※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

外食産業は、消費者ニーズの変化や人手不足、原材料費の高騰など、多くの課題に直面している。そんな中、「つけ麺専門店 三田製麺所」をはじめとする多角的な事業展開で注目を集めているのが株式会社エムピーキッチンホールディングスだ。そして、同社の改革を牽引するのが、2021年に取締役社長に就任した石川晃久氏である。今回は、石川社長のユニークな経歴や経営哲学、現在の取り組みとともに、今後の展望について話をうかがった。

異業種での経験を経て、飲食業界へ

ーーこれまでのご経歴をおうかがいできますか。

石川晃久:
学生時代、飲食チェーンでアルバイトをしていたのですが、飲食店は老若男女さまざまな人が交わる場。店舗運営や接客を通じて多くのことを学びました。そして、「飲食業界で経営者になる」と志しました。しかし、大学卒業後は異業種で研鑽を積む道を選びました。

新卒で入社したのは消費財メーカーのユニリーバ。関西で営業として問屋の窓口を担当し、ドラッグストアを回りました。営業部は実力主義、ロジックだけでは通じない強者ぞろいで、歯が立たないほどでした。その後、本社でマーケティングに携わり、海外赴任も経験しました。

ユニリーバに在籍して8年、30歳という節目で、想定内の仕事ではなく新しい業界で学びたいと考えました。そこで、何の知識もない医療機関向けコンサルティング会社に移籍し、ゼロから短期間で結果を出すと決めて仕事と向き合いました。

そして、2018年にエムピーキッチンに入社し、ようやく飲食業界に入りました。

「利他」を根幹に据えた多角的な事業展開

ーーエムピーキッチン入社後、どのような業務に取り組まれましたか。

石川晃久:
私は入社後、経営企画室の立ち上げをゼロから任されました。エムピーキッチンは、「すべての人に、満腹と幸福を」をミッションに掲げ、急成長している若い会社。それまでバラバラだった部門間の業務を全社最適の視点から調整しました。

また、人事制度や労務関係の整備、マーケティング部門の構築などにも関わりました。多くのプロジェクトを通じて、組織内での信頼関係が深まったと感じています。

ーー社長に就任してから特に意識していることは何ですか?

石川晃久:
人ありきのビジネスですから、お客様に対しても、従業員に対しても「利他」の心で接することが重要です。困難な状況でも環境や人のせいにせず、自分ごととして捉えるようにしています。相手のために行動することが、結果的に顧客満足にも従業員のやりがいにもつながると考えています。

また、あいさつや掃除、メールのレスポンスなど、当たり前の小さなことを日々積み上げることも意識しています。

ーー貴社の事業内容とその魅力について教えてください。

石川晃久:
主力ブランドは「三田製麺所」で、国内に約50店舗、海外では香港に数店舗展開。また、「日本橋とんかつ 一 Hajime」や「薄皮餃子専門 渋谷餃子」などの新業態の開発にも積極的に取り組んでいます。

いずれも「リーズナブルでおいしいものを、もっと身近に」という思いでビジネス設計しています。原材料の高騰など課題はありますが、原価率や粗利だけを見て値上げに走ることは、お客様の心境に寄り添う「利他」の精神に反することになります。お客様の身近にある商品は低価格に抑え、商品全体のバランスを考えたうえで、おいしさとボリュームに見合った価格帯で提供しています。

ーー今後の展開として注力したい点を教えてください。

石川晃久:
コンビニやスーパーの利便性が高まる中、「わざわざ飲食店に足を運ぶ価値」の提供が求められています。そのため、各ブランドの商品やサービスのクオリティをブラッシュアップさせ、全社として営業体制を強化する方針です。

加えて、インバウンド客への対応としてモバイルオーダーの多言語化なども行っています。日本での食体験を通じて価値を高め、その認知を世界に広げていきたいです。また、海外の方にも日本で培われた味とサービスを楽しんで体験してもらえるよう、東南アジアを中心に海外FC事業を推進しています。

多様な人材が支える組織の成長

ーーSNS活用やライブ配信などに積極的に取り組まれていますが、どのような戦略を考えていますか。

石川晃久:
公式SNSを通じて社内ニュースや限定メニューなどの情報を発信しています。現在は、テレビCMや新聞の広告よりもSNSでの告知が主流になりつつある時代。SNSによる発信のおかげで、新卒採用活動においても効果を発揮し、「SNSを見て応募した」という学生が増えています。今後もメディアを限定せず、柔軟に対応していく予定です。

ーー今後、どのような人材を求めていますか。

石川晃久:
新卒採用は今年で3年目になります。私自身も面接に立ち会い、個性や趣味を通じて潜在的な成長の可能性を見極めるよう心がけています。中途採用では、飲食店での店長経験やチーム運営の経験がある方も評価しますが、介護などの異業種からの採用も行っています。

また、外国人の採用にも前向きで、現在、全体の約2割を占めています。言語や文化の違いはありますが、今後教育制度を整備する中で、外国人が外国人の研修をするというサイクルの実現が理想です。

そのために、ブランドの成長を支える従業員がやりがいをもって働けるよう、人材の採用強化や理念教育をはじめとする研修体制の確立など、働く環境を整備することも考えています。

今後求める人材は、食が好きで、人が好きで、ともに成長したいと思える人材。弊社は発展途上の段階にあるため、既存の仕組みに満足せず、お客様視点で「これがあればもっとよくなる」と提案し、一緒につくり上げていけるマインドをもつ人と一緒に仕事をしたいです。

編集後記

石川社長へのインタビューを通じて、「リーズナブルでおいしいものを、もっと身近に」届ける飲食ビジネスを展開するエムピーキッチンの根底には、利他の精神が脈々と受け継がれていることを感じられた。多様な仲間たちとこれから切り拓く未来は一体どんなものなのか。しっかりと見届けていきたい。

石川晃久/1985年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社に入社後、営業・営業戦略・トレードマーケティングに従事。CDIメディカルに移籍後、医療機関の経営改善、事業会社のヘルスケア領域の新規参入戦略立案や実行支援などのプロジェクトに参画。2018年よりエムピーキッチンに入社。経営企画室長、CX推進担当執行役員を経て2021年より現職。