※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

株式会社梅の花といえばその名を冠した湯葉や豆腐がメインの飲食店が有名だが、グループとしてはさまざまな飲食店、テイクアウト、外販(※)の事業を抱え、店舗数は優に270を超える。

「梅の花」が成功する中でも、あえて他ブランドを取り入れつつ多様な業態で次々と新店舗を展開してきたのはなぜなのか。コロナ禍を乗り越えた先では、飲食事業者としてどのような計画を立てているのか。多角化を図ってきた代表取締役社長の本多裕二氏に、事業戦略や今後の計画について話をうかがった。

(※)自社の商品を催事やスーパーマーケットなど自社店舗外で販売。

多彩な経験を活かした多角化戦略、先を見据えた先手戦略

ーー梅の花に入社した背景について聞かせてください。

本多裕二:
私は、弊社に入社するまでにゴルフ場、温泉旅館、そして解体業で働いた経験があります。どうも、1つの会社の中で自分に任された役割を終えたと感じると、別の新しいことに挑戦したくなる性分のようです。

梅の花に入社したキッカケは、鹿児島県の株式会社Misumiで株式上場と役員の経験があったことからです。梅の花が株式の東証上場を目指す際に、上場経験がある人材を、若手経営者の仲間内で探していました。そこで私に声がかかり、入社するに至ったのです。

ーーもともと経営に興味があったのですか?

本多裕二:
最初から経営に興味があったわけではありません。前職で働いていた時に、営業で好成績を上げる中で、私のとある提案書が当時の社長(現会長)の目に留まり、そこから社内外においていろいろとプロジェクトを任されるようになりました。

今も印象に残ってるエピソードとしては、当時の取引先の企業様で問題が起こったことがあり、「お世話になったクライアントなので助けるように」と社長から命を受け、その企業様の立て直しを支援したこともあります。同社長は「長く儲けさせてもらった取引先を立て直すためであれば、わが社が損をしても助力すべきだ」と考える方で、その方の元で経営者としての精神を育ててもらったと感じますね。

ーー梅の花で社長になってから、あえて事業の多角化に挑戦したのはなぜですか?

本多裕二:
1つの業態を手がけるだけでは、日本国内に展開し終えてしまえば、それ以上の成長が望めません。弊社も私が入社した時は好調でしたが、それは従前の取り組みが成功していたからです。私には将来の経営に不安があったため、2018年に社長に就任する以前から、事業の安定と成長のために、工場の効率化や多角化経営を図ってきました。

子育て世代に響く!思い出づくりから始まる新たなブランディング戦略

ーー貴社の事業について教えてください。

本多裕二:
飲食事業を主軸に、テイクアウト事業、外販事業も行っています。そのうちの飲食事業の中で、社名を冠する「梅の花」の売上が40%強です。

なんといっても、弊社の“こだわり”は素材にあり、生産者とともに商品をつくることを重視しています。特に豆腐に関しては、「ゆきぴりか」というイソフラボン含有率が高い品種の大豆を生産者と直接契約で委託生産、全量買取しています。そして、飲食事業では化学調味料もほとんど使わず、健康に配慮した食事を提供できるように心がけています。

また、「お客様に非日常を楽しんでいただきたい」という観点から、お店のつくりや接客にもこだわりをもって運営しており、他社との差別化を図っています。

ーー今後の具体的な事業計画について聞かせてください。

本多裕二:
好調を続けているテイクアウト事業は多くのオファーもあり、新しいエリアへの出店を計画しています。また、三協グループとの合弁会社である株式会社三協梅の花の新店舗の「甲梅」が、2024年度中には東京スカイツリーに隣接する東京ソラマチ内にオープンする予定です。

外販事業では、冷凍食品を中心に売れ筋商品や強みを持っている商品に力を入れて伸ばしていきたいと思っています。

飲食事業では、既存店舗の改装を進めています。座敷席をテーブル席に変えるなど作業効率を考慮した改装を行っています。また、居酒屋業態ではブランドごとに鮮魚を中心とした特徴ある店舗へリニューアルする予定です。

ーー拡大戦略を進める中で、顧客獲得についてはどのように考えていますか。

本多裕二:
ブランディング戦略にDXを取り入れ、新規の顧客開拓に注力しています。インスタグラム、ホームページの活用に加え、アプリ会員を拡大する取り組みも進めているところです。「梅の花」の売上割合も変わってきている中で、「豆腐の店」だけではないブランディングをしていきたいですね。

年間で1700万人が弊社のグループ会社を利用していますが、アプリを活用すれば、店舗ブランドを超えたプロモーションが可能です。常にお客様とのつながりを確保するため、株主とアプリ会員には無料の新メニュー試食会も開催しています。

ーーこれからの顧客ターゲットはどのような世代でしょうか。

本多裕二:
「梅の花」の店舗では、子どもの記念日需要が年間3万5千組にものぼります。店舗を選ぶのは、インスタグラムやアプリで情報収集をする子育て世代です。この世代に響くようなアプローチをすることなくして、店舗の将来は考えにくいですね。

記念写真を撮影して絵本作家が監修したオリジナルフォトフレームをプレゼントする企画もあり、2024年12月から開始いたしました。お客様にお祝いとしてお渡しすれば、長く家に保管してもらえると考えてのことです。

バトンタッチを見据えて、DXと人材育成で未来をつくる

ーー内部体制の整備について、詳しく聞かせてください。

本多裕二:
管理部門の集約を終えて、現在はDXによる生産性向上に取り組んでいます。たとえば人事部では12月の労働時間が450時間減少や他の部門も合わせると、紙の使用が月1,000枚程度削減され、着実に成果を上げています。今後は、ペーパーレス化や海外展開を見据えた人材の確保などを進めていく必要がありますね。人手不足に備えながら企業価値を高め、お客様からの評価や株価を上げることも考えていきたいと思います。

ーー今後、どのような会社にしていきたいですか?

本多裕二:
何よりも、従業員が安心して生活でき、「働いて良かった」と思える会社にしたいですね。コロナ禍の際も、「会社と従業員を守るためには何でもしよう」と思って動きました。その結果、従業員からも金融機関からも信頼を得て支援してもらえたので、現在があります。
しかし、私も既に70代なので、そろそろバトンタッチのことも考えていきたいですね。

編集後記

穏やかながら明るく、つい聞き流してしまうようなサラリとした調子で重要なことを話す本多裕二社長。なんと言っても印象的だったのは、将来像の具体性と数の多さだ。飲食中心の企業でありながらコロナ禍を乗り越えられたのも、この具体的な計画と成果の積み重ねゆえだろうと感じられた。株式会社梅の花が今後、ここで語られた計画を実現し、さらなる高みへ向かうのが楽しみだ。

本多裕二/1952年、熊本県生まれ。1976年、青山学院大学卒業。1976年、新日本観光興行株式会社に入社。1978年、有限会社三国温泉センターに入社。1979年、有本金属工業株式会社に入社。1981年、三角石油瓦斯株式会社(現株式会社Misumi)に入社。2001年、株式会社梅の花に入社。2018年に代表取締役に就任。