※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

株式会社グローバーは、店舗トラブル解決・管理アプリ「Qナビ」を運営している会社だ。店舗トラブルが発生した際に、対応可能な業者とマッチングするシステムで、導入店舗数は5万件(2024年5月時点)を超えている。

店舗メンテナンスアプリの開発に至った経緯や、メンテナンス業界への思いなど、創業者の平田勝治氏に話をうかがった。

メンテナンス会社が店舗メンテナンスアプリを開発するまで

ーー会社を立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。

平田勝治:
社会人になってからフリーターを続けていましたが、24歳のときに大分にある建設会社のグループ企業に就職しました。その後会社がグループから独立することになり、新規事業として始めたのがグリストラップ(※)清掃でした。

そこで自分の会社を立ち上げたいと思っていた私は、社長に了承を得て事業を独立させ、37歳で株式会社グローバーを創業したのです。

(※)グリストラップ:厨房の油脂や残飯、野菜くずなどが直接下水などに流出するのを防ぐ装置のこと。

ーー「Qナビ」の開発に至った背景を聞かせてください。

平田勝治:
創業から十数年はグリストラップの清掃をはじめとする、給排水や空調・給排気設備などのメンテナンス業務を請け負っていました。そうした仕事を続けるなかで、設備トラブルが起きたときに、どの業者に頼めばいいかわからないという店舗側の課題を知りました。

さらに、メンテナンス業界ではデジタル化が遅れており、依頼から作業完了までの一連の業務は電話やFAXで行われていました。こうした業務の属人化と、深刻な人手不足がメンテナンス会社の大きな課題でした。

そんなときに新卒の社員が「Uber Eatsのような、依頼者とメンテナンス業者をマッチングさせるサービスができないか」と提案してくれたんです。その意見に共感し、店舗のメンテナンス業務をDXで支援するアプリ開発に着手したのがQナビの始まりです。

全国のメンテナンス業者と店舗をつなげて業務効率を改善

ーーQナビの特徴や導入するメリットを教えてください。

平田勝治:
Qナビの最大の強みは、全国のメンテナンス業者と店舗をシームレスにつなげられる点です。現在全国1,300社以上の業者が登録しており、24時間365日稼働しています。

依頼者は店舗と同じエリアにいる業者に依頼でき、会社のホームページもなく1人で動いている職人さんも、アプリ上で依頼を受け取れます。また、アプリ上でやりとりすることでコミュニケーションコストの削減にもつながっています。

必要事項を入力するだけで作業内容を指示できるのもポイントです。店舗側は本来の作業に注力でき、メンテナンス業者は報告書作成などの負担が減り、メンテナンス業務という実際に価値を創造する業務の時間を増やすことができます。このようにデジタル化によって、双方の業務効率が大幅に向上することがメリットです。

ーーQナビリリース当初のお話を聞かせてください。

平田勝治:
新しいシステムの導入には抵抗がある方が多く、最初はなかなか受け入れていただけませんでした。また、当時は店舗にPCやタブレットなどのデジタル機器を設置していないところが多かったことも、導入が進まなかった大きな原因です。

しかし、コロナ禍により飲食業界のデジタル化が急速に進んだことで、弊社のサービスが注目されるようになりました。コロナ禍は弊社も大変でしたが、これが転機となりアプリの導入が一気に進んだので、悪いことばかりではなかったと思っています。

ーーアプリ開発はどのように行われたのですか。

平田勝治:
まずはアプリ開発を行うベンダーに依頼し、個人店向けのアプリをつくってもらいましたが、売上を十分に確保できませんでした。そこでチェーン展開している飲食店にターゲットを切り替え、別のベンダーに依頼してアプリをつくり直しました。

それから導入実績が増えたタイミングでシステムの内製化に着手しました。今ではシステムの方向性や開発手順を社内で決めてから、ベトナムへオフショア開発を依頼しています。

プラットフォームとして定着させ、メンテナンス業界の発展を目指す

ーーQナビはメンテナンス業界に大きな変化をもたらすツールとなりそうですね。

平田勝治:
メンテナンス業界は、小規模事業者が乱立し、価格競争が激しさを増しています。安さを追求するあまり設備投資をする余裕がなく、その結果イノベーションが起きにくくなっています。

依頼する側も、説明しなくても理解してもらえるという気軽さから、長年付き合いのある業者に依存し続けていました。しかし、このままではだめだと気付き始め、少しずつDXへの移行が進んでいます。競合他社にも弊社のプラットフォームを導入してもらい、業界の発展につながることを期待しています。

ーー今後の展望をお聞かせください。

平田勝治:
数年以内を目途に上場できるように準備を進めています。そして、業界のDX推進を主導する存在となり、業界全体の魅力向上と生産性向上を図っていきたいと考えています。

メンテナンスや清掃業は、きつい・汚い・危険という、いわゆる3Kのイメージが先行しています。しかし、ノンデスクワーカー(現場作業従事者)の技術の高さは、世界的にも高く評価されています。

そこで私たちはIT化を促進し、業界のイメージを刷新し、発展をリードする存在になりたいと思っています。メンテナンス業者の働き方を変える私たちのサービスは、業界にとってなくてはならないツールになると確信しています。

ーー最後に貴社が求める人材像を教えてください。

平田勝治:
より多くの飲食店でQナビを導入してもらうべく、営業力を強化していきたいと考えているため、SaaSやDX関連の営業経験がある人を求めています。

そして将来的には、壮大なビジョンを描ける人材を採用したいと思っています。たとえばSaaSを幅広くカバーする大手企業と連携し、新たなプラットフォームをつくるなど、大胆な発想のできる方に来ていただきたいですね。

編集後記

業界内の課題を改善するため、ITのノウハウがない状態からアプリ開発をスタートした平田社長。「普通ならあきらめてしまうのでしょうが、何か手はあるんじゃないかと思ってしまうタイプなんですよ」という社長だからこそ、業界の仕組みを大きく変えるシステムを生み出せたのだと感じた。株式会社グローバーはメンテナンス・清掃事業者と飲食店を橋渡しして、双方の働き方の改善に大きく貢献することだろう。

平田勝治/1967年生まれ。長崎県出身。前職の新規事業でグリストラップ事業に従事し、2005年に株式会社グローバーを設立。代表取締役に就任。店舗で働く人が本来業務に専念できる環境を実現すべく事業の多角化を行い、2019年にQナビをリリース。DXの力で社会課題を解決することに尽力。