※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

VTuber(バーチャルYouTuber)事業を行うIP Productionをはじめ、同領域と親和性の高いIP PlatformやIP Solutionの領域において、国内外のグループ全18社で事業を展開する株式会社Brave group。「ぶいすぽっ!」などのVTuberプロジェクトで世界的な注目を集めている。同社を牽引する代表取締役CEOの野口圭登氏は、大学3年生のときに起業し、その後、ペット×IT事業の売却を経て、エンジェル投資家として活動した経歴がある。現在は経営の道に復帰し、倒産寸前だった同社の危機を立て直してV字回復を果たした。所属VTuberは350名以上、累計11社の経営統合を実施し、世界規模の事業展開を目指す同氏に、これまでの軌跡と今後のビジョンについて聞いた。

学生起業家の誕生と事業への挑戦

ーーこれまでのご経歴についておうかがいできますか。

野口圭登:
実家も飲食業を営んでおり、周りにも経営者の家系である友人が多かったため、高校生の頃から起業したいと思っていました。ただ、当時は業界の課題解決や自分の強みを生かすといった明確なビジョンはありませんでした。

転機になったのは2011年3月の東日本大震災です。人生は一度きりと強く感じました。同じ頃、ナイル株式会社の高橋社長から長期インターンのお誘いをいただき、起業を相談したところ、ナイルの受託業務を請け負う営業会社として事業を始めることになりました。大学3年生、21歳のときです。

それから2014年頃までは、中小企業向けのウェブコンサルティングやマーケティング事業などにひたすら取り組んでいました。

事業を進める中で、当時流行していたメディアに着目するようになりました。SEOやSNS運用の知見を活かして自社メディア事業をいくつか立ち上げたところ、ペット専門のメディアが半年で急成長したのです。そこで「ペット×IT」事業に特化し、他の受託やコンサルティング事業はすべてクローズすることにしました。

ただ、5年ほど経った頃、自社だけでのスケールアップは難しいと感じるようになりました。私は学生で起業したので就職経験もありません。企業で修業を積んで経営力を養いたいという気持ちもあり、事業売却を決断しました。そして、ペット関連事業を手がけるベネッセグループへ譲渡しました。ベネッセは「ゆりかごから墓場まで」と言われるように、育児情報誌から老人ホームまで、生活に密接に関わる事業を展開しています。私の好きな事業領域でしたし、会社勤めは勉強になると考えました。

ーーその後、エンジェル投資家になられたのですね。

野口圭登:
エンジェル投資家には以前から憧れがありました。実際に出資を始めると、それが非常に楽しく感じられました。自らが事業をつくるよりも、ベンチャー企業に出資して共に議論しながら事業を伸ばしていく方が、私には合っていると感じたのです。

私は仲間集めとお金集めが得意なので、起業家のサポートにやりがいを感じます。誰かのために頑張ることがモチベーションのため、エンジェル投資という役割にしっくりきたのかもしれません。

投資家から再び経営者へ 危機を救った決断とは

ーー投資家から、再び経営者の立場へ立たれる決断をされた理由を教えてください。

野口圭登:
エンジェル投資家として活動する中で「若いうちは経営や事業に携わった方がいい」という助言を投資家の方々からいただきました。また、尊敬する起業家の先輩から「最強の投資家は最強の経営者である」とアドバイスをいただき、経営者と投資家の二刀流を考えるようになりました。

そんな中、当時投資家として、支援をしていた弊社が経営危機に陥り、社長が退任しました。投資した私にも責任があると感じ、自ら社長として再建に加わることを決意しました。経営は火の車で、精神的にも非常に厳しいものがありました。それでも、関わってくれた人たちに損をさせたくない一心で、前に進みました。

ーー経営をする上で、大切にしていることは何ですか。

野口圭登:
出資してくださっている投資家の皆様、信じてついてきてくれたメンバーたち、そして関わってくれたファンの皆様をはじめ、すべての人たちを裏切りたくない、損をさせたくない、という強い思いです。私の人生は常に、誰かのために頑張ることを追求し続けてきたと言えるかもしれません。

VTuber業界を牽引する事業戦略とM&Aの妙

ーー改めて、貴社の事業内容と強みについて教えていただけますか。

野口圭登:
弊社は創業8年目の会社で、メインはVTuber事業です。業界では現在3位に位置しています。所属VTuber・Vライバーは350名以上、稼働プロジェクトは20以上にのぼり、いずれも世界最大規模です。

その他にも、日本の強みを生かして世界に勝てる事業を目指してIP(知的財産)を活用したコンテンツ事業の多角化を進めています。さらに、M&A戦略に長けている点も特徴で、累計11件の経営統合を実施して事業を拡大してきました。

また、弊社は親会社と子会社に分かれており、子会社が事業に集中できる体制を構築しています。人事や財務などの管理業務は親会社が担うため、プロデューサーやクリエイターはコンテンツ制作だけに専念できます。

1兆円規模を目指すグローバル戦略構想

ーー将来的な展望を教えてください。

野口圭登:
中長期的なビジョンとして、時価総額1兆円規模の企業を目指しています。そのためには、グループ全体で年間500億円の利益を生み出す必要がありますが、VTuber事業だけで達成するのは現実的ではありません。事業の柱を複数確立することが不可欠であり、今このタイミングで投資し、海外事業も強化しています。

中でも、注力しているのがゲーム・esportsジャンルに特化した「ぶいすぽっ!」というプロジェクトです。来年にはアニメ化も予定しており、VTuber文化がさらに広がるチャンスだと捉えています。これまでVTuberを知らなかった層にも、アニメを通じて知ってもらえる可能性がありますし、海外での配信も予定しています。このプロジェクトがVTuber発のグローバルIPとなり得るか、その挑戦を目前に控えています。

直近の目標は上場です。これをチーム内の共通目標として共有しています。全社が同じ方向に進むための、分かりやすい指標になっています。変化のスピードが速い業界なので、月単位で大きな意思決定を迫られることも珍しくありません。そうした中で柔軟性とスピード感を保ちつつ、組織の基盤を整えていきたいと考えています。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

野口圭登:
私は、壮大なビジョンを掲げることを大切にしています。ビジョンが壮大であればあるほど、共感する仲間や資金が集まりやすくなるからです。そして、ビジョンには必ず大きな市場(マーケット)が伴っている必要があります。

また、非常識と思われるような挑戦が、実は成功への近道である場合も少なくありません。常識を疑い、大胆に行動すること。これが、これからの起業家にとって重要な素質だと考えています。

編集後記

若くして起業し、時代の変化をとらえながら事業を転換させていく柔軟性と決断力を持ち合わせる野口氏。特に、一度離れた事業に経営者として復帰し、会社を立て直したエピソードは印象的だ。そこからは並々ならぬ責任感と情熱が伝わってくる。「誰かのために頑張ることがモチベーション」と語る姿勢は、多くの人に共感を呼ぶだろう。VTuber事業における圧倒的な規模感と、M&Aを駆使した多角化戦略は、変化の激しい業界で生き抜くヒントになりそうだ。上場という直近の目標、そして時価総額1兆円という壮大なビジョン。同氏の飽くなき挑戦から目が離せない。

野口圭登/1990年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。2011年の大学在学中に株式会社Vapesを創業。2016年に同社を株式会社ベネッセホールディングスへ事業譲渡。これまでに、50社以上のスタートアップへのエンジェル投資、共同創業を経て、2020年に株式会社Brave group代表取締役に就任。