※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

トラックドライバーの時間外労働規制によって、輸送能力の低下が懸念される「2024年問題」。2030年には日本の35%の荷物が運べなくなるといわれ、経済・生活へのダメージは甚大だ。物流DXとコンサルティングを提供するアセンド株式会社を立ち上げた日下瑞貴社長。物流業界の構造転換に挑戦する志に迫る。

夢は政治家。社会課題解決の提言活動から起業へ

ーー起業のきっかけを教えてください。

日下瑞貴:
私は学生時代、100年以上の伝統を誇り、政治家や経営者を多数輩出してきた「早稲田大学雄弁会」に所属していました。社会的な実践のために、国内外の問題を研究し、意見を交換する弁論に取り組んでいました。

4年間さまざまな社会課題に向き合い、大学院では民主主義を哲学の観点から追究してきたことから、先輩方のように社会の発展に寄与する政治家を志しました。しかし、いきなり政治家にはなれないので、社会経験を積むために、外資系コンサルティングファームに入社しました。

哲学という物事を深く考察する世界から、「現場・オペレーション」といった実務の世界に飛び込み、メーカーや一般企業のSCマネジメントに従事しました。その後、シンクタンクに転職し、官公庁や業界団体向けに物流業界に関する政策提言や戦略策定を行ったプロジェクトを通じて、物流業界の課題に直面したことが起業のきっかけです。

ーーそれほど物流の問題は重大だったのでしょうか。

日下瑞貴:
そうです。物流は「経済の血管」、重要な「産業インフラ」です。物流が止まるとあらゆるモノ・コトがダメージを受け、日本の各種政策にも悪影響を及ぼします。

物流業界では以前からいくつかの課題が懸念されていましたが、解決を図るプレーヤーは一向に登場しない。本腰を入れて解決に当たらなければ、日本の成長も未来も描けないという危機感から自ら起業することにしました。

強みは独自の物流SaaSの実装と経営支援の一気通貫

ーーその志と使命を達成するための事業内容を教えてください。

日下瑞貴:
物流DXとコンサルティングを中心に展開しています。

昨今、盛んに取り上げられている「2024年問題」は山積する課題の氷山の一角に過ぎません。物流業界は、1990年に施行された物流2法である「貨物自動車運送事業法」と「貨物運送取扱事業法」によって、参入規制と運賃規制が緩和されました。

その結果、事業者数は1990年以前の約1.5倍に増加しましたが、低価格競争が勃発しました。運賃を利益に反映できず負のスパイラルに陥り、約6割の事業者は営業利益ベースで赤字経営になっているという報告もあります。

しかも、トラックドライバーの平均労働時間はほかの産業より約2割も長いにもかかわらず、報酬は約2割も低くなっています。そこで今回、トラックドライバーの働き方の見直しがかかったわけですが、私はもっと抜本的な改善が不可欠と考え、弊社が開発したクラウド経由で提供する運送管理SaaS「ロジックス」を展開しています。

物流業界は、デジタル化の遅れも課題です。いまだに受注管理や配車手配、請求書発行などを手作業で行っている会社が少なくありません。「ロジックス」は、案件管理から配車手配、請求書発行まで一括して管理可能です。そのため、アナログ作業の負担軽減と効率的な運行を実現できます。

近頃、同様の運行管理のSaaSが増えていますが、「ロジックス」は集積されたトランザクションデータをタイムリーに可視化でき、さらにそのデータを、私をはじめ、戦略、業務、人事、マーケットなど各領域に精通したコンサルタントが分析し、経営改善につなげる提案をできることが他との大きな違いです。

運行ルートの採算性の算出による運行計画や業務体制の見直し、正確なエビデンスに基づく荷主企業との運賃交渉、適正な価格設定などが可能となっています。

「テクノロジー」×「コンサルティング」×「組織力」で物流の全方位に働きかける

ーークライアントからの評価はいかがですか。

日下瑞貴:
「ロジックス」は、機能特化した他製品と比べると、カバーする業務範囲の広さから、「やや高い」とのお声をいただくことも正直ありますが、業務全体をDXする必要性や、データを経営改善につなげていく必要性に共感いただき、成約数は右肩上がりを続けています。解約数もこれまで0件で、お客様には、大変喜んでいただいています。

最近はオンライン商談が進んでいますが、お客様の元に直接うかがうことも重視しています。デジタルが苦手な方も多いので、「ロジックス」のUI(ユーザーインターフェース)のこだわりポイントはもちろん、操作方法を直接丁寧にレクチャーし、アフターサポートを継続します。お客様に寄り添いながらデジタル化と経営改革を手厚く進めていくことも、評価いただいている要因のひとつです。

ーー社員の働きがいはどのように形成していますか。

日下瑞貴:
巨大でレガシーな側面もある物流業界を変えていくには「強い組織力」が必要であり、「大きな社会課題を解決に貢献したい」という志向性をもつメンバーが、自律的・意欲的に働ける仕組み作りには創業よりこだわっています。

また、深い関係性の構築や心身の健康も大切です。そこで、創業以来「アセンド食堂」を毎晩開いています。社員たちが持ち回りで料理をつくり、一緒に食卓を囲むのですが、互いの絆が深まり、士気や帰属意識の向上につながっています。

日本の物流のために!業界の明日をつくる

ーー貴社の未来像を聞かせてください。

日下瑞貴:
弊社は今、さらなる成長のフェーズに入っています。物流業界の市場規模は、約30兆円だと言われており、弊社が進出可能な領域や可能性は非常に広いです。そのため、拠点増設、お客様の新規開拓はもちろん、採用数も倍増していく方針です。

ただし、テクノロジーだけでは真の業界変革を起こすことは難しいとの思いから、行政や業界団体向けの政策提言やルールメイキング活動も積極的に展開していきたいと考えています。

これを成し遂げるために、物流業界の改革と日本の発展にかける思いを同じくする、まだ見ぬ未来の仲間も含め、社名の「アセンド」の意味が示すように成長や上昇を、共にめざしていきたいと思います。

編集後記

堂々とした語り口は、さすが早稲田大学雄弁会出身。強い組織で全方位的に業界変革に働きかけるという姿勢からは、物流業界を変えるという熱い思いがひしひしと伝わってきた。物流が滞れば、水道や電気、ガスと同様、暮らしは成り立たない。日下社長の活躍に、日本の将来が託されているといっても過言ではないだろう。

日下瑞貴/1990年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。PwCコンサルティング合同会社を経て、株式会社野村総合研究所に移り、官公庁や業界団体を中心に物流業界への政策提言・戦略策定プロジェクトに携わる。運送事業者のDX推進とフェアな取引環境の構築を目指し、2020年にアセンド株式会社を創業。