少子高齢化による人口減少で、国内市場は縮小の一途をたどっている。商圏を広げるために、商品を海外に販売する越境ECに活路を見出す日本企業も少なくない。
ZenGroup株式会社は、今注目を集める越境EC分野で活躍する企業だ。海外に住む人に向けて、日本商品の購入代行サービスや海外向けサブスクリプションサービスを手がけている。
同社の代表取締役、スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ氏に起業時の苦労や事業の強み、将来の展望などを聞いた。
経験も経済的余裕もない状態から留学生4人で起業
ーー創業時のことをお聞かせください。
スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ:
経済的な余裕もなければ起業の経験もなかったので、最初は本当に苦労しました。外国人ということもあり、銀行口座を開設したり事務所を探したりするハードルも高かったです。
また、経営・管理(投資)ビザで起業したため、すぐに黒字化しなければビザの更新が難しく、早く結果を出さなければというプレッシャーも感じていました。
資金調達してからスキルアップして、徐々に軌道に乗せるという流れが一般的かもしれませんが、ビザの問題もあり弊社はそういった選択肢をとることが難しかったのです。
ーー越境ECの事業を始めた理由は何ですか。
スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ:
当時は収入がなければ生活が厳しい状況だったため、確実に成功できる事業をしたいと思っていました。
越境ECのビジネスを選んだのは、越境EC関連の会社で働いていた友人がいたことがひとつの理由です。最初はインバウンドビジネスも選択肢にありましたが、検討を進める中で、越境ECで成功できる道筋が見えてきたためこの事業に決めました。
弊社は創業10年を超える会社ですが、創業者の5人が欠けなかったからこそ、ここまで続けられたと思っています。問題が起きたときでも助け合って5人で続けたことが大きな力になりました。
豊富な知見を活かして購入者・出品者のニーズを満たす
ーー貴社の強みは何でしょうか。
スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ:
強みのひとつは、購入者と出品者の多様なニーズを理解していることです。たとえば購入者には、「商品の購入代行をしてほしい」「ワンクリックで購入したい」「とにかく何か日本の商品がほしい」など、さまざまなニーズがあります。
出品企業にも、物流だけ任せたいケースもあれば、マーケティングだけ担当してほしい、すべて丸投げしたいなどのケースがあります。
弊社には今までの経験から得た豊富な知見があること、さらに本社では、海外出身者が5割を超えるなど多国籍な社員が多いことから、出品者と購入者の多様なニーズを理解できています。こうしたニーズに沿ったサービスを今後2、3年で展開していく予定です。
また、海外在住者へ日本の文房具を毎月届ける「ZenPop(ゼンポップ)」というサブスクリプションサービスも好調です。
ーー創業してから印象的だったエピソード、嬉しかったエピソードを教えてください。
スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ:
創業当初は金銭的に余裕がなかったので、商品をたくさん買ってくれるお客様が出てきてくれたときは嬉しかったですね。
また弊社は外国人が経営する会社なので、多くの日本企業にとってはパートナーシップを提携するハードルが高いかと思います。そういった中でも、楽天グループ様やメルカリ様など日本の企業と提携できたときは本当にありがたく感じました。
そのほか、弊社は越境ECを事業としているため、お客様に商品を直接渡す機会がほとんどありません。そのため、商品を購入した方がインターネット上でポジティブな感想や口コミをあげているのを見ると、嬉しい気持ちになります。
海外への販売機会を逃さない新サービスをスタート
ーー今後の展望をお聞かせください。
スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ:
お客様が商品を海外に売りたいと思ったとき、弊社のサービスを思いついて、当たり前に利用してもらえるようにしたいと考えています。
弊社には独自の物流ルートや今まで積み重ねてきた知見があります。昨今、海外への既製品販売のルールは複雑化していますが、弊社は製品の英語名や通関コードを自動的に記入できる仕組みなどを導入しており、企業が躓(つまず)きやすい物流の課題を解決できます。
また、昨年11月に新しく「ZenLink(ゼンリンク)」というサービスを始めました。これは、お客様の自社サイトに海外からアクセスがあった場合、その国の言語でバナーが表示されるというものです。
今までは日本語表記だけでは、日本語が分からない外国人はサイトから離脱してしまっていました。しかし、この「ZenLink」を使い、相手が理解できる言語でバナーを表示すれば、商品の販売機会を逃さずに済みます。
特に小規模な店舗はウェブサイトにまでリソースを割けないことが多いので、こういった形で弊社が貢献していけたらと思っています。
編集後記
スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ社長は取材の最後に「商品を売ることは、国と国の交流にもつながります。商売が上手くいけば戦争や衝突は生まれないという話も聞きますし、弊社の越境ビジネスが巡り巡って世界平和につながると嬉しいです」と力強く語った。
商品を海外へ届けることで、国と国の文化交流も実現しているZenGroup。世界平和という大きな目標に向かう同社を、これからも応援したい。
スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ/Kyiv National T. Shevchenko Universityにて日本語を専攻し、2003年から1年間富山大学へ留学。帰国し、Kyiv National T. Shevchenko Universityにて修士号を取得。その後日本へ渡り、東京大学に研究生として入学し、修士号・博士号を取得。2014年、ゼンマーケット合同会社(現ZenGroup株式会社)を創業し、代表取締役に就任。