社員食堂や病院・福祉施設、学校などの食堂運営をはじめ、社会・生活関連のサービスを提供するインフラ企業、エームサービス株式会社。同社の代表取締役社長である小谷周氏は、「ホスピタリティサービス・カンパニー」という経営軸を掲げ、給食事業に限定されない「食」を中心とした複合的なサービスの提供に取り組んでいる。
また、社内ではアカデミックな研究組織との連携や、グループ内で培われた独自のカリキュラムによるオンライン学習システムを通じて、専門性の高い人財育成にも注力している。小谷社長の経営に対する考え方や事業への取り組み方を知るためにインタビューを試みた。
食事の提供だけではない「価値」をクライアントに届けたい
ーー貴社のサービスについて教えてください。
小谷周:
弊社では、受託する社員食堂で食事を提供するだけでなく、従業員の皆さんが「社員食堂に来ることが楽しい」「この会社で働いていてよかった」と感じていただけるように、コミュニケーションの創出や職場環境の改善など、クライアントの施策を支えるサービスを提供しています。
昨今、日本では人手不足が深刻になっており、働き手にとっても転職が当たり前の時代です。このような状況下で、クライアントから私たちに期待されることは、食の提供のその先にある、「心を動かすこと」です。社会環境の変化により求められる価値を創造していくことが、グループ全体で全国3,900カ所、1日約130万食を担う私たちの使命だと思っています。
ーー貴社の強みについて聞かせてください。
小谷周:
事業領域の広さと、受託する施設が増えてもサービスのクオリティを維持しながら経営ができていることが強みです。弊社は三井物産株式会社と米国アラマーク社を含む企業グループのジョイントベンチャー企業としてスタートしていますが、双方の仕組みを取り入れながら、事業を拡張しても、品質が左右されない事業運営に努めています。
クライアントが思い描くサービスの形を具現化し「食」の可能性を拡げていく
ーー貴社はプロデュース力についても定評があると聞いています。
小谷周:
弊社は「食」に留まらず、クライアントからの要望に応じて、新しいサービスを創り上げています。2008年から広島東洋カープのスタジアム内のフードサービス運営に携わっていますが、球場を訪れる幅広い世代の方に楽しんでいただくために掲げられたボールパーク構想の実現に向けて、クライアントと一緒になって考えてきました。
たとえば、試合の5回裏終了後にビールのホーカー(売り子)も一緒になって踊る「CCダンス」の演出やスイーツを盛り付けるためのヘルメット型容器の採用、選手プロデュースメニューの販売などを提案し、先駆けて導入することができました。
運営事業者だからこそ、提案だけで終わらせず、実行する段階まで進めるという点では単なるコンサルティング以上の価値を提供できています。そして、この積み重ねが弊社の強みでもあります。
人財育成と健康経営を積極的に行うことで業界のけん引役を目指す
ーーより質の高いサービスや提案をするための人材育成にはどのように取り組んでいますか?
小谷周:
人財育成の一環として取り組んでいるのが、グループで運営している企業内大学「わたしアカデミー」です。社内で行われてきた教育研修を集めて、大学のようにシラバス(講義概要)をつくり、学部・学科・講座を揃えています。
オンライン学習システムではグループの垣根を越えて、社員が各自に支給された端末のアプリを立ち上げて、好きな時間、好きな場所で学ぶことができ、対面研修と合わせたハイブリッドな教育研修体系を構築しています。
必修科目の他、キャリアデザインや調理、営業、栄養学、心と体の健康など、講座の種類もさまざまで、講座内で使っている自社制作の動画もこの2年で300本を超えました。研修教材の制作から仕組みづくり、運営まで全て自社でやっていることが特徴です。
私たちのようなサービス業は、人があってこその仕事なので、約3,900の事業所に分かれて配属されている社員に対し、誰一人取り残すことなく、全員に同じ教育機会を提供することが大切です。現場では、クライアントやお客様の様々なニーズに応えなければなりません。そのためには、感度が高く、物事を複合的に考えられる人財が必要になります。
弊社のブランドコンセプトは、「Touch your heart~“ありがとう”の数だけ、私たちがいる~」ですが、常に相手を思いやる気持ちを持ち、このコンセプトを体現できる人財、「エームパーソン」を育てていくということです。
このような人事施策は経営の最重要課題として力を入れているところですので、ぜひ他社にも真似していただきたいと思っています。企業は人が全てです。弊社が人財育成に真っ先に取り組むことで、業界全体の人財投資への関心が高まっていくという流れがつくれるとよいと思います。
ーー貴社が提案する健康経営についてもお聞かせください。
小谷周:
この業界は休みが少なくて忙しいというのが定説で、当然土日シフトの仕事もありますし、朝の早番もあります。もちろん忙しいのは変わらないのですが、弊社では、DX化による業務の効率化を加速度的に進めながら、従業員の公休日数を国内企業でも上位の年間122日に設定しています。
これは、業界内では弊社が先進的に取り組んでいるものです。業界全体としても、休みはしっかりと休むという世界をつくらなければいけないと思っています。
食と健康、そしてその先にある付加価値を提供する、いわゆる「ホスピタリティサービスビジネス」は今後ますます発展する可能性を秘めています。弊社が先陣を切って健康経営、ウェルビーイング経営を推進し、創造的な業務への転換を図り、常に新しいサービスをつくり出していきたいと考えています。
編集後記
私たちの生活の基盤となっている「食」の分野において、暮らしを支えるインフラ企業として歩んできたエームサービス株式会社。全国4,000近くもの施設でサービスを提供してきた同社ならではのユニークな取り組みは、人財育成やウェルビーイング経営など、まさにこれからの会社経営に求められる視点から生まれている。同社が今後どんな取り組みを展開していくのか注目だ。
小谷周/1968年生まれ。兵庫県出身。1991年東京理科大学工学部建築学科卒業。同年三井物産株式会社入社。コンシューマーサービス部門を中心にロシア、米国での勤務を経て、2017年4月に同社へルスケア・サービス事業本部サービス事業部長(現ウェルネス事業本部ホスピタリティ事業部長)およびエームサービス株式会社取締役に就任。2021年にエームサービス株式会社代表取締役社長に就任。