないところを目指していますが、ビジネスの先発後発は、それほど単純に勝ち負けにつながりません。先発の足りないところをカバーできていれば、後発にも勝機があります。「他社が始めたから弊社は諦める」のではなく、できるだけ柔軟な戦略を採りたいですね。

ーー現在、力を入れている分野を教えていただけますか?

藤井祥生:
紙やPDFでは表現できない地図をDX化した「デジタルマップ作成ツール」です。大規模なイベント会場向けには出展社の検索、テーマパーク向けのイラストマップにはスポットごとの混雑情報、街ぶらマップではオススメコースなど、さまざまな場面で「あったら嬉しい機能」を搭載しています。

また、インバウンド向けに11カ国語に対応しています。その他、大型工場では、SSO(シングルサインオン)で内部の人しか閲覧できない状態で社内の各スポットを説明している事例もあります。先行する企業は数社ありますが、ユーザーの好みに合わせた最適な観光スポットやルートをAIが提案するサービスなど、独自機能でサービスを強化していく計画です。

本人の個性と負荷のバランスを意識したエンジニア育成

ーー人材育成に関してはどのような取り組みをおこなっていますか?

藤井祥生:
実践的な教育に徹しています。一般的には3年から5年のキャリアが必要な業務でも、弊社では、早ければ1、2年でチャレンジしてもらうことがあります。早く成長できると、本人のチャンスも広がっていくので応援したいですね。

最近はリモートワークで顔を合わせる機会が減っていますので、社員のちょっとした変化にも気づけるように普段から意識するようにしています。

楽しく働ける環境づくりには個性を大切にする気配りが必要

ーー創業当時から「楽しく働く」を掲げていますね。

藤井祥生:
経営理念でも「従業員が、会社と家族とバランスの取れた生活を継続的に送れるようサポートする」ことをうたっています。

そのためには、会社として利益を出していくことが必要です。つまり、お客さまに喜んでもらうことが基本。経営理念で言えば「クライアントが永続的に利益が出る仕組みを提供する」ということです。

会社の経営が安定していることが、社員の暮らしの安定につながるわけです。私は、会社の継続と社員の幸福はひとつのことと考えています。年功序列や終身雇用が過去の遺物のように言われていますが、会社、仕事そして社員の関係はそれほどドライに割り切れないと思います。

ーー社員が「楽しく働く」ためにどんなことを心がけていますか?

藤井祥生:
仕事の進め方では、管理職にミッションを渡し、皆で議論しながら行動を選択する姿勢を基本にしていますが、内容によってはトップダウンで進めた方が良い場合があります。指示されて仕事をするといった状態を避けつつ、野放図にはならないようにするためにも気を遣っています。重要なのは、社員それぞれの違いを尊重しながら、組織全体のバランスをとることです。

創業当時から働いている社員にも家庭を持つなどのライフスタイルの変化がありますし、会社の年齢層にも幅が出てきています。また、仕事場の選択では自宅派とオフィス派に分かれていたり、空き時間の使い方も寛ぎ派の一方で副業派がいたり、自分で事業を興している者もいたりします。

そのとき、その場で、楽しく仕事ができるとはどんな状態なのかを常に考え、その実現に向けて最良のマネジメントを選択することに尽きると思います。

編集後記

藤井社長はインタビューの中で、折に触れ「バランス」という言葉を使っている。おそらくものを考えるうえで、単純で浅はかな思考をしないということだろう。ある課題を精確に把握しようとすれば、当然のことながら関わる要素を可能な限り見極めておきたい。公正であろうとすれば当然のことかもしれないが、極めて難儀なことでもある。この難儀を背負ってでも「幸せに働く」ことのできる会社づくりを目指す藤井社長。インタビューでも期待を語っていたデジタルマップの成功が楽しみだ。

藤井祥生/1974年、岡山県生まれ。1997年、松山大学経済学部卒業。1999年、大学院生の弟と共にワールドワイドシステムを創業。2002年株式会社World Wide Systemに組織変更。代表取締役に就任。2011年東南アジアでの消費者リサーチ事業をスタートし、ベトナムに株式会社W&Sを設立。その後2013年インドネシア、2014年タイに新会社設立。2022年に東南アジアで展開していたW&Sの株式をすべて譲渡。現在はWWSの事業に専念しているが、再び国外でサービスを展開する機会を狙っている。