※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

中国料理といえば、ラーメンや餃子、チンジャオロースといった、多くの人が親しみを感じる料理が思い浮かぶだろう。株式会社南国酒家は、関東地方を中心に店舗を展開し、日本の素材や味覚を取り入れた独自の中国料理を提供する企業である。

同社は全国各地の自治体とタイアップし、地方の魅力を伝える店舗づくりにも注力してきた。今回、代表取締役社長である宮田順次氏に、こうした取り組みの背景や理念、そして日本ならではの「おもてなし」を活かした店舗経営について話をうかがった。

バブル崩壊で傾きかけた家業。後悔しない選択を

ーー入社の経緯を教えてください。

宮田順次:
弊社は私の祖父が創業した会社で、不動産業と飲食業を営んでいましたが、バブル崩壊後、高値で購入した不動産が急激に価値を下げ、莫大な負債を抱えることになりました。当時、私は三井不動産に勤務していましたが、親や親族が苦しむ前に自分が何かできないかと考え、家業に入る決意をしました。

入社後はまず不動産業を中心に改革を進め、三井不動産で培った経験を活かし、退去を検討しているテナントと交渉して思いとどまらせたり、空室に新たなテナントを誘致したりと、入居率を向上させるための仕事に力を注ぎました。

社員とともに築いた新たな理念「日本人に根付く中国料理」を目指して

ーー社長就任後に新たに始めた取り組みについてお聞かせください。

宮田順次:
私の使命は、会社を100年、200年と続く企業に育て上げることだと考えていました。そのため、まず取り組んだのは、社員とともに会社の理念やミッションを明確にしていきました。

弊社の中国料理事業はもともと不動産業の延長線上で始めたもので、経営と現場との意思疎通が当時は比較的少なかったと思います。しかし、社員たちと議論を重ねる中で、「日本人の生活に根付いた中国料理をつくりたい」という目標を再認識しました。これを具現化し、「日本の旬の食材を活用し、四季を感じられる料理を提供する」という方針をたてました。

この取り組みを通じて、「日本人が好むおいしい中国料理を提供することが、私たちの原点であり道筋だ」と改めて実感することができたのです。

ーー改めて、貴社の事業内容を教えてください。

宮田順次:
弊社は中国料理専門店の経営や、フランチャイズ事業を行っています。無理に店舗数は増やさず、料理人が味を受け継ぎながら部下を育て、当店の味を自信をもって披露できる店づくりを目指しています。また、お客様には適正な価格で料理を提供しながら、できる限り社員に利益を配分して、飲食店で働く社員の地位向上を目指しています。

現在は、「日本のおいしい中国料理をつくる」というコンセプトをベースに店を展開しており、都道府県とタイアップしながら地方の伝統食を伝えることも行っています。

「おいしいものにっぽん」という事業では、中国料理と相性のいい全国の食材を探し、期間限定メニューとして提供。日本でつくられたものを日本で消費することで、食料自給率アップにつなげ、個性豊かな食材を美しい中国料理に仕上げているのも弊社独自の魅力だと思っています。

ーー取り組みを進める中で、お客様からどのような声が寄せられていますか?

宮田順次:
この取り組みを始めた頃は、「中国料理を食べに来たのに、日本の食材を中心に使っているのか」といった驚きの声も多くありました。お客様に受け入れていただくまでにはかなり時間がかかり、正直なところ厳しい時期もありました。

しかし、7〜8年ほどかけて、期間限定メニューだけではなく、通常のメニューにも日本の旬の食材を積極的に取り入れるようにした結果、「日本の各地から産地直送で仕入れている南国酒家の食材は、安心かつ新鮮で美味しいね」とお褒めいただけるようになりました。

日本の食材を活かした中国料理のメニューを構成するアプローチは、他の誰もやっていないことであり、そこが大きな差別化ポイントになっています。この取り組みを通じて、独自の価値を提供できていると実感しています。

DX導入で迅速かつ効率的な未来型サービスを実現する

ーー現在の事業において大切にしている考えや、今後目指している会社の姿について教えてください。

宮田順次:
大切にしているのは、人への感謝とコミュニケーションです。サービス業である以上、お客様へ感謝の気持ちを持って接することが重要ですし、店舗自体も常に清潔で整った状態でお迎えすることが求められます。おもてなしの精神や感謝の姿勢が会社の評価や業績につながると社員が理解したとき、社員自身も自分の仕事にやりがいを感じ始め、良い循環が生まれると考えています。

また、アルバイトを含む総勢約400人の従業員全員が納得できる人員配置や給与・福利厚生制度を整えることも課題です。特に社員は自ら率先して行動し、仕事を楽しむことで成功を味わえる環境をつくるのが私たち経営者の役割です。

現在、飲食業界全体としては人手不足という課題にも直面しており、弊社は全国の調理学校を訪れてつながりを構築するなど採用活動を行っています。しかし、この業界で働く人数自体が減少しているため、企業の方向性や魅力をより示し、「この会社で働きたい」と思ってもらえる取り組みが必要だと感じています。

さらに、DXの推進にも力を入れていくつもりです。高級店ではアナログな対応が多くなりがちですが、タッチパネルやQRコードを活用することで、お客さまに迅速なサービスを提供することが可能です。

将来的には、一部店舗には食材の準備といった味に影響がない作業をロボットが行い、味付けなどクリエイティブな部分を料理人が担う仕組みの導入なども考えていきたいと思っています。お客様のニーズや反応を敏感にキャッチしながら、進化を続ける企業であることを目指していきたいですね。

編集後記

日本の食材を使った中国料理が広く受け入れられるまでには長い年月を要した。それでも、日本の魅力を伝えたいという情熱と、日本の四季を存分に活かした料理を届けたいという信念を貫き通した株式会社南国酒家。中国料理というジャンルを超え、食文化の新たな可能性を切り開いた南国酒家の挑戦は、今後もさらなる発展を遂げるだろう。日本の食材の魅力を日本から世界に広げるその可能性は、まさに無限大である。

宮田順次/1968年東京都生まれ。学習院大学卒業後に三井不動産を経て株式会社南国酒家にに入社。2010年、代表取締役社長に就任。飲食部門では「日本の美味しい中国料理」をコンセプトに全国各地タイアップして日本食材の普及を推進。不動産部門では自社ビル、商業ビル、マンションを手掛け、街並みに合わせたテナント誘致を推進している。