2020年に拡大した新型コロナウイルス感染は、世界の経済に大きな打撃を与えた。日本の製造業も例外ではなく、景気は大きく落ち込み、原材料・エネルギー価格の高騰や半導体などの材料不足も追い打ちをかけ、先が見えない状態が続いている。
しかし、21世紀を前にしていち早く製造業同士のマッチングをビジネス化し、この不況下にもかかわらず会員数を増やしているのが株式会社NCネットワークだ。海外の会員を拡大させ、国の内外に向けた新規サービスの提供を積極的に行っている同社の代表取締役社長である内原康雄氏に、会社の成り立ちや強み、事業の未来に関しての話を聞いた。
家業で苦労した「情報の壁」が、新規ビジネスの扉を開くヒントに
ーー家業を継ぐまでの経緯を教えてください。
内原康雄:
実家は金属プレス加工の製造所を営んでいたため、物心がついた頃から、工場と家が同敷地内にあり、製造業の環境に馴染がありました。「私は工場に住んでいた」といっても良いくらいです。
大学時代は自由に青春を謳歌すると同時に「卒業したら家を継ぐのだろうな」ということも自然と心に決めていました。
卒業後は修業も兼ねて、自動車メーカーの下請会社と家電のプレスメーカーの2社で経験を積みました。両社とも家業の主軸である金属プレスを扱っていたので、それぞれ異なるモノづくりのよい経験を積み、それを活かせる形で実家に戻れたわけです。
ーー家業に入った後はどのような業務をしていましたか。
内原康雄:
それまでの経験を活かして、金型の製造に取り掛かりました。従業員約20名の小さな会社だったので、自分一人だけで作業をしていくことが多かったですね。
しかし、製造工程上、自社での作業が厳しい場合は、納期を守るために外注することもありました。また、大量生産が強みだったので、利点を活かせない案件も、外部にお願いしていました。
当時、外注先を探すことは非常に大変なことでした。電話帳を見ただけでは事業内容がわからず、先輩に聞いたり口コミに頼ったり、業界名簿をみて自力であたるなど、たくさんの苦労を重ねました。
しかし、その悩みがインターネットの登場で解消されたのです。「サイトを使って、共同受注をしよう」と製造業9社の仲間が集まってくれました。最初は、会社ではなく「NCネットワーク・グループ」として立ち上げました。それが、1996年のことでした。
そして、株式会社NCネットワークの前身である株式会社エヌシーネットワークへとビジネス展開する1998年前後は、楽天グループの創業やアマゾンの上場などのITバブルがあり、社会的にも大きな動きがあった時期でした。
逆境を乗り越え新規ビジネスに挑戦
ーー新会社設立の後、苦労したエピソードを聞かせてください。
内原康雄:
株式会社エヌシーネットワークを設立し代表取締役に就任後、大手商社などから多くの融資をいただき、株式上場も目指していました。
しかし、2008年には上場を断念することになってしまいました。「少人数で、本来の目的である製造業に貢献できる会社にしよう」と思い、それから経営方針を変えました。その年はリーマン・ショックもあり、2011年までは弊社にとっては建て直しの時期でしたね。しかし、それでもまだ十分とはいえず、これからやっと本格的に事業を進めていけそうです。
ーー現在の貴社のサービスについて教えてください。
内原康雄:
製造業における企業と企業をつなぐBtoBマッチングプラットフォームとして「エミダス」という工場検索エンジン」を提供しています。これは、私たちの事業の中心となる部分です。サイトの会員数は国内が1万5000社、海外はベトナムとタイ、アメリカを中心に7000社に及びます。
一方で、2020年に株式会社NCネットワークファクトリーという受注窓口となる商社をグループ本体から分社化し、設立しました。これによって、グループ全体で製造業の検索・情報収集系と実働系の両方に対応できるようになりました。
また、この数年での特筆すべき事業は、2022年に始めた「エミダスソーシングサービス」です。大手の製造会社向けに用意した部品などの代替調達先の検索システムで、細かな条件を指定して調べることができます。このサービスは、大手メディアでも取り上げられ、今後はさらに拡大するでしょう。
厳しい時代だからこそ、日本の強みを極限まで信じて
ーー円安が続くなか、日本では物価高に悩まされて経済が悪化しています。そのような状況のなかで、今後は事業をどのように展開する予定ですか。
内原康雄:
企業は、物資を外国から買うことを敬遠するようになり、確実に日本国内へと意識が戻っていますね。そこで、弊社のサイトがより一層活用されていくわけです。もちろん、百円均一で扱う商品のように、大量の需要があるものは中国で製造され続けるでしょう。しかし、これはあくまで一例で、実際は多くの企業が日本に戻ろうとしているのです。
また、こうした考え方もあります。定型化されている商品は、大手通販サイトで購入できますよね。しかし、見た目がそれほど変わらなくても微妙に違っているもの、たとえば、500mlではなく、460mlサイズに変えたお茶などはどうでしょうか。そういったものは通販サイトの取り扱いが個々で違っており、消費者からしても、なかなか探すのに苦労するタイプの商品です。
弊社は、そのようなオーダーメイドともいえるものに今後も注目していきます。時代も変わり、商品の品質は今や安いからといって劣っているわけではありません。百円均一のものでも品質はだいぶよくなってきています。ただし、価格競争だけでは日本の製造業は中国に勝てません。確かに、先ほどのお茶のような、微妙に差別化したものは大きなビジネスになりにくいでしょう。
しかし、今の時代だからこそ、日本の製造業が持つ精巧さと新しさを活かしたオーダーメイドなモノづくりを弊社がつなげていきたいと思っています。
弊社は会社のメッセージとして「日本再創造」を謳っています。今後は、特に東南アジア圏内で日本の技術力を発信していきたいですね。
編集後記
モノづくりへのこだわりを見せながら、常に新しい可能性を探り、柔軟な姿勢で挑戦しようとする内原社長。いまは特に、大手製造会社に向けた検索システム「エミダスソーシングサービス」に力を注いでいるとのこと。後ろ向きのニュースが多い製造業界のなかで、大いなる好奇心からビジネスチャンスを見出す内原社長の姿勢に、躍動を生み出す新たなエネルギーが生まれることを確信した。
内原康雄/1964年、東京都出身。専修大学卒業。家業を継ぐためにプレスメーカー2社で経験を積んだ後、1990年に実家である株式会社内原製作所に入社。専務取締役に就任。1997年、若手経営者を中心とした製造業9社が集まり、東京都労働経済局の支援を受けNCネットワークグループを発足。その翌年には、株式会社エヌシーネットワーク(現株式会社NCネットワーク)を設立。代表取締役に就任。