※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

株式会社グラナダは、イタリア料理やスペイン料理、日本料理など、多彩な業態のレストランを展開する会社だ。1999年に東京・白金に薪窯で焼くナポリピッツァの店「白金ISOLA」をオープンして以降、着実に店舗数を増やし、現在は25店舗を展開している。

今回は、代表取締役である下山雄司氏に広告代理店から飲食業界に転身した経緯や、レストラン経営で大切にしていること、今後の展望などについてお話をうかがった。

本場ナポリピッツァの店を開くために、会社勤めをしながら開業を準備

ーー下山代表の経歴をお聞かせください。

下山雄司:
父親が東南アジアで働いていたため、私も海外で仕事をしたいと思い、商社への入社を希望していました。しかし、すべて採用試験で落ちてしまったため、内定をもらえた大手広告代理店で働き始めました。

そこから6年間はラジオ局を担当し、2年間は映画などのエンターテインメント事業を担当しました。それからは全国を渡り歩き、海外出張もして、国内外を縦横無尽にかけ回る生活でしたね。

ーー会社勤めをする中で、飲食店の開業に携わったきっかけは何だったのですか。

下山雄司:
大学の先輩から、「ナポリピッツァを提供するレストランの開業を手伝ってほしい」と言われたことがきっかけでした。当時、宅配のピザ店はあったものの、本格的なピッツァを出している店はほとんどありませんでした。

私自身ナポリでピッツァを食べたことがあり、本場のおいしさを知っていたので、「ぜひ協力したい」と快く引き受けました。1999年、東京・白金に「PIZZERIA ISOLA」がオープンしてからもしばらくは、朝は築地に食材を仕入れに行き、本業が終わってから店を手伝うという生活を送っていました。

こうして飲食の仕事に関わるうちに、仕入れた食材を調理して提供し、お代をいただくというシンプルさに魅力を感じるようになったのです。料理にとことん向き合い、味で勝負するという仕事が自分に合っていると思い、飲食業の道に進むため、代理店を退職しました。

レストラン経営とコンサルティング事業の二軸で会社を運営

ーー貴社の事業内容について教えてください。

下山雄司:
主な事業は、レストラン経営とコンサルティング事業です。レストラン経営はすべて自社で行い、イタリア料理やスペイン料理、和食など、カジュアルな店から高級店まで、幅広く展開しています。

また、コンサルティング事業では、レストランの経営改善の提案や、メニュー開発などを行っています。なお、一般企業から「新業態として飲食業を展開するので協力してほしい」といった依頼が来ることもあります。

ただ、基本的にはスタート時の支援が中心で、その後の運営には関わらないようにしています。あくまでもレストラン経営が本業です。

ーースペイン料理店をオープンしたきっかけは何だったのですか。

下山雄司:
スペイン料理は世界中で評判が高いにもかかわらず、日本ではあまり知られていませんでした。そこで、スペインのミシュランニつ星(2006年に三つ星を獲得、2018年に閉店)「レストラン サン パウ」を日本に誘致しようと考えました。

オーナー兼シェフのカルメ氏に相談を持ちかけたのですが、最初は取り付く島もありませんでしたね。しかし、食事をしながら会話を重ねるうちに打ち解け、最終的には日本での出店にこぎつけることができたのです。

スペイン料理で使う食材の調達にも苦戦しましたが、FAXでやり取りし、現地から食材を調達しました。

あらゆるジャンルのレストランを経営しているからこその強み

ーーさまざまな業態のレストラン経営を成立させる秘訣を教えてください。

下山雄司:
複数の業態の店を経営しているからこそ、小回りが利くのが最大のポイントですね。たとえば炉端焼きの店でスペイン風のソースを使うなど、ジャンルにとらわれない料理を提供しています。また、高級店でリーズナブルなワインも用意するなど、お客様のニーズに幅広く対応できる点も強みです。

ヨーロッパのことわざに「おいしいレストランの裏口に猫は来ない」とあるように、余った食材を他の店舗で活用し、無駄なく使い切る工夫をしています。

さらに、異業態の料理人が交流することで、新しい調理法やメニューのアイディアが生まれることもメリットだといえるでしょう。料理人の知識が広がり、個々のレベルアップにもつながっています。

ーー商品は、どのように仕入れているのですか。

下山雄司:
日本全国の生産者のところに行き、新鮮で良質な食材を確保しています。また、商社さんに協力してもらってスペイン人しか知らない現地の肉を輸入するなど、食材の発掘も行っています。

経営の要は妥協しないこと。現在注力している冷凍食品の開発について

ーーレストランを運営する上で、大切にしていることはありますか。

下山雄司:
化学調味料に頼らず、「本物の料理」を出すことにこだわっています。たとえば野菜を使ってうま味を出す、フライパンに残った肉汁を使ってスープをつくるなど、料理の基本を大切にしています。

また、何事においても筋を通し、決して妥協しないことを心がけています。実際に、若い頃に「この辺でいいかな」と場所について妥協して出した店は、必ず失敗していました。

そのため、「絶対にうまくいく」と自信を持てるときにだけ、事業化するようにしています。

ーー今後の事業展開について、お聞かせください。

下山雄司:
レストラン事業だけで生き残るのは難しいため、今後は食品の販売事業にも力を入れていきたいですね。特に注力したいのが、冷凍食品の開発です。ベースとなるスープを弊社でつくり、冷凍した状態で自社以外の飲食店に卸すという方法を考えています。

各店舗で仕上げをするだけで料理を提供できるので、飲食店で働くスタッフの労働時間の短縮につながるでしょう。これから商品開発に力を入れ、工場の製造技術の向上に取り組んでいきます。また、業務用だけでなく、お弁当の一品になるような、一般消費者向けの商品の販売も検討しています。

ーー最後に読者の方々へ、メッセージをお願いします。

下山雄司:
仕事を通じて何を実現したいのかを突き詰める中で、自分の軸をしっかり持つことをおすすめします。家族を養うことでもいいですし、最初に決めた目標が途中で変わってもかまいません。そして、ただ単に成功を目指すのではなく、自分が楽しめる道を進んでください。

編集後記

これまで数々のレストランを手がけ、日本の飲食業界に大きな影響力を与えてきた下山代表。素材のうま味を活かし、食材を余さず使い切るという料理の基本を大切にしてきたのだと、今回のインタビューで実感した。株式会社グラナダは、これからも食材を活かした料理で人々をもてなし、食事の楽しさを伝えていくことだろう。

下山雄司/1968年、群馬県生まれ。上智大学を卒業後、株式会社電通に勤務。1999年、友人と「ISOLA(イゾラ)」を東京の白金にオープン。電通を退社して2000年、株式会社グラナダを設立。現在はイタリア料理、スペイン料理、日本料理、鉄板焼きなどの約25店舗を統括。最近では、グルマン(美食家のフランス語)の間で話題の、世界的シェフが監修する「MAZ(マス)」(2023年ミシュラン東京で二つ星を獲得)や「CYCLE」(2024年ミシュラン東京で一つ星を獲得)を手がける。