※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。
歯科医師として働き、医療法人の理事長として活躍していた下川穣氏。クリニックで慢性疾患に悩んでいる患者さんたちの根本治療を目指した生活習慣の改善に成功したカギは、人が持つ菌だった。
菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに「菌ケア」による根本治療の可能性を感じ、「健康と美と、菌の関係」に深く感銘を受け、株式会社KINSを設立した代表取締役の下川氏。世界の人たちの健康と美をサポートをする同社の取り組みについて、下川社長に話をうかがった。
バスケットに明け暮れた学生時代、元アスリートの父に反対されて勉学の道に
ーー社長の学生時代で印象に残るエピソードを教えてください。
下川穣:
私の父は若い頃にバレーボールをやっていて、日本代表に選ばれてもおかしくないレベルでした。私はバスケットをやっていたので「スポーツで父に認められたい」という気持ちがありました。
受験のときに、「バスケットが強い高校に行きたい」と考えていましたが、スポーツ推薦などでスポーツでの活躍が認められ、その道に進むのであればいいけれど、もしそうでないのであれば、その道は厳しいのではないかと父に反対されました。
父の助言もあり受験の際にスポーツ重視ではなく学力重視で高校を選びましたが、この選択は、私にとって勉学を極める大切な一歩となりました。学生時代の大きな意思決定でしたが、今でも家族の会話に出るほど、その道に導いてもらったことを父に感謝しています。
ーー貴社を創業する前に歯科医師をしていたそうですが、そのときのことを教えていただけますか。
下川穣:
私はKINSを創業する前、歯科医師として働いていましたが、30歳のときに医療法人の理事長を任されました。歯科だけではなく皮膚科、婦人科などさまざまな診療科がある総合クリニックでしたが、歯科医師の仕事をしながら、年上の医師のマネジメントも含めた医療経営や資金調達なども行い、4年ほどかけて売上を約4倍にしました。
理事長時代の仕事の一環として共同研究を始めたのが、マイクロバイオーム(※多種多様な微生物の一群。特に体内の腸内細菌などを指す)という菌の研究でした。そのときの職場環境に対する悩みと、マイクロバイオームへの興味が重なったこともあり、菌を活用した事業で世の中に価値を提供できる会社をつくりたいと思い立ち、34歳のときに起業しました。
社長自らインスタライブに出演、ユーザーや患者の声を聞きダイレクトにつながる戦略を展開
ーー貴社の事業について教えてください。
下川穣:
弊社の事業の中心は、ラボで菌のバンクを運営することです。さらに、誰もが持っている常在細菌から生まれたヘルスケアプロダクトの販売や動物病院、クリニックなどの医療サービスも提供しています。
KINSブランドのお客様だけに喜んでいただくのではなく、より多くの皆様に広く貢献したいという思いで、BtoBにも力を入れています。ラボで検出した菌を活用し、創薬につなげるための研究をしたり、原料メーカーの立ち位置から、化粧品会社や食品会社の商品やブランドを支援したりしています。
また、私たちは全てインハウスで行っていることが大きな強みです。研究は自己満足に陥りがちで、顧客のニーズをきちんと把握しておかなければ、お金と時間をかけたにもかかわらず、目的が不明確のまま目に見える成果が出せない、という結果になってしまうこともあります。
弊社では、私自身がインスタライブなどを通じてユーザーと直接つながり、リアルな声を聞いています。スピード感を持って顧客のニーズを常に把握しようとしている点も、弊社の強みといえますね。
慢性疾患で苦しむ人を「菌」で救うための挑戦は続く
ーー現在、貴社が挑戦していること、継続していることはありますか?
下川穣:
私達は、マイクロバイオーム創薬の実現に向けた研究にも取り組んでいます。マイクロバイオーム創薬は、人と微生物の共生関係を維持したまま、そのバランスに働きかけることによって疾患の治療や予防を目指すことができる領域です。
加えて、健康維持や疾患予防に役立つ可能性があるポリアミン産生乳酸菌を独自に発見し、より詳しく調べるためゲノム解析や機能解析を進めています。今後、この独自菌であるポリアミン産生乳酸菌をプロバイオティクスとして利用した自社商品の開発や、菌自体を原料販売に活用するなど、消費者や生産者に新たな価値を提供することを目指して研究・開発を続けています。
その他、世の中の慢性疾患を改善する取り組みを継続し、さらに広げていきたいと思っています。
ーー貴社の成長を拡大するために、どのような人材を求めていますか?
下川穣:
素直で心がきれいな人。そして、「普通」というレベルで満足しない人を求めています。他の人たちも努力しているので、私たちが普通に頑張っているだけでは差が出ません。「普通」という域を超えて、いかに競合に勝っていくか、どこでどう結果を出すかといったことを常に考えているような人材が望ましいですね。ただ、儲け主義の発想を持つ方は弊社とはカルチャーが合わないと思います。
編集後記
国内トップの地位にある生命科学研究機関との共同研究によって「菌」の本来持つ力に魅了され、理事長職を捨てて起業した下川社長。自らインスタライブを行い、患者やユーザーの声を聞き、原料やプロダクト、クリニックなどさまざまな商品やサービスを通じて、慢性疾患に悩む人を救いたいという思いで精力的に事業に取り組んでいる姿が印象的だった。
クリニックの理事長の時代に培ったビジネス手腕によって、事業を展開する下川社長のさらなる活躍を期待したい。
下川穣/1985年生まれ。福岡県出身。岡山大学歯学部卒業。口腔内・腸内フローラを専門とする歯科医師。遺伝子や菌を専門とした都内医療法人の理事長を務め、国内トップレベルの生命科学研究機関との共同研究に携わる。2018年、株式会社KINSを設立。「菌ケア」を正しく伝える第一人者としてKINS(キンズ)のサービスをスタート。目に見えた症状だけをケアする対症療法ではなく、症状を根本的に改善することで健康と美を育むメソッドを提唱している。著書『腸活にも、美肌にも、ダイエットにも!菌ケアで美しくなる』が幻冬舎より2021年に発売。