1990年代初頭のバブル崩壊以後、日本経済の低迷は30年以上にわたり、とくに少子化による生産年齢人口の減少に歯止めがかからない。このような日本の現状に対する改善策のひとつとして挙げられるのが、IT分野の人材育成だ。
ITエンジニア向けの転職・就職・学習プラットフォーム「paiza(パイザ)」を運営し、エンジニア・経営者としての経験や知見を持つpaiza株式会社の代表取締役社長CEO片山良平氏に、日本のIT人材活用法とIT教育にかける思いをうかがった。
IT人材のマッチングで日本再生を支える
ーー起業までのプロセスと、設立した理由を教えてください。
片山良平:
高校卒業後、Webデザイン会社やデジタルマーケティングを支援する会社などを何社か経験しましたが、将来的には起業したいと考えていました。20代後半で「10年後に絶対に起業しよう」と決めて、どの分野で起業しようかと真剣に探すようになりました。
そして、2012年に36歳で弊社の前身である株式会社スタートアップパートナーズを設立しました。弊社の目的はITによる生産性の向上を通して日本に貢献することであり、現在は、プログラミングスキルの高いITエンジニアを育て、活躍の場を提供することに取り組んでいます。人口減少や国力低下といった現状の問題に対する課題意識から現在の事業が生まれました。
さらに、経済産業省の発表によると、2030年には日本で約79万人のIT人材が不足する見込みといわれています。そこで、生産性の向上を担うIT分野に人材が足りないのであれば、弊社としてはそこをフォローする事業を展開しようと考えたのです。
ーーIT分野での採用における課題と解決策についてどのようにお考えですか?
片山良平:
IT分野での採用の実態を見てみると、企業側においてはIT人材が必要であるにもかかわらず出会いの機会すらない、出会えたとしても適切な評価基準(方法)がわからないことが課題です。一方のIT人材側では自分の能力やスキルを適切にアピールできていない人が多くいるという課題もありました。
この企業側・人材側双方の課題の原因は客観的に評価する指標や仕組みがないことであると考え、改善策としてITエンジニアの能力やスキルを弊社が客観的に評価して可視化するシステムをつくり、その評価をもとに企業との人材マッチングを行う事業スキームを構築しました。
ーーITエンジニアの評価についてもう少し掘り下げて教えていただけますか?
片山良平:
プログラミングには、課題解決に必要な仕様の決定、データ構造やアルゴリズムの設計、コーディング、デバッグといった手順があり、そこにプログラマーのセンスや使用言語が反映されます。
ITエンジニアを採用するなら、各手順の処理能力やその人のセンスを把握し、評価することが必要です。しかし、こうした評価を行うには、時間や手間もかかり難しいのが現状です。そこで弊社は、独自のプログラミングスキルチェックを展開し、企業が求めるスキルとセンスを持ったITエンジニアを紹介しています。
独自のプログラミングスキルチェックがIT企業の採用シーンを変える
ーー貴社が運営する国内最大のITエンジニア向け転職・就職・学習プラットフォーム「paiza」についてお話しいただけますか?
片山良平:
弊社の事業には3つの方向性があります。
1つ目は、ITエンジニアが仕事の面でも収入の面でも輝けるような転職・就職サービスを提供することです。ITエンジニアが公私ともに輝いていないと、後に続く世代も生まれにくいでしょう。
2つ目は、プログラミングの能力とスキルをしっかりと育成し、その実力を可視化することです。paizaでは、サブスクリプション型のeラーニングである「paizaラーニング」を用いて多彩なカリキュラムを動画で学ぶことができ、練習問題も豊富に用意しています。この方向性によって、2021年には「日本e-Learning大賞」で厚生労働大臣賞を受賞しました。
3つ目は、ITエンジニアの裾野を広げることです。弊社では、小学校から大学まで、提携校の学生にeラーニングの全講座を無料で提供し、若いうちからプログラミングに触れてもらう機会を増やすことで、ITエンジニアを目指す人を増加させようとしています。
またプログラミングの世界もジェンダーレスであってほしいという思いから、2023年には弊社のeラーニングシステムを導入した京都の女子大に著名なIT企業のエンジニアを招き、イベントを開催しました。
ーー貴社は「異能を伸ばせ」というスローガンを掲げていますが、事業としてはどこを目指していますか?
片山良平:
日本が再び世界で存在感を発揮するためには、レベルの高いクリエイティビティの追求が必要だと思います。そのためには得意分野で能力を磨き、社会に活かせるチャンスがなければいけません。
適切な競争環境の中で切磋琢磨し、個々の能力を伸ばしてほしいという思いを込めて「異能を伸ばせ」をスローガンに掲げています。その仕掛けづくりこそが弊社の事業領域であり、画期的なイノベーションが生まれることを期待しています。
プログラミング学習とITエンジニアの就業分野で圧倒的な存在感を放ちたい
ーー今後の展望をお聞かせください。
片山良平:
今後は、CTO(※1)、VPoE(※2)、EM(※3)といったハイレベル人材の転職支援、さらに若いITエンジニアの中からTop of the Topの発掘にも取り組みたいですね。将来的にはそこからGAFAに匹敵するような企業が誕生することを夢見ています。
そして最終的には、弊社がこの事業分野で唯一無二の存在になることを目指しています。「プログラミング学習ならpaiza、優れたITエンジニアの採用ならpaiza、転職するならpaiza」と言われるような企業になりたいですね。
(※1)CTO:Chief Technology Officerの略(最高技術責任者)
(※2)VPoE:Vice President of Engineeringの略(技術部門のマネジメント責任者)
(※3)EM:Engineering Managerの略(エンジニアのマネジメントを行う職種)
編集後記
「Microsoft Windows 95」のリリースを機にWebの世界に飛び込み、世界が大きく広がったという片山社長。そこからITエンジニア向けのプラットフォームを立ち上げるに至ったという巡り合わせには、運命的なものを感じた。
未知の領域にも果敢にチャレンジし、IT人材の育成と適正評価、マッチングの先陣を切ってきたpaiza。日本経済の復活と社会の新たなあり方を模索して奮闘する片山社長とpaiza株式会社の成長を応援したい。
片山良平/1975年生まれ。インターネット黎明期より100を超える企業のWebデザイン、システム開発に携わる。ITエンジニアとしてもPHPとMySQLを使用したCMS、ASP型ECモールなどの自社開発を担当。その後、ネットイヤーグループ株式会社にて大手通信企業のデジタルマーケティング戦略統括を担い、2012年に株式会社スタートアップパートナーズを設立し、代表取締役社長CEOに就任。2013年にギノ株式会社へ、2020年にpaiza株式会社へと社名を変更。