※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

株式会社エージェンテックは、モバイルコンテンツマネジメント(MCM)市場で培ったNo.1のノウハウと実績を活かし、コンテンツ×AI領域で市場を牽引するIT企業。同社は2004年の創業以来、21年連続で黒字経営を継続しており、これまでに850社・約50万台の端末への導入実績を誇り、MCM市場ではシェアNo.1の地位を確立している。AI専門企業として成長する同社の代表取締役社長、金淙採氏に話を聞いた。

語学留学から始まった日本での挑戦

ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。

金淙採:
私が日本で起業したのは、あらかじめ計画していたわけではなく、いくつかの偶然が重なった結果でした。なかでも最も大きなきっかけとなったのは、語学研修で日本を訪れた経験です。

大学復学前、2年間の兵役を終えた私に、友人が「一緒に日本で語学研修をしないか」と声をかけてくれました。当時、何かスキルを身につけたいと考えていた私は、その誘いに応じて来日し、1年間の研修を受けました。

研修終了後はいったん韓国へ戻り、IT業界で勤務しましたが、日本でのビジネスに強い関心があったため、再び日本に渡り、会社を設立することを決めました。

起業の動機は、「社長になりたい」という願望ではなく、「やりたいことを実現するための手段が欲しい」という思いでした。もし会社員時代に、自分のやりたいことを実現できる職場に出会えていたら、起業という選択はしなかったかもしれません。

時代のニーズに合ったサービスやプロダクトを、自らの意思で創り出せること。それが、私にとって起業の最大の魅力です。

ーー事業における成功の秘訣はどういったものだとお考えですか?

金淙採:
私は「運が9割、実力が1割」という考え方を大切にしています。これは大学生向けの講演でもよく伝えているメッセージですが、自分が成功できたのは決して実力だけによるものではないと思っています。

たとえば、最初に「日本に語学留学をしよう」と誘ってくれた友人がいなければ、今の私は存在しなかったかもしれません。まさに偶然が重なった結果だと感じています。

私は、人は誰もが等しく“運”を持っていると考えています。ただし、それをつかめるかどうかは、誰にも予測できません。しかし一つだけ確信しているのは、「運は、努力している人の前に現れる」ということです。

実際、私はこれまでのビジネスの中で、あるプロジェクトが終わる直前に、次のプロジェクトの話が舞い込む、という幸運に何度も恵まれました。その積み重ねによって、一度も案件が途切れることなく、創業以来ずっと黒字経営を続けてこられたのです。

「見え方」を変えて、情報の価値を高めるサービス

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

金淙採:
弊社は「未来を切り拓くIT価値を創造し、広く世界へ提供する」を理念に掲げ、まだ世の中にない商材を先につくり提供することで、新しい価値を創造している企業です。最初は個人向けサービスを手がけていましたが、2008年からは企業向けサービスへとシフトしました。

企業のDXを後押しする「ABookシリーズ」は、既存マニュアルや営業資料などをタブレットやスマートフォンで簡単に閲覧、共有できるシステムで、多くの企業からご好評をいただいてきました。その結果、モバイルコンテンツマネジメント市場においては、2015年度から10年連続市場No.1のシェアを持っています。

そうした中で、弊社は「既存のものの見え方を変える」ことを強みとしています。単なる紙のマニュアルのPDF化といった「表面的なデジタル化」にとどまらず、「マニュアルや営業資料は、どう見せれば最も伝わりやすくなるのか」という本質的な視点から、情報の再構築と「新たなデジタル化」を実現しています。

たとえば、既存の資料(マニュアルや営業資料など)に、音声・写真・動画・VRといった空間情報を組み合わせてリンクさせることで、「読み物」から「動きのある資料」へと進化させるイメージです。これにより、より分かりやすく、説明しやすい形で情報を伝達できるようになり、ユーザーの直感的な理解を促進しています。

ーー具体的な導入事例をお聞かせください。

金淙採:
弊社のサービスは現在、鉄道会社や航空系企業をはじめとした850社でご利用いただいています。端末数でいえば約50万端末に導入されており、マニュアル用途が4割、営業用途が6割という状況です。

鉄道会社の例では運転席の操作マニュアルをVR上で表示し、どこを操作するとどのような結果になるかをわかるようにしました。これにより、文字だけでは伝わりにくい情報も直感的に理解できるようになっています。このように紙の資料から、伝わるコンテンツへと変換することで、お客様の情報伝達の効率を大きく向上させています。

コンテンツ×AI専門会社で、海外展開を目指す

ーー現在はどのようなことに注力していますか?

金淙採:
2〜3年前からの取り組みを経て、今年度は「コンテンツ ×AI」専門会社としての基盤構築に本格的に力を注いでいます。

既存コンテンツを活用したAIアシスタント機能の開発や、既存の資料をAIが簡単にプレゼン動画へ変換する「AI Shorts」をすでにリリースしており、今後も新たなサービスを順次展開していく予定です。

既存コンテンツの価値をAIの力でさらに引き上げる取り組みを加速することで、コンテンツ×AI の専門企業としてのポジションを確立していきます。

また、より多くの方々に弊社のサービスを知っていただくために、営業およびマーケティング活動を一層強化してまいります。さらに、業務提携にも積極的に取り組み、パートナーシップを通じて、より幅広い業界・業種でご活用いただけるサービスの提供を目指してまいります。

ーー最後に今後の展望をお聞かせください。

金淙採:
モバイルコンテンツマネジメント(MCM)市場で培ったNo.1のノウハウと実績を基盤に、弊社は今後、「コンテンツ×AI」という新たな領域においても市場を牽引してまいります。すでに「AIアシスタント」と「AI Shorts」をリリースしており、さらに本年7月には、Sales Enablement領域に特化したAI活用型の新サービスを投入予定です。これにより、本格的な「コンテンツ×AI」市場の構築に乗り出します。

また、弊社では海外展開を重要な成長戦略のひとつと位置づけており、すでに多くの海外進出企業にご採用いただき、高い評価を獲得しています。弊社のサービスはマルチリンガル対応を前提に設計されており、海外市場への展開を常に視野に入れた開発体制を整えています。

こうしたグローバルな事業展開の中で、弊社が求めているのは、単なる「モノ売り」ではなく、「コト売り」ができる人材です。単に製品を販売するのではなく、お客様の課題に真摯に向き合い、価値と満足、そして“幸せ”を届けることができる仲間と共に、私たちは世界市場へ挑戦していきます。

編集後記

たった1枚の資料から、解説動画が生まれる光景は衝撃的だった。金社長の「誰でも考えられるのに、なぜか誰もやっていない」という言葉に、イノベーションの本質を見た気がする。既存の物事を当たり前と思わず、常に新しい視点で捉え直す姿勢こそが、真の創造を生むのだと感じた。

金淙採/韓国生まれ。1994年、株式会社吾羅観光に入社。2000年、グランスフィア株式会社(現:メイクショップ株式会社)に入社。2004年、株式会社エージェンテックを設立し、代表取締役社長に就任(現任)。2011年、Agentec Plus Co.,Ltd.を設立し、Presidentへ就任。2022年、AGENTEC VIETNAM Co.,Ltd.を設立し、Presidentへ就任(現任)。