※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

ウェブサイトやアプリの訪問者の行動をリアルタイムに解析して、個々のユーザーに合わせたコミュニケーションをワンストップで実現するCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE(カルテ)」。このプロダクトで急成長を遂げた企業が、株式会社プレイドだ。

2011年に創業し、2020年には東京証券取引所マザーズ(現グロース)市場に上場。勢いを増し続ける同社の代表取締役 CEO倉橋健太氏に、起業に至るまでの経緯や、プロダクトの誕生秘話、今後のビジョンについてうかがった。

楽天で学んだデジタルビジネスの知識を活かし、世の中の大きな転換点をつくる

ーーいつ頃から起業を考えましたか?

倉橋健太:
実家が自営業で、「自ら何かを始める」という父の背中を見てきたため、学生時代には漠然と「起業したい」という思いがありました。将来の起業につながる会社を探そうと就活に励んだところ、当時活気づいていたITベンチャー企業に興味をひかれ、中でも社員の方が生き生きと仕事をしていた楽天グループに入社を決めました。それが私の起業への第一歩となったのです。

楽天市場の事業を担当し、カスタマーのロイヤリティ向上やマーケティングといった業務を経験したことで、「ITでサービスを提供するとはどういうことか」を学び、現在のプレイドの事業創出に活かすことにつながったのです。

また、楽天では観光事業や金融など多種多様な事業を展開し、多くの顧客と触れ合うことができました。幅広い業界のデジタルビジネスを見聞きできたことが、非常に良い起業への準備期間となりました。

ーー実際に起業するまで、どのようにサービスをつくり込んでいったのですか?

倉橋健太:
2011年の創業当時は、クラウドという言葉がようやく出てきた時代ですが、楽天はビッグデータを扱う企業としては日本トップだったといえます。データのポテンシャルだけでなく、今後あらゆるビジネスでデータ活用が絶対に必要になるという感覚も肌身で感じていたので、データを中心にした事業をはじめることは私にとって必然でした。

しかし、楽天を離れて実際に他の企業を客観的に見てみると、ほとんどの企業がインターネットで事業をおこなっているにも関わらず、データの活用ができていないことを知りました。それもそのはずで、当時は実際にデータを活用することは難しく、コストも高く、手間がかかるものでした。やれば成果は出るものの、成功体験がないものに関しては率先して使用する気にはなりません。

そうしたギャップを目の当たりにしていたときに出会ったのが、現在の取締役 CPOである柴山直樹でした。機械学習や神経科学など最先端技術を研究していた彼とディスカッションを進めていくうちに、「今まで自分がやっていたことは、もっと高度に・簡単に・安くできるんだ」とわかったのです。最先端の技術とデータを掛け合わせることで、「ここが世の中の大きな転換点になる」と感じ、半年間にもわたって議論を続け、事業を形作りました。

企業と顧客のその先へ。「世の中の変化」に着目したプロダクトを生み出していく

ーー新たなサービスの先駆けとして事業を展開していますが、現在はデータ解析もスタンダードな世の中となってきました。それでもなお、貴社が選ばれている理由は何ですか?

倉橋健太:
長期的な視点で物事を捉えられるところだと思っています。弊社の顧客層は非常に広く、「BtoBtoC」というモデルだと表現しているのですが、企業のその先の顧客までも含めた変化をどう捉えるかが重要で、結局は世の中の動きを観察するということになります。「社会や世の中がどこに向かうのか?」に焦点を当て、「じゃあこうしたプロダクトや機能が必要になってくるな」と逆算して考えていくのです。

企業が今困っていることへの対処ではなく、「この先に起こる世の中の変化から逆算して開発したこのプロダクトであれば、貴社にこうした変化を生めます」という射程距離の長い話ができることが、他社との大きな違いではないでしょうか。

ーー今後5年、10年と先を見据えたとき、どのような展開をお考えでしょうか?

倉橋健太:
これまではクラウドを経由するSaaSというアプローチでカスタマーデータを扱ったプロダクトを提供してきましたが、ここから先はそこにいくつかの要素を加えていかなければならないと思っています。

その1つはAIです。弊社はカスタマーデータを扱う量で言えば、日本でもトップクラスに入る企業です。生成AIが企業活動に浸透する流れは加速するはずですが、そこで重要になるのは「AIにどのようなデータを学習させるか?」という課題です。効率性改善にとどまらず、AIを活用して競争優位性の源泉になる他社との“違い”、顧客を魅了する自社ならではの価値を創出するためには学習させるデータに差分をもたせる必要があり、それが自社の顧客行動データなのです。弊社ではAI×カスタマーデータを強みとしたプロダクトやソリューションの開発に取り組んでいます。
さらに、プロダクトだけでなく、幅広い価値の提供を目指すコンサルティングサービスもスタートしています。ほとんどの企業にとって、必要なのはプロダクトではなく「自分たちのやりたいことができる」ことです。その価値をつくる上ではソリューションを提供できる「人」がとても重要な存在なのです。

しかし現状は、どの企業でも、特にデジタル人材の確保に困難を感じています。「デジタルのこともわかるし、顧客理解や顧客価値創出にも長けている」人となると、本当に希少です。当社でも採用を加速していきながら、プロダクトと人材の両輪で提供することで価値を創出できる会社にしていく、というのが今後の大きなテーマだと考えています。

編集後記

目指すべきゴール地点には大きな違いがあるものの、表面的なサービス内容だけでは他社と比較した際、強みがわかりづらいのがこのプロダクトの難しいところである。「顧客のニーズに合わせるだけではなく、本当に世の中を良くしたいという思いを伝え続ける努力が必要だ」と語る倉橋CEO。同氏のブレない信念が社員をここまで導き、顧客の信頼を得られたからこそ、同社のサービスが選ばれ続けてきたのだろう。とどまることを知らないプレイドの躍進に期待が高まるばかりだ。

倉橋健太/2011年、株式会社プレイドを創業。2015年、企業のカスタマーデータ活用を支援するクラウドソフトウェア「KARTE」の提供を開始し、顧客戦略またはDX戦略の推進基盤として、EC、金融、不動産、人材など、幅広い業界で導入されている。2020年、東証マザーズ(現グロース)市場に上場し、同年のIPO of the Yearを受賞した。