
飲食業界は、多様化する消費者ニーズへの対応と地域性や店舗ごとの特性を活かした効率的な経営が求められる厳しい市場だ。株式会社StyLeは、多業態展開を軸に飲食業界の新たな可能性を模索し続けている。今回は、代表取締役社長の石川瑛祐氏に、独立のきっかけや事業の魅力、そして未来へのビジョンをうかがった。
飲食業界でのキャリアを切り拓くまで
ーー飲食業界でのキャリアを歩み始めた経緯について教えてください。
石川瑛祐:
私は栃木県で生まれ、高校卒業後に上京し、最初は新聞配達の住み込みの仕事を始めました。しかしすぐに辞めてしまい、その後も大学に進学したものの半年ほどで退学してしまいます。29歳頃まで目標を持てず、様々なアルバイトを繰り返す日々を過ごしてきました。
しかし、30歳を目前にして「このままでは自分は何者にもなれない」という強い危機感を抱き、飲食業で独立することを考え始めました。飲食店で働いている友人が多かったこともあり、「みんなで何か一緒にできたら楽しいのではないか」と思ったのがきっかけでしたね。そして株式会社subLimeが最短で独立のチャンスを提供してくれる会社だと知り、入社を決めたのです。
入社当初は成果が出ず悩んでいましたが、会食で社長に思いを伝えたことがきっかけで、新店舗の店長に抜擢されました。「ここで結果を出さなければ終わりだ」と覚悟を決め、住み込みで毎日20時間近く働き続けた結果、売り上げと利益で成果を出すことができました。入社から9か月後には、会社の独立支援制度を活用して自分の店舗を持つことが実現したのです。
2014年には株式会社StyLeを設立し、自分が理想とする飲食事業を追求するための本格的な挑戦を始めました。
ーー創業当初に最も苦労したことは何でしたか。
石川瑛祐:
創業初年度に7店舗を立ち上げ急速に成長する一方で、スタッフの負担が大きくなったことで離職者が出たことが最も辛い経験でした。当時は全員が同じ働き方を望むわけではないという点に気づくことができず、多様な価値観や働き方に対応できる環境をつくれていませんでした。その反省を活かし、現在では研修や合宿、食事会などを通じてスタッフが働きやすい環境づくりに力を注いでいます。それぞれの社員が自分らしく活躍できる職場を目指し、日々取り組んでいます。
地域と個性を活かした店舗展開で描く飲食業界の新たな未来

ーー貴社の事業内容について、改めてお聞かせください。
石川瑛祐:
私たち株式会社StyLeは、全国に約80店舗を展開する飲食業の会社です。グループ全体では7社で構成しており、北は仙台から南は鹿児島まで、地域や店舗ごとに特色を持たせた運営をしています。業態も多岐にわたり、500円程度のうどん店から1人あたり5万円の高級和食店まで幅広いジャンルを手掛けています。
特に私たちの特徴は、1つのブランドに固執せず各店舗ごとに独自の個性を持たせている点です。一部業態ではFC展開も行っていますが、自社運営の店舗では特に高品質を追求しており、ミシュランのビブグルマンなどの高評価を得る店舗も増えています。このように多様な事業を展開しつつも、1店舗ごとに徹底してこだわりを持った運営を心がけています。
ーー新型コロナウイルスの影響にどのように対応しましたか?
石川瑛祐:
コロナ禍が始まった当初は「もう終わった」と感じたことをよく覚えています。弊社は創業以来、規模拡大路線を進めており、店舗を次々に出店してきたため多額の借り入れを重ねており、コロナ禍で売上がゼロになった際、借金の返済だけが残るという非常に厳しい状況に追い込まれたのです。最終的に20店舗以上の閉店を決断せざるを得ず、これは苦渋の選択でしたね。
しかし、その一方で新たなことにも取り組みました。アルコール業態を中心としていた事業を見直し、食事主体の業態へシフトチェンジを図ったのです。M&Aや新ブランドの開発を進める中、アルコール業態の店舗を閉店する一方で食事業態の店舗を同じ数だけ出店するという「スクラップアンドビルド」によって、両業態を会社の柱として成長させることができました。
「何もしなければ何も変わらない」という覚悟で行動した結果、困難な状況下でも未来への道を切り開くことができたと思っています。
挑戦し続けるための3つの柱
ーー今後の成長戦略についてお聞かせください。
石川瑛祐:
まずは既存店舗の魅力をさらに高めることを最優先とし、顧客満足度の向上を図ることで既存ブランドをより強固なものにしていく方針です。また、「1業態で100〜200店舗を展開する」という具体的な目標を掲げ、業界内で象徴的なブランドの確立を目指しています。ただ規模を拡大するだけでなく、店舗運営の品質向上にも妥協しない姿勢を貫いています。
さらに、日本の食文化を世界に広めることを目的に、海外進出を積極的に推進しています。インバウンド需要への対応を強化するとともに、海外での店舗展開を計画中です。その一環としてM&Aを活用した事業の拡大、新ブランドの開発なども進めていきます。これらの施策を通じて国内外での成長を着実に実現していきたいと考えています。
ーー最後に、読者の皆さまへメッセージをお願いします。
石川瑛祐:
弊社は、「オンリーワンの店づくり」をモットーに、事業規模を拡大しながらも他にはない特別なお店を提供しています。規模が大きいからこそ可能な独自性を追求し、来店されるお客様には特別な時間を楽しんでいただくことで、スタッフにとってもやりがいのある場を提供することを大切にしています。飲食を通じてすべての人が笑顔になれる、そんな会社を目指しています。ぜひ一度、弊社の店舗に足を運んでいただければ幸いです。
編集後記
石川社長の言葉や表情から熱意と覚悟がにじみ出ている。しかし、本人はそれを「大した苦労ではない」と語る。覚悟を決めた人間の情熱と強さを感じさせるエピソードだった。
「日本の食はアニメと並んで世界一」と語る石川社長は、その日本の食文化を世界に広めるという壮大な目標を隠さない。29歳で覚悟を決めたあの日から、会社の前進は止まることはない。この挑戦の物語は、これからも多くの人を魅了し続けることだろう。

石川瑛祐/1983年、栃木県生まれ。2003年に早稲田大学を中退後、2012年に株式会社subLimeに入社。9か月後に独立し、2014年に株式会社StyLeを設立。