神奈川県横浜市に本社を構えるナカノ株式会社は、創業90年の歴史を持つ老舗企業だ。1934年の創業以来、衣類リサイクル事業と工場向け安全用品・衛生用品の販売を二本柱として事業を展開してきた。環境保護と安全な職場環境づくりに尽力する同社の特徴は、分業が一般的な繊維産業において、古着の回収から加工、販売まで一貫して行うビジネスモデルにある。社員の成長と幸せを重視する経営方針を掲げ、人材育成にも力を入れる。
今回は、2024年に代表取締役社長に就任した窪田恭史氏に、経営者としての思いや経営哲学などについてお話をうかがった。
商売人としての自覚が芽生え、家業へ転身
ーー家業を継いだ経緯を教えてください。
窪田恭史:
弊社は私の祖父が創業した会社でしたが、入社するつもりは全くありませんでした。大学卒業後は就職活動をして、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社します。そこではシステム導入プロジェクトに携わり、お客さま向けのシステム利用に関するアドバイスやトレーニングを担当していました。しかし、3年ほど勤めた後、キャリアについて深く考える機会がありました。
私のこれまでを振り返って見ると、幼少期に商売のようなことをしていたのです。たとえば、休み時間に友人の荷物を運ぶ代わりに、落書き帳を1枚もらうといった具合ですね。そのことを思い出し、自分が商売人の家に生まれたことを改めて実感したのです。
外部からアドバイスする立場も大事ですが、私は泥臭く社員と一緒に「商売」をしていく方が性に合っているのではないかと考え、家業に入ることを決意しました。そして、父親に「やらせてくれ」とお願いしたのです。
ーー貴社に入社後はどのような業務を担当しましたか?
窪田恭史:
最初は倉庫係として、商品の出し入れや在庫管理を担当しました。給料は半分になりましたが、社員と同じ目線で仕事ができる貴重な機会だと捉えていたので、倉庫業務をしながら、会社全体を見渡して自分に何ができるかを考えていました。
その中で気づいたのが、弊社が行っているリサイクル事業の重要性です。21世紀に入り、環境問題への関心が高まる中、弊社の事業は時代のニーズに合致していましたが、社員がその意義をあまり感じていないことに気づきました。
そこで、会社の歴史や仕事の意義を伝えるためにホームページを作成しました。外部向けの情報発信という目的もありましたが、むしろ社員に向けて、自分たちの仕事の面白さや誇りを伝えたいという思いのほうが強かったですね。
社員の力が生み出す、ナカノの競争力
ーー貴社の事業内容について教えてください。
窪田恭史:
弊社の事業は大きく二つの柱で成り立っています。一つは創業以来続けている衣類リサイクルです。古着を収集し、ウエス(工業用雑巾)や軍手に加工したり、海外に輸出したりしています。もう一つは、工場向けの安全用品や衛生用品の販売です。この二つの事業を通じて、環境保護と安全な職場環境づくりに取り組んでいます。
特徴的なのは、衣類リサイクルにおいて、収集から加工、販売まで一貫して行っている点ですね。繊維産業は分業が一般的ですが、弊社では一貫して自社で手がけています。また、用品事業との相乗効果も強みとしており、多くのお客さまとのお取引で培ったノウハウを活かし、お客さまのニーズに合わせたご提案をしています。
ーー貴社が成長し続けてきた原動力は何ですか?
窪田恭史:
弊社の成長は間違いなく社員によって支えられています。特許技術や唯一無二の商品があるわけではない弊社にとって、最大の資産は人です。社員一人ひとりの能力とモチベーションが会社の競争力そのものなのです。
この認識のもと、社員の能力を高め、長く働いてもらうために、さまざまな取り組みを行ってきました。たとえば、2006年に取得したISO14001は、環境マネジメントシステムの構築だけでなく、社内業務の整理や社員のコミュニケーションの活性化も目的としています。
また、全社的なITシステムの導入や、グループウェアなどのICTツールを使った情報共有の仕組みづくりなども行い、社員がより良い仕事ができるような環境づくりに努めています。
社員の幸せが会社の成長に直結する
ーー人材育成について、どのように考えていますか?
窪田恭史:
私の経営哲学の中心にあるのは、社員の成長と幸せです。売上や利益を上げることも大切ですが、それは結果であって目的ではありません。社員が能力を高め、良い仕事ができるようになれば、それは彼らの自尊心の向上や幸福感につながります。そして、それが結果的に会社の成長にもつながるのです。
具体的な取り組みとしては、コンピテンシー(能力)制度を導入し、社員の能力向上を評価する仕組みをつくりました。ただし、こういった制度を導入しても、それを使いこなせる文化や環境が整っていなければ意味がありません。だからこそ、制度よりも企業文化や環境づくりを最も重視しています。
ーー今後の組織づくりについて、どのようなビジョンをお持ちですか?
窪田恭史:
各個人が自由に考え、行動することができる組織を目指しています。ただし、それが単なる無秩序にならないように、共通の価値観や判断基準を持つことが重要だと思います。このような組織をつくるためには、まず私自身が率先して行動しなければなりません。押し付けではなく自らの行動で示し、それを見た社員たちが少しずつ変わっていく。それが組織の成長につながると考えています。
具体的な目標やどんな会社になりたいかといったことにはあまりこだわっていません。むしろ、10年後、20年後に「想像もつかなかった姿になったね」と語り合えるような会社になれば素晴らしいと考えています。そのために、日々の積み重ねを大切にし、これからも努力していきたいと思います。
編集後記
窪田社長の言葉からは、社員一人ひとりを大切にし、その成長を通じて会社全体の発展を目指す姿勢が強く感じられた。90年の歴史を持つ企業でありながら、新しい時代に適応するための変化を恐れない姿勢も印象的だ。同社の「想像もつかなかった姿」が、どのような形で実現されるのか、今から楽しみでならない。
窪田恭史/1973年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)にてコンサルティングおよび研修講師業務を担当。2000年、ナカノ株式会社に入社。2007年リサイクル部事業企画室長、2019年取締役副社長を歴任し、2024年に代表取締役社長に就任。